【1】被扶養者となる原則的な年収要件
健康保険法による被扶養者又は国民年金法による第3号被保険者となることができる認定対象者に係る原則的な「年間収入要件(以下「年収要件」という)」は次の通りです。
① 原則:130万円未満
② 認定対象者が60歳以上の者である場合又は概ね厚生年金保険法による障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者である場合:180万円未満
③ 認定対象者(被保険者の配偶者を除く)が19歳以上23歳未満である場合:150万円未満
[注1]上記③については、令和7年10月1日から新設された年収要件であり、人手不足を背景とした税制改正と関連するため、「年度単位」で判断するのではなく「年単位(1月1日~12月31日)」で判断して、年末(12月31日)時点での年齢が19歳、20歳、21歳、22歳に達する者について適用される新たな年収要件です。
なお、当該認定対象者が学生等であるか否かは問われませんが、「被保険者の配偶者」については、この「150万円未満」という年収要件は適用されませんので、社労士試験に出題されたとしたら、十分に気をつけてください。
[注2] 認定対象者を被扶養者と認定するには、上記の年収要件のほか、次のような要件もあります。
⑴ 被保険者と同一世帯に属している場合には、被保険者の年間収入の2分の1未満であるか、又は被保険者の年間収入を上回っておらず被保険者が生計維持の中心的役割を果たしていると認められること
⑵ 被保険者と同一世帯に属していない場合には、被保険者からの援助による収入額(仕送り額)より少ないこと
[注3]以上に述べたこととは別に、夫婦共同扶養の場合における認定対象者の認定基準や、特定適用事業所に係る論点などもありますが、あまりに長くなってしまうため、ここでは割愛しますので、何卒ご了承ください。
それでは、令和8年4月1日以降の被扶養者認定に関する改正点を見ていきます。
【2】事業主の証明による被扶養者認定の円滑化の恒久化
「年収の壁・支援強化パッケージ」における事業主の証明による被扶養者認定の円滑化措置については、令和5年10月から2年間の当面の対応措置とされていましたが、これを恒久化します。
■「年収の壁・支援強化パッケージ」における事業主の証明による被扶養者認定の円滑化の取扱いの恒久化について(令和7年10月1日保保発1001第1号)
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T251006S0050.pdf
例えば、収入見込額が130万円以上になっても、それが人手不足等による残業等の一時的な収入変動である旨の事業主の証明により迅速に被扶養者と認定することができる対応措置は、令和8年4月1日以降も引き続き可能だということです。
【3】認定対象者に係る新たな「年間収入要件」の考え方について(令和8年4月1日施行)
⑴ 現行(令和8年3月31日まで)の考え方
被扶養者としての届出に係る者(認定対象者)の年間収入については、認定対象者の過去の収入、現時点の収入又は将来の収入の見込みなどから、今後1年間の収入の見込みにより判定します。
つまり、時間軸を過去、現在又は将来と総合的に判断し、基本的には「今後1年間の収入の見込み」により判定することとなっています。
しかし、この判定基準では被扶養者認定に対する予見可能性が低く、毎年、年末が近くなると「就業調整」をして年間収入の額を抑制し、被扶養者のままでいられるようにするという状況が頻発していました。
⑵ 令和8年4月1日以降の新たな考え方
■労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いについて(令和7年10月1日保保発1001第3号・年管管発1001第3号)
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T251006S0060.pdf
基本的な年収要件については、「労働契約で定められた賃金」から見込まれる年間収入が130万円未満(原則)であり、かつ、他の収入が見込まれないこと、とされています。
ここで、「労働契約で定められた賃金」とは、労働基準法第15条の規定に基づき交付される「労働条件通知書等」の労働契約の内容が分かる書類の添付及び当該認定対象者に「給与収入のみである」旨の申立てを求めることにより確認すること、とされています。
