高額療養費制度の見直しについては、SNS上でかまびすしい騒動となっていますね。

 

今朝(4月12日)は、「多数回該当」と「年間上限」を勘違いされている方がいらっしゃいましたので、ここでは、その叩き台となるシミュレーションを1つだけ(「補遺」を最後に追加していますが)示しておきます。

 

[注] 高額療養費全体の在り方を知るには、数十種類のシミュレーションをするのが望ましいのですが、今回は、長期にわたり療養等を必要とする者の「多数回該当」と「年間上限」との関係に絞ったシミュレーションですので、何卒ご了承ください。

 

🔶高額療養費制度の見直しについて

https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001621844.pdf

 

※ 比較する対象時期としては、令和8年4月現在で適用されている「高額療養費算定基準額」と、令和9年8月から適用される見込みの額にしておきましょう(国会で修正される可能性もありますが・・・)。

 

【1】モデル人物の設定

健康保険組合には「付加給付」という仕組みがあり、協会管掌健康保険の被保険者と給付水準に格差がありますので、モデルとなる人物は「協会管掌健康保険」の被保険者(70歳未満)とします。また、その者の「標準報酬月額」については、協会管掌健康保険の被保険者の平均的な額である「32万円」としておきます。

 

そうすると、令和8年4月現在、その者の「高額療養費算定基準額」は、次のようになります。

 

80,100円+(総医療費-267,000円)×1%

 

※ この「80,100円」という定額の数字は、賞与(ボーナス)込みの年収を月収に換算した額の25%(4分の1相当額)として設定されたものです(平成18年に設定された当時の月収換算額が約32万円であったことから)。

 

さて、問題は「総医療費」です。実際問題として、これは毎月ごとに変動するものではありますが、シミュレーションとしては計算しやすいように「100万円」としておきます。

 

【2】多数回該当とは?

多数回該当」の仕組みは、昭和59年健康保険法等改正の際に、参議院の修正として導入されたもので、療養のあった月以前の12か月以内に、すでに高額療養費の支給対象となった月数が「3以上」ある場合にあっては、4回目からは、高額療養費算定基準額が引き下げられるというものです。

 

※ すなわち、1年間(12か月間)において多数回該当となる月数は、最大で「9か月」あることになります。

 

上記シミュレーション・モデルとなる人物の場合の多数回該当による高額療養費算定基準額は「44,400円」となります。

 

それでは、1年間にわたり、月々の総医療費を「100万円」と仮定した場合のシミュレーションをしてみましょう。

 

【3】現行(令和8年4月現在)の年間自己負担額は?

{80,100円+(100万円-267,000円)×1%}×3月+(44,400円×9月)

=87,430円×3月+399,600円

=262,290円+399,600円

=661,890円

 

※ この者は、年間で10万円(原則)を超える支払をしていますので、確定申告における「医療費控除」の対象にもなります。高額療養費の支給対象になると医療費控除の対象にならないという誤解もあるようですが、そんなことはありません。

 

[注] 医療費控除で問題となり得るのは、全くの無収入で支払うべき所得税等がない場合には医療費控除の対象になりませんので、年間で10万円を超える医療費関連費用等を支払っても還付の対象にはならないという点です。

 

【4】令和9年8月以降(予定)の年間自己負担額は?

{85,800円+(100万円-286,000円)×1%}×3月+(44,400円×9月)

=92,940円×3月+399,600円

=278,820円+399,600円

=678,420円

 

ということで、現行の自己負担額と比べて、年間で「16,530円」の負担増となりますし、多数回該当が適用されない場合における「単月当たり」での自己負担額では「5,510円」の負担増となりますが······

 

この者には「53万円」の「年間上限」が適用されますので、「148,420円」のオーバーとなるため、多数回該当の3か月余の分は支払う必要がなくなります

 

年間上限の算定期間は、前年8月から当年7月までの1年間とされていますので、高額療養費に係る疾病等に関する限りにおいては、当年5月から7月までの医療費負担はないことになります。

