11月、私の仕事は一年の中で最大の繁忙期を迎える。
この一か月強は土日のどちらかは出勤、11月に二回ある祝日も休めずに残業が60時間を超える。
フルリモートで通勤はないとはいえ、なかなかハードなのである。
昼休憩も満足に取れないため、朝のうちにセットしておき午後に焼きあがったホームベーカリーで焼いたパンを片手に、ひたすらPCに向かう日々。
晩御飯も作る時間もなく、主人に頼んでコンビニで買ってきてもらったり、
デリバリーを利用したり。
そんな私を気遣ってか、主人は毎日のように「マックでいいよ」と言う。
「毎日マックはさすがに飽きるよ」と言っても、
日に何度も「マックでいいよ」と言う。
「何回も同じこと言わないで。今日はコンビニで済まそう」と言っても、
数時間後には「マックで・・・」となる。
そしてこの頃から、「そろそろ起きて」「歯を磨いて顔を洗って」「お風呂に入って」と何度も言わないとやらないようになった。
起こさないといつまでも寝ている、起きてから歯も顔も洗わない、夜も急かさないとお風呂に入らない。
一回二回ではない、何十回も言わないと動かないのだ。
ただでさえ忙しい時期、寝る時間も少なくなっているのに、全く動かない主人にイライラが募る。
しかも私はペットロス状態、愛猫の死から立ち直れないままの繁忙期突入。
心身ともに疲労困憊だ。
そんな状態が続き、いよいよ主人がおかしいかもしれないと思うようになった。
日中に黙って散歩に出かけたり、相変わらずゴミ捨てにこだわったり、私のWEB会議中に急に部屋に入ってきたりを繰り返す。
会話もチグハグというか、こちらが話している途中で急に違う話をしてきたりする。
私がちょっと買い物に出るときにも「どこ行くの?何時に帰るの?」としつこく聞く。
何回もテレビでやっている映画やドラマの再放送を、さも初めて観るようなリアクションをしたり、昼間やっていたニュースを夜の番組で取り上げているのを観て「え、こんなことがあったんだ」と驚いたりする。
相変わらず服は同じものしか着ないし(さすがに寒くなったので上着は着るが)、
タバコをつけたままトイレに行くのも続いていた。
そして11月のある日、散歩から帰ったあと、「あれ、帰ってたの?車がないから出かけたのかと思ったんだけど」と言った。
平日、しかも超絶繁忙期に日中に出かけるわけはないし、そもそも主人が散歩に行ったときは私はいたのに、である。
「え、車がないってどういうこと?」
「駐車場に車がなかったんだよ」
「そんなわけないでしょ?」
「いや、本当になかった」
本当になかったら盗難である。
慌てて駐車場に行くと、当然だが車はあった。
「あったよ」
「いや、さっきはなかったんだって」
「見間違いでしょう」
「そんなことはない、絶対になかった!」
この出来事で「もしかして認知症なのかもしれない」と思い始め、認知症についてネットでいろいろと検索をしてみた。
今まで認知症についてあまりよく知らず、食事したことを忘れる、徘徊して迷子になるくらいのイメージだったのだが、調べてみていくつか主人にも当てはまる項目があった。
「認知症かも」という疑念が大きく膨らんだのだった。