そして、具体的な判定方法としては、労働条件通知書等にある賃金額を確認し、年間収入が130万円未満(原則)である場合には、原則として被扶養者として取り扱うこととし、労働契約の更新が行われた場合や労働条件に変更があった場合には、当該変更内容に基づき被扶養者に係る「確認」を実施することとし、条件変更の都度、当該変更内容が分かる書面等の提出を求めること、とされています。
実務上は、初回の判定については「令和8年4月1日以降の時点」における労働条件通知書等の賃金額に基づいて被扶養者になるか否かを判定することになるでしょう。
この新たな被扶養者認定方法の趣旨は、労働契約締結時や更新時又は労働条件変更時に認定対象者を被扶養者にするか否かを決定させて被扶養者認定に対する予見可能性を高めるとともに、毎年、年末近くになって当該労働者が就業調整を行う意味を消滅させる(薄くさせる)ことにあります。
ここで、厚生労働省は、注意事項を2点挙げています。
⑴ 労働契約で定められた賃金により「被扶養者」と認定された者について、当初想定されなかった臨時収入により、 結果的に年間収入が130万円以上(原則)になった場合であっても、当該臨時収入が「社会通念上妥当である範囲に留まる場合」には、これを理由として、被扶養者としての取扱いを変更する必要はないこと。
⑵ 給与収入以外に他の収入(年金収入や事業収入等)がある場合における当該給与収入を含む年間収入の取扱いについては、従前のとおりの取扱い(「収入がある者についての被扶養者の認定について」(昭和52年4月6日保発第9号・庁保発第9号厚生省保険局長及び社会保険庁医療保険部長連名通知)等に基づくもの)とすること。
【4】認定対象者に係る新たな「年間収入要件」の考え方に関するQ&Aについて(令和8年4月1日施行)
■労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いに係るQ&Aについて(令和7年10月1日事務連絡)
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T251006S0070.pdf
最後に、上記「Q&A」から、社労士試験において出題されてもおかしくなさそうな重要ポイントを列挙しておきます。
□ 労働契約に明確な規定がなく労働契約締結・更新・変更段階では見込み難い時間外労働に対する賃金等は、被扶養者の認定における年間収入には含まないこと。
□ 被扶養者の認定の適否に係る確認時において、被扶養者の認定段階で見込んでいなかった臨時収入によって結果的に年間収入が130万円以上(原則)と なった場合であっても、当該臨時収入が「社会通念上妥当である範囲に留まる場合」には、これを理由として被扶養者の認定を取り消す必要はないこと。
※ 「社会通念上妥当である範囲に留まる場合」であるか否かの判断は、実務上は難しいかもしれません。
□ 一方において、当該臨時収入により実際の年間収入が「社会通念上妥当である範囲を超えて」130万円(原則)を大きく上回っており、労働契約内容の賃金を不当に低く記載していたことが判明した場合には、被扶養者に該当しないものとして取り扱って差し支えないこと。
※ 「大きく上回る」というのは、19歳以上23歳未満の認定対象者に係る年収要件を鑑みて、130万円に対する150万円を超えるくらいであろうと個人的には考えていますが、実際は「年収の壁・支援強化パッケージ」における事業主証明の実績等に基づき、保険者が判断することになるのでしょう。
プラスαの知識
令和8年4月1日時点における地域別最低賃金の最低額は、高知県、宮崎県及び沖縄県の「1,023円」です。
そうだとすると、全国の特定適用事業所(※)に使用される短時間労働者で、1週間の所定労働時間が20時間以上である者は、最低賃金法に基づき計算した報酬月額が88,000円以上となります。
1,023円×20時間×52/12=88,660円(>88,000円)
※「特定適用事業所」とは、同一の事業主の適用事業所に使用される特定労働者(70歳未満の者のうち、厚生年金保険の適用除外のいずれにも該当しないものであって、特定4分の3未満短時間労働者以外のものをいう。)の総数が、1年間のうち6月間以上50人を超えることが見込まれる事業所をいいます。
したがって、令和8年4月1日以降は、全国の特定適用事業所に使用される短時間労働者で、1週間の所定労働時間が20時間以上である者は、最低賃金法第7条の規定による減額特例の許可を受けた者を除き、賃金(報酬)要件を問うことなく、健康保険又は厚生年金保険による被保険者となります。ただし、学校教育法に規定する生徒・学生等である者は、4分の3基準を満たすものを除いて、被用者保険の被保険者とはなりません。