東日本大震災から2年になります。
日本のテレビでは、いろいろ特集番組が組まれているようです。まだまだ復興にはほど遠いという現実が報道されています。また、東北地方以外では忘れられようとしているという危機感もあるようです。
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さて、こちらは3週間も前の話ですが、ほとんど忘れ去られているのではないでしょうか。
ロシアでの隕石落下。
実は、科学的・工学的に何が起きたのか、知りたくて、色々調べたり考えたりしているうちに、こんなに日数が経ってしまいました。今さらながらの感がありありですが、せっかくですのでアップしておきます。
調べていて、最初にネットでまとまった説明として引っかかったのが、毎日新聞の『質問なるほドリ:落下した隕石、なぜ火の玉に?=回答・野田武』という記事でした。
(毎日新聞 2013年02月16日 東京朝刊)
http://mainichi.jp/opinion/news/20130216ddm003070048000c.html
(引用開始)
Q 火の玉みたいになって落下したけど、なぜ燃えるのかな。
A 地球の周りは、空気を含む大気圏(たいきけん)が取り巻いています。隕石が大気圏に入ると、前方に ある気体が急激に押しつぶされて、これに伴ってエネルギーが高くなり、温度が上がります。物理学で「断熱圧縮(だんねつあっしゅく)」と呼ばれる現象で す。高温になるせいで、隕石に含まれる岩石が溶けて燃え始めます。周りの気体も燃焼して、火の玉のようになるのです。(引用終わり)
「岩石が燃える」? 「周りの気体も燃焼」?
これはおかしいのでは?。。。。ということで、色々関連の現象を調べ始めたら、自分でもよくわかっていないことが多々あり、時間がかかってしまったという次第です。
その後、Wikipediaに
2013年チェリャビンスク州の隕石落下
チェバルクリ隕石
という記事が出ています。よくまとまっているので、これを参考にしながら、先の疑問を含め、私の興味のある点とそれに関連する事象についてまとめてみます。
(実は、「衝撃波」とはどういう現象か・なぜ起きるのか、おおよそわかっているつもりでしたが、よく考えると混乱してしまう点が出てきたのが、書くのに時間がかかった理由のひとつでした。ネット上ではいろんな見解があって必ずしも一致していなかったので、私も混乱しました。まだすっきりしていないので、衝撃波については書くことをあきらめます。
それから、隕石の進入角度とかも科学的に大事な話のようですが、パスします。)
<現象>
2013年2月15日 現地時間9時15分に煙の尾をひきながら落下する火球が観測、9時20分26秒に上空およそ20kmで爆発し、分裂して落下。
これに伴って発生した「衝撃波」により、窓ガラスが割れるなどの被害が出た。
<隕石>
NASAの推定によると、分裂する前の大きさは直径17m、質量1万トン。
落下速度は秒速15km=時速54,000km=マッハ44(音速の44倍、マッハ53とも)というとんでもない速度。
●なぜ高温になる?
これが第一のポイントです。
結論的には、毎日新聞に書いてある通りで、空気が圧縮されて「断熱圧縮」という現象で発熱するようです。これは、自転車のタイヤに空気入れで空気を入れると、タイヤや空気入れが温かくなるのと同じ原理です。気体を圧縮すると発熱するのです。
モノが気体中を移動しただけでは、気体がモノの周りを避けるように流れるだけで発熱はほとんどありません。(厳密には少しはあるはずですが。)しかし、隕石のような超高速では、空気入れのような筒もないのに空気(の一部)が逃げ切れずに圧縮される結果、発熱するようです。
この発熱は、よく「摩擦によって発熱する」と説明されることが多いです。
例えば、『所さんの目がテン』 でも、摩擦によって高温になると説明されています。
私も漠然と摩擦によるものと思っていたのですが、これは間違いのようです。
●岩石が「燃えている」ってのは本当?
次に、私が疑問に思った毎日新聞の記事の記述
「高温になるせいで、隕石に含まれる岩石が溶けて燃え始めます。」
について考えます。
そもそも「燃える」とはどういうことでしょう?