 

[注] ここで問題となるのが、多数回該当の措置がリセットされた後の単月(13か月目以降の3月間)の自己負担額が「92,940円」に戻るということです。そうすると、多数回該当であった「44,400円」との差額分「48,540円」という負担が再び発生することになります。

結局のところ、「年間上限」の仕組みにより負担軽減となった額(148,420円)のうち、145,620円(=48,540円×3月)が新たな自己負担分になると考えることもできますから、1年間を超えて療養を受ける必要がある場合には、わずかな負担軽減となるにすぎないという解釈もあり得ますし、一方で、保険者を変更しない限り実質的には多数回該当の措置が半永久的に継続するのと同様であるとの解釈もあり得ます。いずれにしろ、負担軽減になることに変わりはありません。

⇒ この件については、最後に「補遺」として、同様の事例で標準報酬月額「15万円」の短時間被保険者の計算例を試算してあります。

 

※ 「年間上限」については、システムの関係上、当分の間は「償還払い」になるとの情報がありますが、マイナ保険証の利用により、法令施行と同時に「現物給付化」できないものなのでしょうかねぇ。ただし、そうだからといって「年間上限」を廃止すべきという話にはならないでしょう。

 

まあ、ともかくとして、30年以上にわたり同一の保険医療機関にほぼ毎月外来通院している私自身としましては(高額療養費算定基準額に一度として達したことはありませんが)、今般の高額療養費の見直しにより、具体的な金額としてどのくらいの負担増になるのか(あるいは負担減になるのか)、ぜひシミュレーションしていただきたいということです。

 

なお、「努力義務」ではありますが、「労働施策総合推進法第27条の3の規定」により、事業主は、労働者の治療と就業の両立支援に関する措置を講ずるよう努めなければならないとされています(令和8年4月1日施行)。

 

賞与(ボーナス)の支払回数によっても高額療養費算定基準額が変更されることがありますし、少しでも負担が軽減されるような労働条件等の措置を勤務先と話し合ってみるのもありかもしれません(誠実に対応してくれる事業主だとよいのですが…)。

 

とにかく、社会保障政策と労働政策とは裏表の関係にあるということですね。

 

 

 

 

愚痴愚痴独り言

高額療養費は、70歳未満の場合、同一人が、同一の月に一の医療機関等(医科と歯科とは別扱い)で受けた療養等に関して、その医療費等を合算して算定することを原則とします。

X(旧Twitter)での愚痴等を拝見してみると、同一の月に複数の医療機関等で受けた療養等の費用についても合算して高額療養費の対象となるようにしてほしいとの切実な声がありましたが、この気持ちは、よ~く分かりますよ。

なぜかというと、私自身、昨年の9月については、なんと5つの診療科における診療所5か所で療養を受けた経験があるからです。いやいや、それでも、1か月分を合算した自己負担額は高額療養費算定基準額に遠く及ばなかったので、高額療養費制度とは、著しく高額で、かつ、長期にわたる医療等を受ける者に対する保険給付であるとの立法趣旨を再確認したものでした。

 

 

【補遺】

本文と同様の事例において、標準報酬月額が「15万円」の短時間被保険者でシミュレーションしてみます。

⑴ 現行(令和8年4月現在)の年間自己負担額

57,600円×3月+44,400円×9月

=172,800円+399,600円

572,400円

 

⑵ 令和9年8月以降(予定)の年間自己負担額

61,500円×3月+34,500円×9月

=184,500円+310,500円

=495,000円

⇒ただし、「年間上限」の仕組みが適用されるため、「410,000円」が自己負担上限額となります。

 

すなわち、著しく高額な療養等を長期間にわたって受ける必要があり、かつ、「年間上限」が適用される者にとっては、「多数回該当」がリセットされることを考慮しても、年間自己負担額は軽減され得ることになります。