女とは。こんなにも魅力に満ちているのだろうか。その煌めきはあまりに眩しい。
女は女らしさを際立たせ、花弁のように人の心を惹き付ける。
TVドラマ「キリング・イヴ」。
イヴ・ポラストリは英国情報部MI6のアシスタント。内勤。いつか世界をまたにかけて捜査をしたいと願っていた。
ある日、ロシアの政治家がウィーンで殺された。そのあまりの手際の良い殺しっぷりにMI6が捜査を始める。
イヴは犯人を女と判断。相手にされずイヴは個人捜査を始める。そしてイヴの怠慢から目撃者が殺されてしまう。
サイコパスの暗殺者につけ狙われる主人公イヴに韓国系のサンドラ・オ。彼女、正直、ドラマではいつもセクシャルな表現のある役を担うのですが、私にはギャグメーカーにしか見えません。ギャップが魅力を醸すのも分かるのですが、何ともミスキャスト感が拭えません。今作も初見は溜め息。
対する暗殺者ヴィラネルはジョディ・コマー。彼女はスタイル良く、独特な妖しい雰囲気を携えていて、始めこそ暗殺者足る怖さしか感じないかもしれませんが、進むにつれ、きっと誰もがその魅力に惹き付けられる事でしょう。でも、その魅力は、カリスマや美しさだけでは無く、彼女が魅せる、冷酷さの裏にある弱さや人間性なのです。
暗殺者に人間性?そう言うものは既にピアース・ブロスナンやジャン・クロード・ヴァンダムが魅力的に見せてきた。でもジョディ・コマーと言ったら、節操無く殺し、その殺しさえ楽しみに変えているようだ。そんな暗殺者を愛せるか?多くの人が無理。いえ、愛せるなら、ちょっとあなたの心は危険だ。
しかし。そんなあなたはきっと気付いていたのでしょう。このヴィラネルが第一話で見せる、幼子への悪戯に隠された彼女の"らしさ"を。
それは後に描かれていく。
ジョディ・コマー。あえてこの表情で。私のお気に入り表情です。ぷうっと膨れ、また呆れ顔をしてみたり、今にも殺しそうな狂気を覗かせたり...でも途端に"けらっ"と笑う。そんな、ころころ変わる表情が非常に可愛らしい。
イモジェン・プーツあたりのアンプレイメージの女性が好みな方は好きそうです。
ヴィラネルは幼い頃から悪い環境で育ちました。多くの女の子と同じように「ティファニーで朝食を」なんて夢も抱いたろう。素敵な服に小さくても私色に染めた素敵なパリのアパルトマン、そして寄り添う素敵なパートナー。しかしそんなものは与えられなかった。彼女に見える"世界"にすら無かった。そうして鬱積した不満を溜め込んだ彼女は、更なる苦痛の日々を生き抜き、果てには他人への尊びを失い、情など信じなくなった。そして見出だされたのは殺しの才能。暗殺者としての大成でした。
ふと気付けば全てを手に入れていた彼女。しかしどうしてもただひとつ足らなかったのは、こんな私を、そしてこんな私の真実を受け入れられる人。本当の意味で人生に寄り添うパートナー。
そうして見付けてしまった。イヴを。
彼女はイヴに無数の"けしかけ"を行う。対する仕事に野心的なイヴは、謎の暗殺者を見付けてやるぞと捜索にのめり込む。時には野心、時には怒り、時には興味、時には憧れ、そして時には共感?
そんな時、ある事件が起こる。目撃者の死。
それはイヴに強い悔やみと怒り、そして執着を生んでしまう。
何故ならイヴは"殺し"と言うものを、紙の上のもののように思っていたから。それまではイヴは暗殺者でさえ話せば分かってくれて解決出きるかも...と思っていた。しかし、殺人は止まらない。イヴは更に、捜査の中心に入って行く興奮に酔い始めてしまう。
そしてまた相棒を失ってしまう。
そうしてイヴは、今まで見ていたものは、全て幻想だと思い知る。彼女は死に取り憑かれ、実生活にさえ不協和音を生み出してしまう。
そんなイヴの壊れ具合は、非常に壮絶で...