色々な定義がありえますが、最もふつうには可燃性物質が酸素と化合する化学反応のことです。
それでは、隕石は「燃える」ものでしょうか?
それを知るためには隕石の組成を知らなければなりません。
チェバルクリ隕石の記事では、
「普通コンドライトに分類される石質隕石である。組成の初期分析結果は、金属鉄が10%であり、L型に分類されると思われる。」
それで石質隕石をみると、
「主要鉱物としては、かんらん石(40–50wt% )、輝石(15–25wt%)、鉄 ‐ニッケル合金 (3–23wt%) からなる。」
とあります。
かんらん石は、
Mg2SiO4(苦土かんらん石)と Fe2SiO4(鉄かんらん石)
輝石は
XY(Si,Al)2O6 (ただし、X はCa、Na、Fe2+、Zn、Mn、Mg、Li、Y はCr、Al、Fe3+、Mg、Mn、Sc、Ti、V、Fe2+)
のようです。
鉄やニッケルは、高温で酸素と反応して酸化物になるでしょう。だから「燃える」と言えると考えます。
他のかんらん石や輝石の成分についてはよくわかりませんが、すでに酸化物ですので、「燃える」かどうか疑問です。(ただし、まださらに酸素と化合する余地はあるようですので、高温ではもしかしたらさらに酸化することもあるかもしれません。その前に化学的に分解するかも。)
毎日新聞の記事は「隕石に含まれる岩石が溶けて燃え始めます」と書かれていますが、私自身はかなり不正確といわざるを得ないと考えます。
さらに漢字の使い方も間違いです。科学的な記事なら、固体が水などの液体に溶解する場合(dissolve)に「溶ける」の字を使い、固体の温度が上がって液体になる場合(melt)は「融ける」を使うべきです。
●周りの気体が燃焼する?
毎日新聞:「周りの気体も燃焼して、火の玉のようになるのです。」
私がもっとも引っかかったのはこの点でした。「周りの気体」は空気であり、酸素と窒素です。酸素は自分自身は燃えないし、窒素も少しくらい酸化物ができるかもしれませんが、(例えばプロパンガスのように)燃焼するとはとても言えないと考えます。この記事は、何を言っているのでしょうか?
鉄の沸点は大気圧下で2862℃であり、気圧の低い上空ではさらに低いので、今回想像されている「表面温度」では気体の鉄が発生している可能性があります。それだと酸素と化合して「燃える」ということがありえますが。それにしても、これを「周りの気体も燃焼して」と書くべきかどうかは、きわめて疑問です。
一般の読者向けに簡単に書いた記事でしょうが、あまりにもアラが目立ちます。
●「火球」の温度は?
さて、直径17mもの岩石の塊。その温度はどうなっていたのでしょうか?
隕石の前方部分では断熱圧縮により空気から熱が伝えられて高温になります。この熱は岩石の内部にまで伝わるのでしょうか?
真面目に計算すると結構難しい計算になりますが、ここでは簡単のためにいろんな仮定を置いてラフに計算してみました。(というか、それしかできませんでした;笑)
直径17mの岩石のうち進行方向の1m四方の表面とその内部に1mの立方体部分、すなわち1m3の塊の部分を取り上げて考えてみます。
物性ですが、岩石成分よりも熱が伝わりやすい鉄やニッケルをおおよその基準にします。
密度: 8g/m3
比熱: 0.1 kcal/g・℃
熱伝導度: 80 kcal/m・h・℃
隕石が地球に侵入してくる前は宇宙空間にいたので、きわめて低温(マイナス270℃?)だったと考えますが、エイヤと仮定して計算を進めます。
進行方向の表面が2000℃、1m奥(この立方体部分で表面と反対側)が0℃、さらにこの間が直線的な温度分布であったと大胆な仮定をします。(すなわち真ん中の0,5mのところは1000℃。)
このとき、熱はどのように伝わるか、それでどのような速さで温度が上昇するかと見積もります。
この大胆な仮定に従うと、この塊の熱伝導方向断面1m2について熱が伝導する速さは、
(80kcal/m・h・℃)×(2000℃/m)×(1h/3600s)×(1m2) ≒ 40 kcal/s
となります。
1m3の物体の質量は 8,000 kg。この物体の温度を1℃上げるのに必要な熱量は、800 kcal。
したがって、(我ながらかなり無理な計算ではありますが:汗)この1m3の塊全体の温度を、表面からの熱だけで1℃上げるのには800/40 = 20秒必要となります。表面が6000℃とすれば、7秒です。
最初に直線の温度分布を仮定しましたが、実際には、もっと表面に近い部分だけが高い温度になり、内側に向かって急激に温度は低くなって、内部になるほどなだらかな温度分布になるはずです。
それでも、きわめてラフな計算ではありましたが、隕石が大気に突入してからわずか5分=300秒の間に、直径17mの巨大な塊の全体が高温になることなどはあり得ないことだけははっきりしたと考えます。
すなわち、隕石全体が高温の火の玉になっていたことは決してないだろうということです。
●実際には何が起きたか?
