胸膜癒着術の話の続きです。
入院手続きをして、荷物を整理する間もなく、2人の研修医が病室に入ってきました。
挨拶もそこそこに、すぐに癒着術を始める準備をしています。
まって、まって。まだ着替えてもいないんですけど。
研修医のあなたたちがやるって聞いてないんですけど、それって患者の承諾は必要ないんですか?
入院の予約時間より早い時間に病室に入ってきて、なぜそんなに急がせるんですか?
最初から印象悪いです。
肺にドレーンを差し込むことがこれほど困難だとは、思いもよりませんでした。
むき出しになった私の背中の上で2人の研修医が相談し始めました。
「場所はここでいいよね」「そこが一番いいかな」「じゃあ、どっちがやる?」など、
友達同士の会話のような頼りない会話をしています。
でも仕方ありません。
どうか早く済みますように。
…全然早く終わりませんでした。
局所麻酔も痛いし、ドレーンを入れるのが更に激痛。
ドレーンがなかなか入らず、無理やりグリグリと押し込んでいるのが伝わり、何とも言えない痛さです。
我慢できない激痛に耐え切れず「痛い」「痛い」と何度も声が出てしまいます。
研修医達は「おかしいな」「もう1回やってみよう」
「すみません、もう一度違う場所でやります。また麻酔しますのでチクッとしますよ」
チクッとどころじゃないでしょ、あんたたち、局所麻酔の痛さ知ってるの?
3回やり直したと思います。
人の身体を何だと思っているんだ。練習台とでも思っているのかと、ネガティブな思いが頭をもたげてきました。
痛いし情けないし、涙が出てきました。
いい大人が泣いたらダメだと思ったのですが、一度涙がこぼれてしまったらもう止まりません。
涙を拭きたくても、急がされて何も持たずに横たわったので、マスクでふきふき。
研修医達は結局、指導医I先生を呼びに行きました。
I先生は
「ごめんね、痛い思いをしちゃったね。もう一回だけやらせてくれる?」
「身体が小さくて肋骨の間が細くて、なかなか入らないんだよ」
「細いドレーンにしてあげたいけど、この後に薬剤を流しこむのに、これ以上細い管にするのは無理なんだよ」
私は、返事もしたくなくて(なにしろ不貞腐れてますから)、首をコクンとするのが精いっぱいでした。
もともとしたくない治療だったし、もうやめます、帰ります。
本当はそう言いたかった。
4度目、超激痛と共にグリグリと超力任せにドレーンが挿入されて、やっと解放されました。
看護師、研修医、指導医がいなくなって、しばらく呆然自失です。
頭が真っ白。何も考えられないし、管に繋がれて動けない。
でも終わりました!
あとは、胸水が抜けてドレーンからタルクを入れる処置が待っています。
この時は、管を挿入するだけでこんなに大騒ぎして、
タルクを入れる時はどれだけ苦しむだろうかと、ひたすらビビりまくっていました。