さて、前回の続きになりますが、令和7年度年金制度改正のうち、今回は、令和8年(2026年)4月1日から施行される法改正事項について解説します。
【1】離婚時年金分割における標準報酬改定請求期限の伸長
この法改正は、実は民法改正に伴って行われたものです。
民法第768条第2項ただし書の規定により、財産分与の請求期限については、従前の「離婚の時から2年以内」とされていたものが、「離婚の時から5年以内」と伸長されました(令和8年4月1日施行)。
家庭裁判所においては、離婚時年金分割(合意分割)における按分割合の決定も財産分与とまとめて行われることが少なくないことから、従前は「2年以内」とされていた離婚時年金分割(合意分割)における標準報酬改定請求の期限についても、離婚等をした日の翌日から起算して「5年以内」に行うことが原則となりました(令和8年4月1日施行)。
なお、3号分割標準報酬改定請求については、厚生年金保険法施行規則第78条の17の規定により「離婚が成立した日又は婚姻が取り消された日等の翌日から起算して2年以内」にするものとされていますが、こちらも当然「5年以内」に改正されるものと思われます。ただし、厚生労働省令の改正は、令和8年2月又は3月に公布される予定となっていますので、正式に公布されるまでお待ちください。
また、合意分割における按分割合に関して、離婚等をした日から5年以内に家庭裁判所に審判又は調停の申立てを行ったところ、離婚等をした日から5年を経過した後に、請求すべき按分割合を定めた審判が確定し、又は請求すべき按分割合を定めた調停が成立したときは、どのような取扱いになるのか、社会保障審議会年金部会で問題となりました。
厚生労働省事務局としては、現行の厚生労働省令(厚生年金保険法施行規則第78条の3)と同様に、請求すべき按分割合を定めた審判が確定し、又は請求すべき按分割合を定めた調停が成立したときから「6月以内」に年金事務所に対して標準報酬改定請求の手続を行うことになると回答しています。まあこれも、おそらくそのようになるのでしょうが、やはり改正厚生労働省令が公布されるのを待つしかありません。
【2】在職老齢年金制度における支給停止調整額の引上げ
人手不足が深刻となる中、在職老齢年金制度が高齢者の労働参加の妨げとなり、労働意欲を削いでいるのではないかとの声があります。
そこで、働きたい高齢者がより働きやすい仕組みとすることから、在職老齢年金制度における支給停止調整額を大幅に引き上げることとなりました。
もちろん、この改正事項に対しては、支給すべき老齢厚生年金の総額を増やし、年金財政を悪化させることとなるため、反対する見解もあります。
※ 令和4年度末現在、65歳以上で在職している老齢厚生年金の受給者約308万人のうち、全部又は一部が支給停止されている在職支給停止者は16%となっています。
令和7年度現在における在職老齢年金制度の「支給停止調整額」は、厚生年金保険法第46条第3項の規定により「48万円」(法定額)とされており、令和7年度における実際の支給停止調整額は「51万円」となっています。
この在職老齢年金制度における「法定額(48万円)」が「62万円」と大幅に引き上げられることとなったのです(令和8年4月1日施行)。
ただし、令和8年度以降における実際の支給停止調整額については、「62万円に令和7年度以後の各年度の物価変動率に実質賃金変動率を乗じて得た率(=名目賃金変動率)をそれぞれ乗じて得た額(1万円未満の端数は四捨五入)」と、毎年度、改定されます。
この法定額の「62万円」については、令和6年度における実際の支給停止調整額「50万円」を基準として、令和6年度価額により換算して「62万円」と引き上げたものです。
ですから、令和8年度における実際の支給停止調整額は、62万円を上回り、63万円か64万円、あるいは65万円になるかもしれないと予想されています。
ということで、令和8年度における「実際の支給停止調整額」につきましては、令和7年平均の全国消費者物価指数が公表される令和8年1月23日に、同時に公表される予定となっています。
※ ここでちょっと豆知識になりますが、現在において「名目手取り賃金変動率」と「名目賃金変動率」とは、同じ率となるんですよ😃
⑴ 名目手取り賃金変動率
=物価変動率×実質賃金変動率×可処分所得割合変化率(1.000)
⑵ 名目賃金変動率
=物価変動率×実質賃金変動率
以上のように、すでに厚生年金保険料率が「1,000分の183」で固定されていることから、可処分所得割合変化率が「1.000」となっているためです。
[注] 第4号厚生年金被保険者に係る厚生年金保険料率については、令和7年度現在において、未だに「1,000分の183」に達していませんが、該当者数が少ないため、可処分所得割合変化率に与える影響はほとんどありません。
【3】確定拠出年金法による簡易企業型年金の廃止
企業型年金加入者の資格を有する者の数が300人以下の中小事業主に対しては、その事務負担等を軽減させるため、設立時に必要な書類等を削減して設立手続を緩和する「簡易企業型年金」という制度がありました。
しかし、第1号等厚生年金被保険者の全員を簡易企業型年金の加入者としなければならないなどの制約があったためか、中小事業主のニーズに合わず、利用実績が全くないことから、令和8年3月31日の終了をもって「簡易企業型年金」の制度は廃止されます。
社労士受験生にとっては、覚えることがわずか1つでも減りますので、ありがたい法改正かもしれませんね😉

