岡本神草の時代展 | けろみんのブログ

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もよ5月30日から7月8日まで、千葉市美術館で開催されています。昨秋京都国立近代美術館で行われた展覧会の巡回で、最終会場です。
38歳で早逝したことと完成作が数少ないことにより、あまり知られていない画家ですが代表作「口紅」は強烈な印象を残す作品です。
図録表紙の「口紅」です。


今回の展覧会では「口紅」「拳を打てる3人の舞妓の習作」「婦女遊戯」などの代表作とその草稿、スケッチ帳、日記帳などが展示され、更にさライバルや同級生や師匠らの作品を同時に見ることにより大正時代岡本神草が作り上げた色香漂う世界がつかの間ではあるけれど、ひと時代を染め上げたことを検証するものです。

神草作品約100点の大部分は草稿とスケッチであり、本作品で現存するものはわずかです。図録には行方不明になっている作品の写真があります。今後発見されることをいのります。
未完成の本図を見ると出来上がっている部分が素晴らしいので「あぁ、完成させて欲しかった…」と思いました。
神草の日記によるとかなりお酒を嗜み、遊び好きだったようです。
中々完成しなかった理由はそのあたりにもあるのかもしれません。

彼の追悼に際しては「苦みばしった京の優男」「早熟で再起活発な一目置かれる存在」「制作にあたって粘り強い」などという言葉が見られます。

純真だった20歳までに竹久夢二や秦テルオからの影響をうけ、21歳ころから遊里に遊び次第に頽廃的な性の世界を夢想。エロ、グロみのある「春雨」などを描きます。その後甲斐庄楠音など若い仲間と共に「密栗会」活動を経て代表作「口紅」に取り掛かります。

「口紅」
豪華な黒の着物から艶めかしい赤の襦袢をのぞかせ、身八つ口から二の腕まで白く細い腕を見せる舞妓。だらりの帯と着物のテロっとした質感の横に直線的な燭台が引き締める。ロウソクの光は金色の光の輪となり頭を照らし出す。源氏香(最近この模様について教わりました)模様のおしゃれな鏡を見る舞妓の目つきは妖艶、紅を差す筆で曲がる口元と相まって楽しげにも見えます。髪の生え際、眉は丁寧にぼかされて肌は内側から発光しているようにほんのり上気しています。

この作品を見ながら「おそらく男性からみると、化粧というものは男性に喜んでもらえるよう媚びを売る行為でこの作品もお座敷前に客のため精一杯着飾る健気な様をえがいたのだろうと思うんだろうな」と想像しました。
竹内栖鳳はこの絵をこんな風に評しています(原文を意訳し要約)
「この絵の良いところは舞妓の可愛らしさや全体の姿勢が舞妓らしいというものでない。口紅をさす姿勢を借りてある直感した妖麗さを表現したというような(中略)女のうちにあるあるものを非常によく表現していると思う」
女学生Tとの耽溺のとき、お化粧を直す姿があまりに美しく絵のようであった、と神草の日記にあります。それが夢と現に混ざり合い、濃厚なエロチシズムを帯びた作品が生まれたのでしょう。
私には紅を差す自分の姿を手鏡で映し出すとき、自分の美しさに夢中になっておもわず官能的な姿を無防備に晒した様を丁寧な肌の質感とで捉えたように思えます。
女性ならわかると思いますが化粧する、という行為は人に良く見せようと考えてするものでなく綺麗になった自分が嬉しいって時がありますよね。神草はそんなところまで見抜いていたのではないか…傑作と思います。

もう一つ「拳を打てる三人の舞妓の習作」
こちらは未完で、完成した作品は行方不明になっています。
国展に出品するために制作していたが時間切れで(詳細な予定表が展示されていました)既に完成しつつあった真ん中だけをトリミングして提出したため、切り取られて他の部分は下絵のまま放置されています。
黒と赤の強い画面がゴシック調の雰囲気さえ感じ、顎のライン、唇、目元、手先とどこをとっても繊細な表現で心震えます。

図録裏面です。

未完成の着物の柄の美しさ。赤い半襟に金、黒味が強い帯留め、髪飾り。

顔の輪郭のぼかし方はスフマートを意識したのでしょうか。
この作品の詳しいことが書いてある記事がテレビ東京のサイトにありました。
美の巨人たち 興味深いです。

岡本神草が残された文章の中にこの作品について書いてある部分があります「あの絵は一言にして言えば女性の神秘さと云ふものを描いて見たいとおもつたのでした。美しい顔、美しい掌と指、トルソとしての美しい肉体、燦爛と輝く様々な髪飾品、絢爛で高貴で柔軟なカスチュームの美、つまり満飾せる女性の美、その神秘さ、ある宗教的な感じ、そんなことを表現したく思いました。」


密栗会に参加し、神草と交流のあった甲斐庄楠音「横櫛は「口紅」と共に国展で注目されました。
美術館前の柱にも描かれています。


この作品岩井志麻子の小説の表紙絵になっています。

神草の「口紅」と共に国展で注目されました。
本作品は丁寧な仕上げで顔の仕上げなどレオナルド・ダ・ヴインチの影響が感じられます。

先日まで東京藝術大学大学美術館で開催されていた「東西美人画の名作 《序の舞》への系譜」では甲斐庄楠音の作品が、2点あり、他の作品との全く違った画風で異彩を放っていました。岸田劉生が甲斐庄の作品を例えた「デロリ」と呼ばれる作風でインパクト大です。


神草も甲斐庄も昭和期になると線のスッキリした画風に変わっていきます。
神草は菊池契月に師事するようになり画風を模索している過程にあったところ突然亡くなってしまいました。

大正デカダンの濃厚な世界に浸り、常設展で更に肉筆浮世絵を中心とした素晴らしい作品を見せていただき美術館を後にしました。



おまけー

作品も良かったですが、一緒にみた友人の画家の視点での感想がとても興味深くて忘れられない展覧会になりそうです。


その後行きと同じくモノレールに乗って(面白いから)ピザの美味しいイタリアンランチを食べながら、楽しくおしゃべりをして帰宅しました。
2種類のトッピングが選べます。鯛と羊肉という変わったところを選択してみました。鯛が美味しかった。ピザ生地がとっても美味しい!

ティラミスとスコーン。

「デロリ」の作品をたくさんみてみたいと思う展覧会でした。