令和7年(2025年)6月13日(金)、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」が国会で可決・成立しました。
ただし、この改正国民年金法等については、「障害年金」に関する法令改正等については、ほとんど含まれていません。
今回は、障害年金に係る保険料納付要件の変遷について考えてみます。
※ 「障害年金に係る保険料納付要件」は、障害基礎年金にも障害厚生年金にも必要となるものですが、実務的には国民年金法による障害基礎年金において問題となることが多いため、ここでは、国民年金法による障害基礎年金及び旧国民年金法による障害年金について、その変遷を振り返ることにします。
【1】令和7年度現在における法令・実務・通説
国民年金法第30条第1項ただし書は、次のように定められています。
ただし、当該傷病に係る初診日の前日において、当該初診日の属する月の前々月までに被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2に満たないときは、この限りでない。
つまり、障害基礎年金における保険料納付要件(3分の2要件又は直近1年間要件)は「初診日の前日において」満たしていなければならないというのが、法令上の要請であり、実務運用上もこの法令に従っていますし、また社会保障法研究者の通説・多数説にもなっています。
その理由としては、傷病の初診日において保険料納付要件を満たさなかった者が、将来自分が障害者になる場合のことを考えて、初診日のその日の午後にでも、あるいは初診日の翌日以後にでも国民年金保険料を急いで納付し、「障害認定日の前日において」保険料納付要件を満たして障害基礎年金を受けられるとしたならば、それは「逆選択」(リスクの高い者ほど保険給付等を受ける傾向にあること)であり、モラルハザードを招くことになるからだ、と説明されます。
しかし、この法令規定等に対しては、「障害認定日の前日において」保険料納付要件を満たしていればよいのではないかという少数説がありますので、以下紹介します。
【2】障害年金の保険料納付要件に関する少数説
老齢基礎年金の受給権が発生する日は、原則として「65歳に達する日」となりますが、「65歳に達する日の前日において」保険料納付要件(受給資格期間10年)を満たしていれば、老齢基礎年金は支給されます。
また、遺族年金の受給権が発生する日は、被保険者等の「死亡した日」となりますが、死亡した被保険者等につき「死亡した日の前日において」保険料納付要件を満たしていれば、一定の遺族に遺族年金が支給されます。
さて、障害年金の受給権が発生する日というのは、「初診日」ではなく、「障害認定日」となります(この点に異論はないようです)。
ですから、老齢年金や遺族年金と整合性をとるには「障害認定日の前日において」保険料納付要件を満たしていればよいはずです。
ここで、どうして受給権が発生する日でもない「初診日」を保険事故が発生した日と把握し、障害年金だけ取扱いを異にするのか、というのが少数説を唱える論者が抱く疑問点です。
例えば、体調が悪くなって医師の診療を受け(初診日)、検査をしたところ、その検査結果が初診日の2週間後にあった。その検査結果では異常の所見があったが、医師の診断により投薬治療をすることとし、投薬治療による効果経過をみることにした。しかし、初診日から3か月ほど経過しても投薬治療の効果が見られずに体調がよくならず、再び精密検査をしてみたところ、入院治療が必要になるほど傷病が悪化していた。
このように、初診日においては、まさか自分が障害者になろうとは思ってもいなかったという事例はよくあることですし、初診日の前日において、自分の国民年金保険料の納付記録を確認することなどしないのが普通です。
もし初診日の前日において保険料納付要件を確認するようなことがあれば、障害年金の請求実務であるような「初診日証明」に苦労することなどないはずです。
※ 現在の法令においては、そもそも保険料を未納・滞納していること自体が悪いことなので、このような事例においても「初診日の前日において」保険料納付要件(3分の2要件又は直近1年間要件)を満たすこととして取り扱うべきは、仕方がないことだと考えているようです。
ということで、拠出制国民年金法が施行された昭和36年4月1日以後における保険料納付要件の変遷を見ていきましょう。
【3】障害年金に係る保険料納付要件の変遷
⑴ 昭和36年4月1日~昭和41年11月30日
この期間は、「初診日の前日において」保険料納付要件を満たしていることが必要でした。
⑵ 昭和41年12月1日~昭和51年9月30日
この期間については、「障害認定日の前日において」保険料納付要件を満たしていることが必要となっていました。
⑶ 昭和51年10月1日以後
昭和51年10月1日以後については、今現在に至るまで、「初診日の前日において」保険料納付要件を満たすことが必要となっています。
参考として、昭和48年度当時における旧国民年金法第30条の規定による障害年金の支給要件を見てみましょう。
【旧国民年金法第30条(障害年金の支給要件)】
① 障害年金は、疾病にかかり、又は負傷し、かつ、次の各号の要件に該当する者が、その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下「傷病」という。)についてはじめて医師又は歯科医師の診療を受けた日(以下「初診日」という。)から起算して3年を経過した日(その期間内にその傷病がなおった場合においては、そのなおった日(その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含む。)とし、以下「廃疾認定日」という。)において、その傷病により別表に定める程度の廃疾の状態にあるときに、その者に支給する。
1 初診日において被保険者であった者については、廃疾認定日の前日において次のいずれかに該当したこと。
イ 廃疾認定日の属する月の前月までの被保険者期間に係る保険料納付済期間が15年以上であるか、又はその保険料納付済期間が5年以上であり、かつ、その被保険者期間のうち保険料免除期間を除いたものの3分の2以上を占めること。
ロ 廃疾認定日の属する月前における直近の基準月(1月、4月、7月及び10月という。以下同じ。)の前月までの被保険者期間が3年以上であり、かつ、その被保険者期間のうち最近の3年間が保険料納付済期間又は保険料免除期間で満たされていること。
ハ 廃疾認定日の属する月前における直近の基準月の前月までの被保険者期間が1年以上であり、かつ、その被保険者期間のうち最近の1年間が保険料納付済期間で満たされていること。
ニ 廃疾認定日の属する月の前月までの被保険者期間につき、第26条〔老齢年金の支給要件である受給資格期間が25年以上あること〕に規定する要件に該当していること。
2 初診日において被保険者でなかった者については、廃疾認定日において65歳未満であり、かつ、廃疾認定日の前日において第26条に規定する要件に該当したこと。
② 初診日が20歳に達する日前である傷病により廃疾の状態にある者が、20歳に達した日以後にさらに疾病にかかり又は負傷した場合において、前項各号の要件に該当し、かつ、新たに発した発した傷病に係る廃疾認定日において、前後の廃疾を併合して別表に定める程度の廃疾の状態にあるときは、その者に前後の廃疾を併合した廃疾の程度による障害年金を支給する。ただし、新たに発した傷病に係る廃疾が厚生大臣の定める程度以上のものである場合に限る。
なぜ「障害認定日(廃疾認定日)の前日」において保険料納付要件を判断することとしたかについて、旧法の時代は、各年金制度がバラバラな時代であり、例えば、季節労働者のように国民年金と厚生年金保険の間を転々としたり、漁船員のように国民年金と船員保険の間を乗下船の都度移り変わる者の救済措置として改正されたものと説明されていました。
例えば、「保険料納付済期間が継続して1年以上必要」であったと解される従来の規定について「通算して1年以上保険料納付済期間があればよい」と改正したものです。
なお、「障害認定日(廃疾認定日)」となる日について、昭和36年4月1日から昭和49年7月31日までの期間は「原則として初診日から起算して3年を経過した日」とされていたのを、昭和49年8月1日以降は、今現在に至るまで「原則として初診日から起算して1年6か月を経過した日」となっています。