皆さん、こんにちは、こんばんは。
連日、殺人的な酷暑が続いていますが、熱中症以外にも、いよいよ渇水問題が心配になってきましたね。
思い出すのは、31年前、平成6年(1994年)の大渇水です。各地のダムで貯水率が0%となって干上がって断水も起こり、日本中で節水が呼びかけられました。
さて、今回は、世界で最初に「社会保障(Social Security)」という用語を法令上公式に使った国はどこか? という問題です。
【1】社会保障が作られた原因は世界大恐慌?
日本が関東大震災を遠因とする経済不況にあえいでいた頃、ニューヨーク証券取引市場で、1929年10月24日(暗黒の木曜日)、株価が大暴落します。そう、震源地のアメリカで1,300万人もの失業者が発生したとされる「世界大恐慌」が起こったのです。
この大恐慌を克服するために、フランクリン・ルーズベルト大統領が行った一連の経済政策を「ニューディール政策」と呼びますが、この一環として制定されたのが「アメリカ連邦社会保障法(Social Security Act)」(1935年)です。
大恐慌を収拾させるには、ヨーロッパで生まれた在来型の「社会保険」では事態に対応できないため、即効型の「経済保障」が必要となりました。
そこで、従来の「社会保険」に対するリスペクトを込め、社会保険の「社会」と経済保障の「保障」とを結合させ、新たに「社会保障(Social Security)」という合成語を作り出したのです(基本となるのは、ケインズ型の「経済保障」でした)。
※ 法令上公式なものでなければ、「アメリカ老齢保障協会」が、1933年に「アメリカ社会保障協会」へと名称を変更しており、これが「社会保障」という語の始まりだと言われています。
「アメリカ連邦社会保障法」は、内容的には、次の3本建てとなります。
⑴ 連邦政府直営の老齢年金
⑵ 州政府運営の失業保険への連邦補助
⑶ 州政府の老人扶助、母子扶助、視覚障害者扶助および社会福祉サービスへの連邦補助
アメリカに次いで、1938年には、上記3種の一元的な社会保障制度を構築するため、ニュージーランドで「社会保障法」が誕生し、それまでの社会保険とか公的扶助などという区別をなくし、「最低生活費の保障と医療の保障」を中心に据えた新しい社会保障制度の在り方を提起しました。
【2】日本で初めて公式に使用された「社会保障」は?
日本で「社会保障」という語が法令上公式に用いられたのは、「日本国憲法」が最初です。
日本国憲法第25条
① すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
② 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
※ 「社会保障」のみならず、「社会福祉」も、日本国憲法第25条第2項で初めて公式に使われた言葉だと言われています。
日本国憲法第25条第2項では、「社会福祉」、「社会保障」および「公衆衛生」を区別して書き分けていますが、これは「社会保障」を「社会保険」の意味で使用したからであり、「広義の社会保障」とは、社会福祉や公衆衛生をも含めた広い概念であるとされています。
※ これは日本国憲法第25条第2項の全体が「社会保障」を表しているとする考え方で、国民年金法第1条(国民年金制度は、日本国憲法第25条第2項に規定する理念に基づき、····)に見られます。
日本における「社会保障」という語は、社会保険(労災保険、失業保険、医療保険、年金保険等)を中心として、公的扶助や社会福祉サービスをも含む広い概念として語られることが多いようですが、諸外国では異なります。
例えば、イギリスにおいて「Social Security(社会保障)」といえば、それは「所得保障」のことであり、医療は含まれません。
つまり、イギリスにおいては、「社会保障」とは別に「医療保障」があることになります。
▼このことから、「社会保障」は所得保障と医療保障の2つの制度に大別されるという考え方が生まれ、これを「社会保障の二元論」と呼びます。
※ 第二次大戦中の1942年11月に公表された『ベヴァリッジ報告(社会保険および関連サービス)』においても、社会保障について「失業、疾病あるいは災害によって稼得が中断された場合に、これに代わって所得を維持し、老齢による退職や本人以外の者の死亡による扶養の喪失に給付を行い、出産、死亡、結婚などに伴う特別の出費を賄い、そうすることで所得を保障すること」と述べています。
また、アメリカにおいて「Social Security(社会保障)」とは、1935年の「アメリカ連邦社会保障法」が、当初は「アメリカ連邦経済保障法」として提起されていた趣旨が連綿と生き続けており、現在は「公的年金」とほぼ同義として理解されています。
※ アメリカでは、企業年金等の私的年金については「年金(pension)」と呼びますが、公的年金(OASDI)については「社会保障(Social Security)」とたびたび呼ばれます。
【プラスアルファの知識】
以上、今回は「世界で初めて “社会保障(Social Security)” という言葉を公式に使用した国はどこか?」ということで概略を述べてきました。
正解は「アメリカ」ですが、ヨーロッパの伝統的な「社会保険」が存在していなければ「社会保障」という言葉は生まれてこなかったかもしれません。
なお、「社会保障(Social Security)」という言葉が世界中に普及する直接の契機は、実は、1941年8月14日に英国首相チャーチルと米国大統領ルーズベルトの洋上会談の結果として発表された「大西洋憲章」です。
大西洋憲章の中には、英国と米国の両国政府は「より良い労働基準、経済的進歩および社会保障をすべての者に確保する目的をもって、経済の領域におけるすべての諸国民間に最も十分な協力をもたらす」とありました。
そして、大西洋憲章を支持した国際労働機関(ILO)が、1942年3月に『社会保障への途(Approaches to Social Security)』を刊行し、「社会保障」という言葉が世界中に普及していくことになったのです。
※ 日本政府は、1938年11月にILOからの脱退通告をするとともに、その翌年にはILO東京支局を閉鎖していますが、1951年に再加盟しています。