上村松園ー美人画の精華ー
山種美術館にて、8月29日から10月22日まで開催されています。
初代山崎種二との親交もあった上村松園の収蔵品全18点全てを展示。その他に浮世絵から平成の現代美術まで、女性を描いた作品を展示しています。
おととい8月27日は上村松園の亡くなった日でもありました。
第1章は17点全てが上村松園作で「蛍」「新蛍」「牡丹雪」などの松園の代表作を含みます。「蛍」は寝る前に蚊帳を吊ろうとしている女性が足元の蛍に気がついて眺めている場面を描いています。浮世絵の喜多川歌麿の描いた構図に似ていますが艶かしくならないよう、涼しげに描かれています。青い絞りの浴衣に黄色味の縞の帯は横で結び、透明な鼈甲の櫛や簪で爽やかにまとめており、上品です。
松園は掛け軸の表装にもこだわりがあり、素敵な裂を使用しています。
幼い頃から日本髪が好きで新しい結い方を考えて友達の髪を結ってあげたりしていたそうで、時が経つにつれて美しい昔の日本髪が忘れられていくのを嘆く気持ちもあって日本髪の女性を描き続けたとのことです。特に念入りなのは生え際で、髪を一本一本細い面相筆で描き薄墨でぼかしてあり、おでこの丸みとの境目が綺麗です。この生え際の描写について音声ガイドで聞いてからはずっと、作品の生え際ばかり眺めていました。画家それぞれ描き方が随分違います。
生え際の描き方は浮世絵の版画の頃から腕の見せ所であったそうです。
第2章は「文学と歴史を彩った女性たち」で上村松園、山種美術館所蔵の「砧」が展示されています。この作品のみ写真撮影可能です。
えんじ色の小袖に金銀の枯葉模様の打ち掛けで、寂寥感を表しています。
夫の身を案じ、遠くを見ています。これから砧を打って夫に警鐘を鳴らすのです。
砧とは、絹織物を柔らかく光沢を出すために木槌でたたくことをいいます。この足元に置かれた布地を叩くのでしょう。裸足のつま先が少し赤く寒そうです。
これは「序の舞」を描いた時の上村松園の言葉です。私は宮尾登美子の小説「序の舞」で上村松園を知ったので、画壇という男社会に立ち向かい、不倫そして未婚の母、年下の男性と恋に落ちるなど、情熱的で強い女性としてイメージしていました。
ところが作品をみると全てが清らかで、凛とした気高さを感じます。上村松園は(小説が真実とは限りませんがそうであると仮定して)画壇での妬みや、冷たい世間の目、愛するものとの別れや母親の死など辛いことがあるたび魂を研ぎ澄まし、余分なものを振り払った結果を絵に表現しているのではないかと思いました。
第3章「舞妓と芸妓」第4章「古今の美人」
今回の展覧会では伊東深水、小倉遊亀など魅力的な作品もありました。また鈴木春信の初々しい少女を描いた浮世絵、月岡芳年の風俗画なども興味深いです。
しかし美人画に限って言えば上村松園には突き抜けた魅力を感じます。洗練の極致です。