遺族基礎年金における死亡した者に係る要件は、令和7年6月20日から、すでに改正施行されています。
【1】令和7年6月19日以前の条文規定はどうだった?
死亡した者に係る要件が4種類ありましたね。
第一号 被保険者が、死亡したとき。
第二号 被保険者であった者であって、日本国内に住所を有し、かつ、60歳以上65歳未満であるものが、死亡したとき。
第三号 老齢基礎年金の受給権者(保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者に限る。)が、死亡したとき。
第四号 保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者が、死亡したとき。
第一号と第二号に該当する場合を「短期要件の遺族基礎年金」と呼び、死亡した者について「保険料納付要件」を満たす必要があります。
一方で、第三号と第四号に該当する場合を「長期要件の遺族基礎年金」と呼び、死亡した者について「保険料納付要件」は問われません。
ところが、すでに令和7年6月20日から、この国民年金法第37条の規定は、次のように改正施行されています。
【2】令和7年6月20日以降の新たな条文規定は?
あれれ?
改正前の第三号「老齢基礎年金の受給権者(保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者に限る。)が、死亡したとき。」が削除されてしまって、3種類に減らされています。
この場合、第一号と第二号が「短期要件の遺族基礎年金」に該当し「保険料納付要件」が必要となりますが、新たな第三号(つまり、改正前の第四号)が「長期要件の遺族基礎年金」に該当し「保険料納付要件」は問われないことになります。
しかし、だとすると、保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である老齢基礎年金の受給権者が死亡した場合には、遺族基礎年金が全く支給されなくなってしまったのでしょうか?
いえいえ、そんなはずはありませんよね。
【3】令和7年改正国民年金法附則第9条の改正
実をいいますと、令和7年6月20日から、令和7年改正国民年金法附則第9条が、次のように改正されているのです。
今までにおいても、「25年」という期間の中には「保険料納付済期間」と「保険料免除期間」の他に「合算対象期間」をも含めてよいことは学習しているのではないかと思います(過去の社労士試験にも出題されています)。
さらに、令和7年6月20日から、改正法附則第9条の規定により、上記添付した条文の黄色ハイライトの期間(65歳に達した日の属する月以後の厚生年金保険の被保険者期間)も、「25年」の中に含めてよいことになりました。
つまり、まとめて言ってしまうと、次の⑴~⑷の4つの期間をすべて合算して「25年」を満たせばよいことになったのです。
⑴ 保険料納付済期間⑵ 保険料免除期間
⑶ 合算対象期間
⑷ 65歳に達した日の属する月以後の厚生年金保険の被保険者期間
でも、この法改正にどのような意味があるのでしょうか?
【4】遺族厚生年金における死亡した者の要件改正
実を言いますと、遺族厚生年金における死亡した者に係る厚生年金保険法第58条も、すでに改正されているのです。≪令和7年6月19日以前の厚生年金保険法第58条≫

厚生年金保険法第58条第1項第4号に「老齢厚生年金の受給権者(保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者に限る。)・・・が、死亡したとき。」とありますね。
≪令和7年6月20日に改正施行された厚生年金保険法第58条第1項第4号の規定≫
ご覧のとおり、法第58条第1項第4号から「老齢厚生年金の受給権者(保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者に限る。)・・・が、死亡したとき。」という記述が見事に削除されてしまっています。
①「老齢基礎年金又は老齢厚生年金の受給権者(保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者に限る。)が、死亡したとき。」という語句が削除されました。
②その代わりとして、「25年以上」の期間の中に「65歳に達した日の属する月以後の厚生年金保険の被保険者期間」を含めて算定してよいこととされました(※)。
※ 厚生年金保険法における根拠規定については、↓添付にあるように、令和7年改正厚生年金保険法附則第14条第1項に「並びに65歳に達した日の属する月以後の被保険者期間」との語句(黄色ハイライト部分)が追加されています(厚生年金保険法の条文規定において「被保険者期間」と出てきたら、それは「厚生年金保険の被保険者期間」のことをいいます)。
その「65歳に達した日の属する月以後の(厚生年金保険の)被保険者期間」との年齢規定から鑑みると、明らかに「老齢基礎年金又は老齢厚生年金の受給権者が死亡したこと」を意識したものだと考えられますね。
このことによって救済される事例を考えてみましょう。
【5】救済される事例を考えてみよう!
Aさんは、保険料納付済期間と保険料免除期間と合算対象期間とを合算して「24年」を有する老齢基礎年金又は老齢厚生年金の受給権者ですが、「68歳」の時に死亡しました。令和7年6月19日以前の改正前の規定では、25年に1年不足していますので、遺族基礎年金又は遺族厚生年金は支給されません。
しかし、65歳を過ぎても就労を継続する高齢者が増えつつある昨今、もしAさんが65歳以後も厚生年金保険の被保険者期間として1年以上有していたら、どうなるでしょう?
令和7年6月20日に改正施行された新しい条文規定によれば、「25年以上」を有することになりますから、他の支給要件を満たしていれば、遺族基礎年金又は遺族厚生年金が支給されることになりますね。
このように、具体例で考えてみると、法改正の趣旨が理解できるのではないでしょうか。
ところがですね、最後に正直言いますと、法改正前も法改正後も、遺族基礎年金又は遺族厚生年金における死亡した者の要件は、実質的には何も変更されていないのです。
なぜなら、障害基礎年金又は遺族基礎年金の適用においては、「60歳以後の厚生年金保険の被保険者期間、20歳未満の厚生年金保険の被保険者期間、昭和36年4月前の厚生年金保険の被保険者期間」は「保険料納付済期間」とされているからです。
つまり、「65歳に達した日の属する月以後の厚生年金保険の被保険者期間 = 保険料納付済期間」と置き換えてみれば、実質的には何も改正されていないことが分かるでしょう。
⑴ 保険料納付済期間
⑵ 保険料免除期間
⑶ 合算対象期間
⑷ 65歳に達した日の属する月以後の厚生年金保険の被保険者期間(=保険料納付済期間)
社会保障審議会年金部会においては、老齢基礎年金又は老齢厚生年金の受給権者が死亡した場合における遺族基礎年金又は遺族厚生年金の「有期年金化」を手始めとして議論を開始したものの、むしろ若年期の遺族に対する遺族年金給付の「有期年金化」の議論のほうに集中せざるを得なくなったため、法改正への決着がつきませんでした。
そのため、老齢基礎年金等の受給権者が死亡した場合の遺族基礎年金等の有期年金化等の在り方については、将来の法令改正に委ねることとして、とりあえずは「65歳に達した日の属する月以後の厚生年金保険の被保険者期間」とあえて明文化して「25年」の中に含ませることで、「高齢期における公的年金制度による就労支援施策」という意味合いを法改正に込めることとしたのです(もちろん、国民に理解してもらえるかどうかは別問題ですが)。



