皆さん、こんにちは、こんばんは。

 

産後休業後の育児休業開始日早見表」というものを見かけることがありますね。

 

例えば、このブログを執筆している令和7年の本日、8月5日に子を出産した女性労働者は、一般的に、明日の8月6日から9月30日までの “56日間” が「産後休業」となりますので、10月1日から「育児休業」を開始することができます。これが、早見表を見れば、すぐに分かるというわけです。

 

 
ということは、出産した当日は「産前(産前休業)」と解することになりますね。
 
実際、労働基準法における「産前産後休業」の規定や、健康保険法における「出産手当金」の支給期間などで「出産日の当日は “産前” に含まれることに気をつけてください」などと教わります。
 
でも、過去の歴史を紐解いていけば、出産(分娩)の当日を「産後」と解していたこともあるのです。
 
【1】出産日の当日を「産後」と解すべきとの見解
⑴ 「年齢計算ニ関スル法律」(明治35年12月2日法律第50号)によれば、「年齡ハ出生ノ日ヨリ之ヲ起算ス」とあり、出生したその日を第1日目として年齢を計算していくとあります。
 
[注] 年齢計算については、「年齢のとなえ方に関する法律」(昭和24年5月24日法律第96号)により、昭和25年1月1日以降は「満年齢」で数えることになっています。それでは、明治期や大正期あるいは昭和戦前期頃までの法令あるいは政府統計調査等については「数え年」を使っていたのかというと、それは違います。「年齢計算ニ関スル法律」により、少なくとも、その施行日である明治35年12月22日以降に制定された法令や戸籍関係、政府の公的統計調査等においては「満年齢」が使われています(例えば、婚姻年齢等)。
しかし、一般の国民は昭和戦前頃まで「数え年」を使う習慣がなかなか抜けなかったため、「年齢のとなえ方に関する法律」でもって「満年齢」を使うことを義務づけたというわけです。
 
⑵ 胎児が法的にいつ「人」となるか(人の始期)について、刑法においては「一部露出説」が判例・通説となっています。
胎児が母体から一部でも露出していれば、母体とは無関係に、その胎児は法的に「人」となるので、傷害罪や殺人罪の対象となり得ます。
 
⑶ 胎児が法的にいつ「」となるか(人の始期)について、民法においては、多少の問題点が指摘されてはいますが、「全部露出説」が通説となっています。
 
いずれにしろ、出生したその当日に胎児は法的に「」となるのですから、誕生する前の「産前」と解するよりは、誕生した日として記念に残る「産後」と解したほうが妥当なように思われます。
 
【2】工場法においては
日本における女性労働者(女工)や年少者(幼年工)といった「保護職工」については、明治44年に制定され、大正5年9月1日から施行された「工場法」(明治44年3月29日法律第46号)を嚆矢とします。

 

産婦の就業制限について、工場法第12条は、「主務大臣ハ病者又ハ產婦ノ就業ニ付制限又ハ禁止ノ規定ヲ設クルコトヲ得」と定めていたのですが、実際の女工保護規定の制定は遅れに遅れ、大正12年の工場法改正により、「産婦」を「産前産後若しくは生児、哺育中の女子」と改めることとなりました。

 

そして、大正12年改正工場法に基づく工場法施行規則第9条は「4週間以内の出産予定者が休業を請求した場合及び産後6週間の産婦について就業させてはならないこと。ただし、産後4週間を経過した産婦が就業を請求し、かつ、医師が支障がないと認めたときは就業させ得ること」と定めていました。

 

すなわち、ここにおいて「産前4週間、産後6週間」の「産前産後休業」の制度が創設されたのです(大正15年7月1日施行)。

 

しかし、工場法の条文規定は「週数」で表記していることもあり、出産日の当日又は出産予定日が「産前」なのか「産後」なのかについては、明確でないところがありました。

 