...コメディカルだ。実はこの作品、全編ブラックジョークに満ちています。殺しを楽しみ、褒めて欲しいだけのヴィラネルの心のように、恐怖も死さえも軽く描かれる。
捜査を軽く見るイヴも、なんだか愉快。恐れ慄き苦痛にパニックを起こしていても、不思議と楽しそうに見える時がある。だからね、サンドラ・オ。彼女がはまり役に見えてくる。しかし、またしても人の命が奪われる。それでもドラマは笑いの覆いを被り続ける。
そんなギャップはちょっと観る側の気持ちと解離して行く。付いていけない人も出てきそう。でも私は、不思議とヴィラネルに共感を増していました。呵責や躊躇いの無い人生。それは非常に優雅で麗しく、自信に満ちている。正直、彼女に振り回される人生も良いな...なんて思えるほど、日々が楽しそうに見えてしまった...
物語は、更にMI6の内通者、イヴの上司の策謀、ヴィラネルの上司コンスタンティンの危うさと思惑、イヴの仲間との絆、夫、ヴィラネルの過去の人、ヴィラネルの暗殺者仲間、そして...
無数の登場人物の過去や野心が縺れに縺れ、隙間に詰め込まれた緩いブラックジョークにどっぷり浸りながら、気付けばドラマは血に濡れた混迷の闇に堕ちている。
ヴィラネルはパリのアパルトマンに部屋を持ち願いを叶える。「パリに部屋を持ってる」と誇示しハイセンスな服をイヴに贈ったりもする。しかしヴィラネルはそんなものになんの意味も無いと感じている。彼女はそれを縁の材料に変え、イヴを尽く翻弄する。
何故か。孤独だから。
ヴィラネルは上司のコンスタンティンに特別な感情を抱いている。彼女はジョークめいて何度も彼にこう投げ掛ける「パパ」「家族でしょ」
しかしその関係は容易く壊れるものだと気付いている。実際、壊される。
だからこそヴィラネルはイヴに執拗に近付く。コントロールし、自分から離れられないように、支配の下に甘んじるよう仕向けようとする。しかし、イヴは一向にヴィラネルの想いに応えない。嫌悪の言葉を吐き、恐怖に戦き、銃を向ける。ヴィラネルは更に躊躇い無く仕事をこなし続け、イヴの心を引き裂いていく。それが愛情表現であるかのように。
ヴィラネルはイヴにとって悪縁そのもの。なのにイヴは彼女の贈る服を着てしまったり、口紅を付けたりしてしまう。イヴの夫は口癖のように「信じられない。君はおかしい」と嘆き、イヴはそんな夫に構わなくなっていく。
そして、次第に似た者に染まって行くふたり。
こんな心理はもしかしたら女にしか分からないかもしれない。いや、私の同類くらい?
ドラマに成るのだから、そこそこ居るよね。:p
そうしてストーカー暗殺者VS"変質MI6アナリスト"の壮絶な追いかけっこが始まった。
目的は抹殺?逮捕?それとも...
