5月12日 火曜日 暴風雨
金剛福寺を打ち終えて、足摺岬方面から台風前夜に何とか辿り着いた善根宿。
そこには先客のお遍路さんが一人居ました。
山梨県在住の一部上場企業に勤める男性で30代。安藤陽介氏でした。
安藤氏は金剛福寺を打つ道中で台風を避けて
善根宿に辿り着いたとのこと。
長期の有給休暇を貰い四国遍路を打ち遠しで行脚する予定らしいです。
打ち通しとは、その名の通り一度も帰らずに88ヶ所を巡礼することです。
多くの方々はGWやその他の休暇を利用して四国遍路を巡礼されるのであります。仕事や生活があれば当然そうなります。
それを区切り打ちと呼んでいるようです。
それくらいの志で四国遍路をされるのだから愚僧は本当に頭が下がります。
それはそうと台風6号の影響で5月12日は大雨に襲われました。
叩きつける豪雨が手作り善根宿のトタン屋根を休むことなく打ちます。
雨漏りが心配でしたが大丈夫で安堵した我々でした。
とりあえず我々と安藤氏も今日は休んで様子を見ることに。
久しぶりの休暇です。実に33日ぶり。
本当に心身ともに癒されました。汚い部屋だけど布団も毛布もあります。
便所も簡易式だけどあります。風呂も愚狂庵(伊勢の我々が居住してる寮)よりも立派です。
善根宿を管理してる方は漫画家の黒崎一人(くろさきかずと)氏。50代
愚僧と直ぐに意気投合した黒崎一人氏。
この人物も波瀾万丈の人生を歩いていました。
30代の頃には少年ジャンプや少年マガジンにも漫画を描いており絶頂期。サラーリマン金太郎の作者とも旧知の仲であります。しかし
その後に段々と仕事の依頼が激減。失意の時代が続いた後に、遺書を懐に忍ばせて埋葬費用の10万だけを持参して四国遍路を巡礼。
その巡礼道中に心打たれて四国遍路巡礼を題材にした漫画を執筆(55歳の地図)しかも浮浪者と共に高知市内の公園でテントを張りながら。
その半生を高知新聞が取材して報道。
それを読んだ善根宿の現オーナーである金平氏が公園へ部下を使い捜し出して管理人にるなるように依頼。
現在は管理人になって7ヶ月目になるそうであります。
その模様も高知新聞が報道。
その他の裏話も数々ありますが、これは記事に出来ません。
まあでも面白い人生ではありませんか。
ネットで検索してみると何ヵ所か批評されていました。
読者の皆様でも興味あれば一読をお願いします。本当に黒崎氏は無報酬で善根宿を一生懸命に支えています。
黒崎一人氏について
愚僧も浮浪者の溜まり場を探したんですが。
それは良いとして
元々、この善根宿は現オーナーの金平氏の御母堂が奉仕活動として、支えられてきたのですが亡くなり荒れ果てた状態になっていたところを再興されています。
愚僧はこの善根宿が気に入りました。
黒崎一人氏も、しきりに「私もそろそろ旅立ちたいんだよ。誰か管理人居ないかな?」
と持ち掛けてきます。
本当は5月14日からの風呂も黒崎氏の配慮で入れさせて頂きました。なので何かの恩返しをしたいと考えていました。
一週間くらいなら奉仕活動をさせて貰うのもありだな。
河村君とそんなことも話していましたが問題は店の周辺に売店やスーパーがないのです。
というのも我々は38番札所金剛福寺を打ち終えて豪雨の中、必死の思いで善根宿に辿り着いたわけです。なので昨夜の夜食は補充して持っていましたが、今日の食料はありません。そこで久しぶりに一日くらいなら、断食でもして瞑想しながら、ゆっくり過ごそうかと考えていたんですが、先に紹介した善根宿で知り合った安藤氏が優しくて食料を「河村君は若いので私のをどうぞ食べさせてあげて下さい」と言うのです。
施しとはいえども、そんなことをして頂くわけにはいかない。ということで山道の路地でヒッチハイク托鉢をしたのです。河村君が30分。愚僧が30分で交替づつ。横殴りの雨が凄い・・
(豪雨の中ヒッチハイク托鉢をする河村君)
40分くらいで停車して頂き乗財を。
地元の叔母さんに売店へお願いしますというと了承してくれたのですが20分くらい片道かかるわけです。歩けば往復2時間。しかも急坂多い山道です。
なので当日の食料は確保できたのですが奉仕活動するにしても売店へ往復2時間では・・
黒崎氏は一週間に一度くらいを目安に自転車で街に降りて行くとのことでした。
なので今回は諦めました。
この津呂の善根宿は本当に歩きお遍路さんにはお勧めです。
(善根宿の室内)
かなり大きめの善根宿です。お遍路さんの無縁仏供養塔も建立中です。
(無縁仏供養塔を建立計画している隣接する土地)
黒崎氏曰く四国遍路巡礼(特に歩き遍路)で亡くなる方は多いらしい。
黒崎氏自身が公園でテント生活をしていた頃にも公園の公衆便所で5人の首吊り自殺を発見したらしいのです。
他にも歩き遍路の方々が体調不良で亡くなる例もあるようです。しかも身元不明が多いとのこと。
我々はまだ一度も自殺を考えて来たような方とはお会いしていません。
ただ大袈裟ではなくて霊場で力尽きて死ぬ美学みたいな感じは愚僧もあります。
愚僧みたいな愚かな悪いものは長生きするらしいから困るのですが。
四国遍路は本当に様々なドラマがあります。
(善根宿の壁に貼り付けられた写真や思いでの数々。会社員や様々なアーティストや難病(筋ジス)のお遍路さんが各々の思いで霊場を歩かれている)
それはそうと、台風のお陰で本当に新たな仏縁が成就しました。本当に感謝しています。
安藤氏とも尽きることない人生論を語りながら有意義な時間を過ごせました。
河村君も本当に楽しそうであります。
夜には台風も過ぎ去り雨は嘘のように止んで
満天の星空でした。
このように悩んでる方々の苦しみや悩みは必ず通り過ぎていきます。
人間の思考も必ず(思考に)巻き込まなければ、それらは通過します。
台風とて同じであります。台風の中心は無風状態です。云わば空(くう)であります。
人間の本来の自己は台風の中心と同じ様な意識であります。すべてを見守り続ける宇宙的な意識です。それは侵されることない永遠の自己であります。
仏教で言うところの空。
禅で説くところの本来の面目。
道教で説くところの道。
それが瞑想の基本であります。
その頃に東京在住の刎頸の友が大難を小難にして救われた報告を頂いた。
愚僧は各札所で祈祷をさせて頂いた。
このような祈りが届くと本当に理屈抜きに感無量なのであります。
満天の星空を見上げながら下手な俳句が生まれた。
ホトトギス 満天の星 友帰る
明日は晴天で清々しい行脚が出来そうです。
(漫画家で現在は善根宿の管理人。黒崎一人氏と)
愚僧は黒崎一人氏と語りながら様々な想いが去来してきました。
ふと、夏目漱石の著書の一文が
住みにくさが高じると、安いところへ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生まれて、画ができる
「草枕」
(右上の赤い押しピンが愚僧の納め札)
なんくるないさ~