連載記事　私とヤクザ（１）どんなことしてでも金を稼いでやる　搾取されてたまるか！！

私は貧しさの中で幼少期を過ごしてきました。そして私が高校生の頃には家族が今まで一番安定していたような豪華な暮らしだった。生活保護世帯などではなくて県営団地に住んでいました。
12階建ての12階に住んでいて、家から見える景色は東シナ海の青い海と晴れ渡った空が印象的でした。

夜になると浦添市内の米軍基地の煌々と照らし続けるまばゆいばかりの夜間照明灯さえも美しく見えたものです。県営団地に引っ越しが決まった母親の喜びようは今でも忘れられません。そこでは人生で初めて私に３畳の部屋が与えられました。

３DKの住まいは私の部屋、約６畳の父と母の寝室にテレビなどが置かれた同じく６畳の部屋は妹の勉強机なども置いてあり妹だけの部屋とまではいえませんが、それでも家族は満足しながら暮らしていました。
当然、冷暖房機器などは寝室にしかなくて私の部屋などは、いつも暑くて大変でしたが、それなりに当時の彼女などと楽しく過ごしてた思い出があります。

夏の暑すぎて寝苦しい夜には6畳の冷暖房付きの部屋に父親、母親、私、妹の4名で寝ていました。私の母は、たいがい父の足のマッサージをしながら寝ていたのを思い出します。
そのマッサージも少し変で手で揉むのではなくて、面倒くさかったのかは今となっては知る由もありませんが、母の足で父の足を踏んづけるような姿勢で行っていました。

そんな母親は家族を育てるために本当に働いてばかりでした。朝は早くから新聞配達、それが終わると家族の朝食と片付け、私たち送り出してからは配達の仕事を夕方に終えると
夕食と片付け、そして夜には近所の居酒屋で働き深夜帰ってくるような日々でした。それでも大病をすることなく現在も元気で暮らしていますが改めて振り返ると本当に、いくら感謝しても足りないくらいです。
そんな朝から晩まで働きづくめの母親が「破産宣告」したのも、丁度その頃でした。

母親が「破産するのも金がかかるなんて信じられないさ～」と話していたことを覚えています。原因はサラ金などから生活をするためにお金を借りて利息ばかり払いながら元金が全く減らない。
朝から晩どころか深夜まで毎日働いても借金は一向に減らないし、生活が楽になるわけでもない。まさに「サラ金地獄」です。利息を支払い続けて計算してみたら、とうの昔に元金分くらいは
払っているような状態だったと思います。

私の母親は当然ですがギャンブルもするわけでもない、自分のことにお金を使うようなことは殆どない。家族の生活をするためにサラ金から金を借りて家計をやり繰りしてきただけ。
別に行きかったわけでもないですが、家族で海外旅行なんか行ったこともなければ、国内旅行などにも1回も行ったことはありませんでした。

家族で外食などもしたことは年に数えれるくらいでしょうか。そんな暮らしのなかで母親は破産宣告に追い込まれたのでした。母親が一番心配していたことはサラ金から借りたお金を返済日に返せなくなったら取り立ての電話や家への訪問などがやってくることでした。
気が強い母なのでサラ金の高圧的な態度などは、あまり苦ではなかっただんだろうと思いますが、私の父親にバレるのが嫌だったのです。

だから私の当時の仕事は、まず父が仕事から帰宅するまでに家の固定電話の有線を外すことでした。しかも露骨だと父に万が一ばれたら変な疑いがかかるので
さりげなく何かの拍子で外れたのかな、という感じの塩梅でした。幸か不幸か生前の父にバレたことはなかったと思います。ただ私としては父は昼勤のタクシー運転手で帰ってきたら地元のオリオンビールを寝るまでに毎日5本は呑むのが習慣でした。泡盛とかは全く飲まない父でしたが、とにかくオリオンビールばかりを呑んでいました。そして夕方になると近所のゴルフの打ちっ放しへ出掛けるのです。
そんな両親の関係を見ながら私は、なぜ母親だけが必死に朝から深夜まで働かなければいけないのか。こんな甲斐性のない父なんかと、いっそ再び離婚でもしたらいいのに。
そう思うことが何度もありました。

ただ私の母としては、その頃の父は酒を呑んで暴れることも少なくなってきてたし、それだけで平穏無事に暮らせるのだから余計なことを言って夫婦喧嘩などするのが嫌だったのではないかと思います。そういう母の気持ちは痛いほど理解できます。また母は破産宣告をしたことに対して何も後ろめたい気持ちもなかったように思えました。今までの借金が帳消しになったことで、むしろサッパリしたような感じでもあったでしょうか。ただ私としては私自身の問題として母の破産宣告という問題は悔しくもあり無力感に満ちた心境でもありました。

私の母は沖縄で生まれ物心つく頃には両親とは離れて親戚の家へ預けられて育ちました。中学を卒業して直ぐに親戚の家が嫌で寮付きの職場を探し働きに県外に出たのです。
15歳くらいから母は一生懸命働いてきました。実の母に育てられずに寂しい思いをしたことも多々あったでしょう。そのような母は本当に普通の暮らし、幸せな家庭を理想としていたとのだと思います。

そんな母が夢見てた「普通の暮らし」が脆くも音を立てて崩れていくような感覚に襲われました。
そして朝から深夜まで働き続けても借金が返済できない仕組みや、その努力が報われない社会に対して理不尽だと心の底から怒りが、こみ上げてきました
当時の私は母に対する恩返しや何もしてあげられない罪悪感と同時に私は絶対に成り上がるんだ。金と力を手に入れて搾取され続ける弱者のような人生は歩まない。
まるで呪文のようなフレーズが私の背中に重くのしかかり、いつしか私は友人たちにも同じような呪文を繰り返していたのでした。搾取される社会の弱者の一員には絶対になりたくない。