では、実際には何が起きたのでしょうか?
ここでもう一点重要なことは、鉄にせよニッケルにせよ、融点が1500℃程度だということです。岩石成分は調べ切れていませんが、地球上の一般の主要な岩石成分であるシリカ(二酸化ケイ素)も、1650℃程度です。
表面温度が2500℃といわれていますが、その表面は融けて液体になってしまいます。これがマッハ44の速度で動いているのですから、当然表面で融けた液体はそこにとどまることはできず、振り飛ばされます。したがって、実際には、進行方向側の表面の岩石が融けては散り、融けては散り、を繰返すことになると想像することは容易です。
隕石の通ったあとに白い煙が見えますが、これはこの融けて散った岩石や金属の塵であると考えます。
●隕石の後ろ側では何が?
隕石の進行方向が断熱圧縮で高温になることはたくさん書かれていますが、隕石の後ろ側で何が起きるか書かれているものを見つけられませんでした。
前方で断熱圧縮が起きるのであれば、当然、後方では断熱膨張が起きるはずです。
すなわち、隕石の後方では空気が急激に膨張させられて圧力が低下し、温度が極低温になっていると想像します。
これは飛行機雲ができる原理(のひとつ)でもあります。隕石の後ろの白煙の一部は、空気中の水分が急激に冷やされてできた氷かもしれません。
●隕石の回転?
隕石はどんな飛び方をしていたのでしょうか?
石を投げたときを考えてみれば、無回転であることを想像する方が難しいように思います。きっと何らかの回転をしていたはずと想像します。
さらに、先ほどの議論で、表面が融けることにより形状も変化しますので、空気抵抗も変化し、これも不規則な回転を助長するかもしれません。
●爆発の原因
隕石は上空20km付近で爆発したようですが、その原因は何でしょうか?
もちろん、爆発と言っても、ガス爆発のような化学反応による急激なガス発生・膨張などではなく、単なる物理的な崩壊と考えます。崩壊した破片は、それぞれが断熱膨張の空気で加熱させられ、融けては散って、細かい粒子になり、風で漂ったりゆっくり地面に落ちたりしてしまい、ほんの一部が目に見える「隕石」として地上に落ちているのでしょう。
私は最初、漠然と高温になった部分と低温のままの部分の熱膨張率の差に耐えられなくなったのではと想像しました。
今までの議論から、隕石が回転していて、ある特定の部位があるときは2500℃、数十秒後(?)にはマイナス百度(?)という温度変化を繰返したことも、固体を脆弱にして崩壊させる原因になったかもしれません。
●UFO?
隕石はUFOにより撃墜されたという動画がYouTubeなどで出回っており、ネットでの話題になっています。それらしい動画は簡単に捏造できる時代ですので、もちろん私は真実とは考えません。
以上、時期を逸した話題で、しかも長文でしたが、天文の素人が、工学的な知見からの想像をまとめてみました。ここまでガマンして(笑)読んで頂いた方には、漠然と想像されていた様子とは違ったものだったのではないでしょうか?
あくまでも素人の想像ですので、間違っているかもしれません。どこかで天文のプロがこんなことをやってくれればいいのに、と思います。
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