連載記事　日本のヤクザの9割は「差別されてきた人々である」

日本のヤクザの9割は「差別されてきた人々である」

公安調査庁で調査第二部部長を務めた元公安調査官　菅沼光弘（すがぬまみつひろ）氏が2006年（平成18年）10月19日に行われた外国特派員協会における講演で語った内容だ。

「日本を知るには裏社会を知る必要がある」と述べながら日本の暴力団構成員は、警察調べで8-9万人で、実際にはもっと多いと思われると述べ、山口組のナンバー2である髙山清司から聞いた話として、
ヤクザの出自の内訳は6割が同和（被差別部落）、3割が在日コリアン（韓国系のほか、朝鮮系が1/3）、
残りの1割が同和ではない日本人やあるいは中国人などであるという見解を示している。

全構成員の内、半分以上が六代目山口組であり、稲川会、住吉会を合わせると7割以上を占め、山口組が日本全国を支配する勢いである。この統計は少し古いものであるが基本的な勢力図などには、さほど変わりはなく全体像を把握するには最適だと思う。この講演内容には触れられていないが九州のヤクザ組織なども道仁会・誠道会・工藤会・太州会・福博会の5団体が、福岡県に本拠を置いている。

福岡県は、日本の暴力団が最も集中している地方でもあり、私も福岡刑務所へ服役していたことがある経験から、おのずと九州のヤクザと仲が良くなり彼らの生い立ちや育った環境、ヤクザとしての思い、人生の価値観などを何度も刑務所内や出所してからも酒を呑みながら語り合ったことがある。

九州のヤクザの抗争は熾烈極まりないことで有名だが、ここでも歴史的な差別の構造が存在している。
日本は鎌倉幕府から明治時代に至るまで、一種の封建制度を敷いてきた。最も卑しい身分階級は、「穢多」、「非人」とされる労働者であった。彼らの子孫もまた、穢多・非人の身分しか得られない。この2つの身分は、漢字を見ただけでも蔑視と屈辱に満ちている。

福岡県は石油時代前、日本一の石炭生産地であった。炭鉱という過酷な労働環境下で肉体労働に従事していたのは、穢多・非人とされた賤民たちだった。「土方」（どかた）「ヨイトマケ」などのフレーズで知られる「ヨイトマケの唄」は美輪明宏が自ら作詞作曲した1966年のヒット曲だが
福岡県筑豊炭鉱町とのコンサートをキッカケに労働者を歌う楽曲を作ったという。
そんな福岡県内には、穢多・非人の住まう部落がある。現在の日本人の中でも、かつての身分階級制度が根強く残っている。

いわゆる同和（被差別部落）問題である。このような差別の問題は近年でも存在する。

それを象徴するのは2008年8月24日、野中氏はTBSの「時事放談」に出演した際に怒りを隠すことなく
「かつて自民党総務会で、野中は部落出身者だから、日本の首相にするわけにはいかないと発言した者がいる」と語った。その発言者はほかでもない、福岡県出身の麻生太郎元首相だっという。麻生氏の曽祖父は、日本で有名な「石炭の王」だ。自民党の野中広務元幹事長も部落の出身で、賤民の末裔として蔑視された。

たびたび書いてきたように裏か表で生きるかという「生き方は」出身地や身分、環境も大きく、その人間の人生を左右することが、この一件でも理解できるのではないだろうか。
私は何も自分の過去、いわゆるアウトローとして生きた20代、ヤクザ時代の30代などを正当化するために、このような事実を述べているのではない。差別されてきた環境から真面目に生きてきて成功する方々も、たくさん知っているし本などでも読んできた。

そんなものは本人の努力次第だと考える方々もいるだろうし、確かにそういう側面を全面否定する気も毛頭ない。だからといって「差別されたきた側」や「差別してきた側」の歴史の意義は問われなければいけない。そして、いつの時代も抑圧されてきた人々の鬱積したフラストレーションや怒りに満ちたエネルギーは、どこかで爆発するだろう。

余談ではあるが自民党の野中広務元幹事長は京都出身だが、私は偶然にも彼（野中）の親戚にあたる筋と昔から仲が良かった。京都出身で女性だが気が強くて商売上手でもあった。当時は手広くビジネスを展開しながら様々な商売をしていた。また私が堅気になってからも未だに連絡を取り合う間柄でもある。

そして私がヤクザから足を洗う決心をして故郷の沖縄から離れていく際にも「その決意に対する餞別」を手渡してくれたのは今でも忘れない思い出でもある。そんな彼女も同和関係者であったと自ら私に告白した過去があった。

「ヤクザの社会は差別がない」

山口組の全国進出の尖兵「在日ヤクザ　殺しの軍団　柳川組」

「殺しの軍団」との異名を取った柳川組は、山口組の全国進出の尖兵として関西から北陸や山陰、東海、そして北海道へと勢力を拡大し、1969年に解散するまでに1700人の構成員を数えた。
「ヤクザもんの社会は差別がない。終戦直後のあの時代でも人間同士の付き合いがある。そういうところがあったから飛び込んだわけですよ」
これは山口組きっての武闘派・柳川組を率いて、最強の在日ヤクザとして恐れられた柳川次郎（本名ヤン・ウォンソク。1991年没）の言葉である。

組を解散してヤクザの世界から足を洗ってからの後半生は、闇に埋もれた日韓戦後の隠された裏歴史でもあった。柳川次郎がヤクザから足を洗い堅気となり亜細亜民族同盟（あじあみんぞくどうめい）という右翼団体を創設しているが私が現役の頃には亜細亜民族同盟の幹部とも何度も会食したことがあった。
その当時は柳川次郎は既に亡くなり直接会ったことはない。

さて、ここまで書いてきたように「ヤクザという生き方」は思想などではなくて、ある種の自然発生的に集まった共同体のようなものである。そして時代が移り変わっていく中でも「差別がない世界で成り上がる」という単純明快で本能的な営みの姿であると私は思う。
「飯を食っていくこと」や「若い衆に飯を食わせていく」ことが何よりも大切なことであり、そこから疑似家族としてのスタイルが確立していったのだと思うわけです。

一応は建前上、義理や人情、任侠道という、いわゆる儒教の精神などを大切にしながら、組織に何かがあれば自分を犠牲にしてでも懲役に行く。敵対する組織と抗争が起これば真っ先に戦火に飛び込み命さえも顧みない。そういった「男を磨く」というヤクザとしての美学も実際に確かにありはするが基本的には「社会的弱者」の共同体がヤクザの原型だと私個人的には思います。

そして疑似家族というスタイルだからこそ、ときには身震いするような感動のドラマもあったり本当の家族のような温かい血の通った関係もあったりするわけです。
でも逆に疑似家族というスタイルだからこそ裏切り行為などには断固として許さないところがあるし組織を維持しながら守るためには24時間当番制という押しつけがましい独特の掟があったりもするのです。

この記事は連載記事です