令和7年公的年金制度改革法により、令和8年4月1日から、離婚時年金分割における標準報酬改定請求の請求期限が改正施行されます。

 

🔶令和8年3月27日付け官報(号外第71号)

 

 

原則として、次の①~③に掲げる日の翌日から起算して5年」(改正前:2年)を経過した場合には、標準報酬改定請求をすることができないとされています(厚生年金保険法施行規則第78条の3)。

 

① 離婚が成立した日

② 婚姻が取り消された日

③ 事実婚関係が解消されたと認められる日(事実婚関係から引き続き法律婚期間を有する場合を除く)

 

※ この「5年」は、上記①~③に掲げる日(離婚等が成立した日)が「令和8年4月1日以降」にある場合に適用されるものであり、離婚等が成立した日が令和8年3月31日以前にあるときは、改正前の「2年」が適用されます。

 

この改正規定は、民法第768条第2項の規定による「財産分与請求権の除斥期間」が「2年」から「5年」に伸長されたことに伴い、同時に改正施行されるものです。

 

⑴ 家庭裁判所に申立てをした場合の特例

当事者間で按分割合についての合意がまとまらず(合意ができず)、離婚等が成立した日の翌日から起算して5年を経過する前に、按分割合の決定に関し、家庭裁判所審判又は調停の申立てをしたものの、審判が確定し又は調停が成立する前に5年という請求期限が経過してしまうことがあります。

 

このような場合においては、(5年を経過した後であっても)審判が確定し又は調停が成立した日の翌日から起算して6月を経過する日までに標準報酬改定請求を行えばよい、とする特例があります(厚生年金保険法施行規則第78条の3)。

 

この「6か月以内」との特例規定は、もともとは「1か月以内」とされていたのですが、その期間内に会社から出張を命じられたり何やらと忙しく、標準報酬改定請求の手続をすることが困難であるという意見が多く出てきたことから、令和2年8月3日以降6か月以内」と伸長したものです。

 

⑵ 一方当事者が死亡した場合の特例

離婚等が成立し、按分割合も定められたが、標準報酬改定請求をする前に当事者の一方が死亡した場合は、どうなるのでしょうか?

 

この場合、当事者双方の合意内容が公正証書等により客観的に明らかであるならば、当事者の一方が「死亡した日から起算して1月以内」に、標準報酬改定請求をすることができるという特例があり、この場合、当事者の他方による標準報酬改定請求があったときは、当事者の一方が「死亡した日の前日」に、標準報酬改定請求があったものとみなします(厚生年金保険法施行令第3条の12の7)。


※ 「死亡した日の前日」とは、当事者の一方が法的な意思表示をすることができた最後の日に標準報酬改定請求をしたものとみなすという意味です。

 

すなわち、離婚等が成立したとしても、按分割合が決定される前に当事者の一方が死亡した場合には、標準報酬改定請求をすることができないのです。

 

さて、こちらの「1か月以内」に関しては、この特例期間についても「6か月以内」とするべきではないの? ちょっと短すぎるんじゃないの? という社労士受験生の文句が聞こえてきそうですね。

 

実際、この「1か月以内では短すぎるんじゃないか問題」は、訴訟(東京高判平成26年12月25日)にもなっていますし、行政不服申立ての対象にもなっているのですが、現在のところ、改正されるという話は聞きません。

 

その「1か月以内」と期間が短い理由については、社会保険審査会裁決(平成28年8月31日)で解説されていますので、ちょっと覗いてみましょう!

 

[注] 家庭裁判所より、按分割合が決定された旨の調停調書又は審判書等の交付を受けた場合であっても、標準報酬改定請求をする前に当事者の一方が死亡した場合には、生存当事者は、当事者の一方が死亡した日から起算して「1月以内」に、標準報酬改定請求をする必要があります(どんなに忙しくてもですよ!)。


絶対に離婚したい相手であろうとも、離婚時年金分割等のことを考えれば、死んでもらっては困るのです。

 

※ 実際の裁決文を読みやすくするため、少し加工しています。

 

⑶ 社会保険審査会裁決(平成28年8月31日)