第一シーズンのラストはちょっと唖然とします。「え...そうなるの?」と思わされました。
イヴにとってヴィラネルはもう目的では無くなっていた。しかし、イヴが溜め込んだ心の重荷は"つい"を招く。
長い追い掛けっこの末に、折角紡ぎ、得たものが、また瞬く間に崩れ去ってしまった。
そうして第二シーズンが始まる。
第二シーズンは混迷から始まる。
序盤のイヴは第一シーズンのラストでしてしまった行為をどう処理すれば良いか分からず、行動から何から調律を乱す。
その為、夫との関係も破綻に傾く。
イヴは元の生活に戻ろうとしたが、心は裏切れず、再びヴィラネルを追い始める。ただし公式には出来ず、新たに発足した"新たな暗殺者"を捜索するチームでこそこそ捜す。
もう尽くイヴは情緒不安定。何かにつけて新暗殺者をヴィラネルに当て嵌めようとする。
その頃ヴィラネルはと言うと、八方塞がり。怪我から緊急搬送されてしまい病院を抜け出す為に人を殺害、故に警察に終われている。更に変質サイコパスに監禁されてしまうし、ロシア暗殺者チームに保護されても相方は異常性格気味...
そしてまた再登コンスタンティン。そして導かれるようにヴィラネルはイヴの前に現れる。
敵味方の関係図は複雑に絡み、縺れ、そして題名である「キリング・イヴ」の時を前にする。
このドラマ...男性は嫌いかも。イヴはいつもぐたぐたしているし、ヴィラネルは危なっかしい頭の中ガーリーなサイコパス。
このドラマは女性向けかと思います。
センシティブで愛らしい女ふたりの秘めた妖しき危なさ、そんな"女"の描きは、非常にリアルなのではないでしょうか?世界に女しか居なかったら、おそらくこんなかも。
追い詰め、銃を向け、最後に口にするのは「その服似合ってる。どこのブランド?」だったりするかもしれない。
捨て台詞は「あなたには似合わないわ。これはね、私のための服よ」
そして唇に口付けをしてしまう。:p
台詞は非常に豊か。ヴィラネルは勿論、イヴにしろ、いちいち人間くさい言葉が交わされる。面白いのは、作戦の話の合間や、殺人や混乱の中でも、お洒落の話を欠かさない。そんな登場人物は、全て強烈な癖持ちである。
コンスタンティン、イヴの上司たち、同僚、相棒、残らずみんな変人。馬鹿にしたり挑発したり、してやったり、ヴィラネルを超えそうな変質ぶりだ。中でもコンスタンティンは非常に厄介。イヴは「あの人嫌い」と口にする。私も彼の胡散臭さに眉を潜めました。また厄介なのにジョークめいて存在するものだから、私は辟易し、さすがに彼の死を望んだくらい。しかし、悪人のさばる...
まあ、作品を彩るブラックジョーク故か、シビアな部分が温くなってしまい、何とも盛り上がらない話もちらほら。更に一番期待したラスト。...ちょっと微妙。
打ち切りなのかなあ?
何と無くいろんなものを置き去りに重要点だけを拾い集めて、一気に終局。シェイクスピア劇のようなシュールで無味乾燥な終わり。ちょっと寂しかったです。
2シーズン全16話。難あれ、それでも結構なお気に入りと成りました。最近では「キャッスルロック」特にそのシーズン2に次ぐお気に入り。ヴィラネルは私のベストキャラ上位です。
女の為の女性ドラマ。でもスパイ戦もそれなりに描かれていて、男性でも楽しめます。...きっと。
Blu-ray化希望。
もうひとつ。女の魅力溢れる映画。
「ラバーボーイ」
父を失い学費と仕送りの為にインターネットライブ配信を行う"ガールハウス"に参加したカイリー。大胆さに一歩躊躇う彼女だったが、故にか人気者に。
しかし彼女の配信はある男の目を惹き付けてしまう。
単純な殺人鬼スリラーものかと...と思っていたら、始まるとネットポルノ映像が!あれ~?と一歩退きました。
しかし暗転。連続殺人鬼テッド・バンディの言葉が。
"私が知る暴力的な男は全員ポルノ好きだ。ポルノは子供を破滅させ、私の正気も奪った"
性こそ暴力を誘う。また何と無く分かるので、ぞくっとさせられます。身に迫るまさに"今、そこにある危機"。ただのネット警鐘だけでは無い根本的な生命の本質的な危惧である。テッド・バンディの自己分析したような一文は記憶に残りました。
そして、ある"ことの始まり"を見せられる。無垢な少年が如何にしてその手を血に染めてしまうか...