【3】健康保険法においては
大正11年に制定され、昭和2年1月1日に全面施行された「健康保険法」(大正11年4月22日法律第70号)を見てみましょう。
 
大正11年に公布された当時の健康保険法第1条は、「健康保險ニ於テハ保險者カ被保險者ノ疾病、負傷、死亡又ハ分娩ニ關シ療養ノ給付又ハ傷病手當金、埋葬料、分娩費若ハ出產手當金ノ支給ヲ爲スモノトス」とあり、すでに「分娩費(現・出産育児一時金)や出産手当金」に関する規定が定められていました。
 
そして、同法第50条により、「被保險者分娩シタルトキハ分娩費トシテ二十圓ヲ、出產手當金トシテ分娩ノ前後勅令ヲ以テ定ムル期間一日ニ付報酬日額ノ百分ノ六十ニ相當スル金額ヲ支給ス」とまで定めていました。
 
すなわち、分娩費としては20円、出産手当金として分娩の前後の勅令で定める期間において、1日につき報酬日額の100分の60(=60%)に相当する金額を支給することまでは決定していました。
 
健康保険法は、大正13年4月1日から施行する予定で健康保険法施行令や健康保険法施行規則を草案作成し準備していたところ、周知のとおり、関東大震災により東京(関東地方)が壊滅状態となったため、大正15年になってようやく健康保険法施行令や健康保険法施行規則が完成し、同時に健康保険法第1回目の改正を行うことにしました。
 
大正15年の改正健康保険法により、一部の規定は大正15年7月1日から、保険給付や費用の負担に関する規定は昭和2年(大正16年)1月1日から施行されることとなりました。
 
そして、健康保険法施行令(大正15年6月30日勅令第243号)第80条により、出産手当金の支給期間については、次のように定められました。

①出產手當金ハ被保險者カ分娩ノ日前二十八日、分娩ノ日以後四十二日以內ニ於テ勞務ニ服セサリシ期間之ヲ支給ス

②分娩ノ日カ其ノ豫定日ヨリ後レタルトキハ保險者ハ前項ノ分娩ノ日前ノ期間ヲ七日以內延長スルコトヲ得

すなわち、「出産(分娩)の日前28日、出産(分娩)の日以後42日以内において労務に服さなかった期間」とされたのです。ただし、出産(分娩)の日がその予定日より遅れたときは、出産(分娩)の日前の期間(28日)について、7日以内の日数延長して出産手当金を支給することができるとされました。
 
いよいよここで、出産日の当日は「産後」であることとされたのです。
なぜなら、「分娩ノ日以後四十二日」というように「以後」とあるからです。
 
【4】労働基準法においては
第二次大戦後の昭和22年に、「工場法」を受け継ぐ形で「労働基準法」(昭和22年4月7日法律第49号)が制定されました。

(產前產後)

第六十五條 使用者は、六週間以内に出產する予定の女子が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。

②使用者は、產後六週間を経過しない女子を就業させてはならない。但し、產後五週間を経過した女子が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。

③使用者は、妊娠中の女子が請求した場合においては、他の軽易な業務に轉換させなければならない。

※ 労働基準法の制定とほぼ同時に健康保険法が改正され、出産手当金の支給期間について、「出産の日前42日、出産の日以後42日以内において労務に服さなかった期間」と、産前の日数と産後の日数が同じになります。これを「週数」で表したのが労働基準法です。
 
ところがです!!!
 
労働基準法においては、出産日当日は「産前」であると解釈していました。
 
◼️出産当日は産前6週間に含まれること(昭和25年3月31日付け基収第4057号)
 
これは、一体どういうことでしょう?
 
事実上の正解は、簡単です!
 