① 標準報酬改定請求をする前に、 当事者の一方が死亡した場合には、死亡と同時に当該死亡当事者に係る標準報酬は存在しないこととなり、分割のための改定又は決定をする対象を欠くから、理論的には、生存する他方当事者は、標準報酬改定請求をすることはできないというべきである

 

② このことは、標準報酬自体には権利性が認められないことに加え、年金受給権が一身専属的な権利とされ(最高裁判所第三小法廷判決平成7年11月7日参照)、受給権者の死亡によって消滅する(厚年法第45条、第53条第1号、第63条第1項第1号参照)こととされている公的年金制度の趣旨に照らし、死亡した当事者の一方の年金分割制度に関する地位ないし権利が、相続等によって他の者に承継されることはないことからも、当然のことである。

 

③ しかし、厚生年金保険法施行令第3条の12の7は、例外的に、当事者の一方が死亡した場合においても、生存する他方当事者が標準報酬改定請求をすることができる場合の特例を規定している。

 

④ すなわち、当事者の一方が死亡した日から起算して「1月以内」に、厚生年金保険法第78条の2第3項に規定する方法(当事者が標準報酬の改定又は決定の請求をすること及び請求すべき按分割合について合意している旨が記載された公正証書の添付その他の厚生労働省令(厚生年金保険法施行規則第78条の4第1項)で定める方法であり、請求すべき按分割合を定めた確定判決の謄本又は抄本を添付する場合がこれに含まれる。)により、生存する他方当事者による標準報酬改定請求があったときは、当事者の一方が死亡した日の前日に標準報酬改定請求があったものとみなすと規定している。

 

⑤ したがって、離婚した当事者の一方が離婚後に死亡した場合には、死亡した日から起算して1月を経過したときは、他方の当事者は、標準報酬改定請求をすることができないことになる。

 

⑥ 厚生年金保険法施行規則第78条の11第2項第4号が、添付すべき生存証明資料が「標準報酬改定請求のあった日前1月以内に作成された」ものであることを求めているのは、上記規定の趣旨を実効あらしめるためであると理解されるのである。

 

≪参考条文≫

⑴ 標準報酬改定請求書に記入すべき事項については、「厚生年金保険法施行規則第78条の11第1項」に規定があります。

 

⑵ 標準報酬改定請求書に添付すべき書類については、「厚生年金保険法施行規則第78条の11第2項」に規定があります。

 

※ 上記第2項第4号は、次のように規定していることを確認しておいてください。

「標準報酬改定請求のあった日前1月以内に作成された当事者の生存を証明することができる書類(厚生労働大臣が住民基本台帳法第30条の9の規定により当該当事者に係る機構保存本人確認情報の提供を受けることができないときに限る。)」


※ 標準報酬改定請求をする日の前日以前1月以内の生存証明書なのですから、例えば、1月前には生存していましたとの生存証明書でもよいのです。この時間軸を逆にして、当事者の一方が死亡した日から起算して1月以内と同義になるよね、ということです。


【具体例】

当事者の一方が9月1日には生存していたとの生存証明書を添付して、翌10月1日に標準報酬改定請求を行った。この場合において、当事者の一方は9月2日に死亡したことも考えられなくはありませんよね。そうすると、9月2日から起算して1月以内、すなわち、10月1日に標準報酬改定請求を行うことと同じことになります。


 

現在においては、多くのケースで厚生労働大臣は「機構保存本人確認情報」を受けることができますので、「生存証明書」を添付する必要はほとんどありませんが、離婚等をした当事者に外国人がいる場合には、問題となることがあるようです。

 

[注] 実務的には、添付書類として、公正証書の謄本又は抄本の中に「電磁的記録をもって作成された公正証書に記録されている事項の全部又は一部を出力した書面(電磁的公正証書)を含む」こととされています。

これは、「公正証書に係る手続のデジタル化」と呼ばれるもので、令和7年10月1日から施行されている改正事項ですが、法務省関連の改正事項ですので、ここでは詳細を割愛することとします(法務省民事局による資料だけ貼っておきます)。

公正証書に係る一連の手続のデジタル化について

https://www.moj.go.jp/content/001447151.pdf

 

 

以上、過去の社労士試験において正解率がかなり低くなっている学習事項ですから、十分に気をつけてください!!