非常に狂気に溢れながら、殺人者の"憐れ"も漂います。
時は流れ。大学生のカイリーは先行きを危ぶんでいます。学費、生活費、父の死が彼女の未来だけならず現在をも蝕み始めています。悩みに悩み、彼女はネットでのライブ配信サイト"ガールハウス"に参加する事を決断します。
孤独な子かと思いき、親友も相談に乗ってくれるし、ガールハウスの社長にも物怖じしない。その選択肢しかなかったの?と思いますが、映画ですから、それはそれ。
映画は意外と友情物語。学友、ガールハウス仲間、そして配信を観てしまった旧友。丁寧に綴られたドラマは愛らしくも魅力たっぷり。そこにポルノサクセスを絡め、前半は明るい雰囲気に満ちています。ただし当然、映画は相手の見えないネット配信の危うさを見せつけます。
そして現れる孤独な男性、ラバーボーイ。彼はただの哀れな男性。ネットでのコミュニケーションに生き甲斐を感じ、その言葉はカイリーへのエールと成る。それが嬉しかった。
しかし、彼こそが悪鬼ラバーボーイとなる男。ただの殺人鬼では無く、その切っ掛けや始まりも描き、考えさせます。
つい言ってしまう悪戯めいた言葉、さりげない感謝の言葉さえ相手には意味を違えてしまう時もある。些細なこと。それが、ゆっくりと確実に歪みを生んでしまう...
映像はきちんと撮られています。演出も問題有りません。何しろ安っぽい映画では有りません。女優のクオリティも高く、演技も上々。
またこの映画の素晴らしいところは、性が人の悪意を生む可能性を描きながら、ポルノを卑下していないこと。そしてそれを乗り越えながら育まれて行く絆をも描いている。更にラバーボーイへの哀れみまでも描き、作り手の人間性を感じさせられました。
そして、社長による女性への丁寧な対応は、在り来たりではなく素晴らしい。とても好感を感じました。支配的だったり、強要したりなんて事はしない。女性たちをはべらして悦に浸るタイプでもなかった。
...理由はさり気無く描かれています。「あ~それで...」となります。
中盤からは典型的スラッシャーもの。残虐映像は高く無いので、ホラーの体でもスリラー風味。見せ方が上手いからか、ゴア目当てでも物足りなさは感じないかと思います。
もう少し駆け引きを楽しみたかったのですが、惨劇が始まったら後は数減らし。ちょっとガールハウスのセキュリティが弱過ぎなのは残念無念。ラバーボーイはなかなかの技術者なので、その辺りの攻防戦も楽しみたかったです。
何より女性のセクシャルな姿が映画を彩り、全編に渡り非常に華やか。ネット配信やチャットを恐怖の味付けにしたり、逆に助けの切っ掛けにも成ったりと、設定を無駄にしない見せ方は非常に頑張り効いています。先読み出来ない展開では有りませんが、テンポは非常に良く、台詞も愛らしい。クライマックスまでネット配信を利用した、ギミックたっぷりの目が離せない緊張感は見事です。
とても見応え有りました。お気に入りです。
☆しばらく暖かい日々が続いていましたが、一転、寒い。風邪をひかないように細心の注意をして、毛布にくるまって過ごしています。
隙間に映画♪
でもちょっと外してばかり。でも諦めないぞ。今日は何を観ましょかな?
今、一番大変なのは、今日、収入を減らした人だけで無く、必死で仕事を探していた人もそうです。何らかの事情で収入が無かったりしている人も。
国よ、経済を一番にで構わないから人も救って欲しいです。
こんな時に近所の自衛隊は演習三昧。自衛隊基地を人命救助に使ってくれても良いくらいなのに。
国の借金、大丈夫?