産前休業を取るかどうかは「妊婦の任意」です。産前休業を取りたければ使用者に請求すればよいですし、産前休業を取りたくなければ、そのまま働き続けていてもよいわけです。
 
では、臨月になっても働き続けている妊婦がいたとして、ある日突然、産気づき、病院に搬送され、子を出産したとします。
 
その出産日の当日を「産後」と解釈してしまうと、「使用者は、產後六週間(現在・産後八週間)を経過しない女子(現在・女性)を就業させてはならない」という、労働基準法の産後休業期間就業禁止規定に違反してしまうのです。
 
さすがに、そのような事態を使用者の法違反責任として刑事罰を科すのは、使用者にとって酷ですね。
 
ですから、労働基準法においては、出産日の当日を「産前」と解釈するしかなかったのです
 
[注] 法的に話をするのであれば、労働基準法においては、民法の期間計算による「初日不算入の原則」により、出産当日の翌日から「産後を起算していた」ため、その反対解釈の結果、出産日の当日は「産前」と解していたのです。
 
昭和60年の労働基準法改正により「多胎妊娠」の規定が新設され、多胎妊娠の場合の産前休業の期間が「10週間以内」とされ、産後休業期間については、原則「8週間」とされました。
 
昭和60年の改正労働基準法に合わせて、健康保険法による出産手当金の支給期間についても、「出産の日前について多胎妊娠の場合には70日間」とし、また「出産の日 “以後”、については56日間」と延長しました。
 
このように、昭和60年の改正時点においても(厳密には、平成4年3月31日まで)、健康保険法においては出産日の当日を「産後」と解していましたし、出産予定日より現実の出産が遅れた場合の当該遅れた日数分について出産手当金は支給しないこととされていました。
 
※ 数次にわたる法改正により、産前の日数が伸長されたため、立法当初の「7日以内延長」との規定は、すでに削除されていました。
 
ようやく、平成4年の健康保険法改正により、平成4年4月1日から、出産日の当日を「産前」と解釈変更し、出産予定日より現実の出産が遅れた場合の当該遅れた日数分についても、出産手当金を支給することとしました。
 
[注] 実をいうと、これは逆であり、出産予定日より現実の出産が遅れた場合の当該遅れた日数分について出産手当金を支給することと改正した結果、日数計算を分かりやすくするため、出産日の当日を「産前」と解釈変更したのです。もちろん、労働基準法との解釈の相違を解消するとの趣旨もあったことは、言うまでもありません。
 
なお、平成9年労働基準法改正において、多胎妊娠における産前休業の期間を「10週間以内」から「14週間以内」に延長したことに伴い、健康保険法も同時に改正し、出産手当金の支給に係る「多胎妊娠」における産前休業期間についても「98日以内」と延長しました(平成10年4月1日施行)。
 
 
≪社労士・社会福祉士等受験生への練習問題≫
法令上は、長い間、多胎妊娠に対する明文の規定がなかったため、「昭和5年1月14日付け保規第686号」という通牒において、その取扱方法を示していました。
ここでは、その取扱方法を練習問題として提示しますが、現在とは法令上の取扱方法が全く異なっているため、現在、つまり令和7年度(2025年度)現在における取扱方法として解答してみてください。
※ 正解は、最後に記載しています。
 
【練習問題】
双児出産」の場合において、第1児は9月24日に分娩し、第2児は9月27日に分娩した場合の出産手当金の支給期間等について答えてください。
 
 
《プラスアルファの知識》
⑴ 育児・介護休業法における「1歳未満の子に係る育児休業」については「時刻単位」で判断します。
つまり、「1歳未満」とは、子の1歳誕生日の前日の午後12時をもって満1歳に達すると解しますので、1歳未満の育児休業については、子の「1歳誕生日の前日まで」育児休業を取得することができます。
※ 「1歳誕生日の前日の午後12時」と、「1歳誕生日の当日の午前0時」とは、物理的な時刻として全く同じですが、その属する日が異なっています。
 
⑵ 一方で、雇用保険法の育児休業給付における「1歳未満の子に係る育児休業」については「日単位」で判断します。
つまり、「1歳未満」とは、子の1歳誕生日の前日をもって満1歳に達すると解しますので、育児休業給付の支給については、子の「1歳誕生日の前々日まで」が育児休業給付の支給対象となります。
 
 
【練習問題の正解】
出産手当金は、9月24日以前98日、9月27日後56日以内において労務に服さなかった期間について支給されます。なお、9月25日から9月27日までの3日間についても、出産手当金は支給することとされています。