もちろん、きわめて低いリスクで安全だと判断されていることが大前提です。
それでも、フル稼働になるには、節電目標が開始される7月2日に間に合わないようです。
http://mainichi.jp/select/news/20120602k0000m010038000c.html
(引用開始)
毎日新聞 2012年06月01日 20時07分(最終更新 06月01日 20時17分)
枝野幸男経済産業相は1日、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)のフル稼働の時期について「7月を越えるということになる」と述べ、関電などに節電目標を設定した期間が始まる7月2日には間に合わないと明言した。福井県やおおい町の理解を得て再稼働を決めても、起動からフル出力まで6週間程度かかるため。
(引用終わり)
再稼動の方針の判断には、関西広域連合の大阪市の橋下徹市長、滋賀県の嘉田由紀子知事、京都府の山田啓二知事が、当初の反対の立場から意見を変えたことの影響が大きそうです。
これら首長が変節した裏には、地元経済界からの強い不満があったようです。政治というものはそもそも利害関係の調整という部分が大きいですから、多様な意見を聞いて判断を変更することは必ずしも悪いことではないと私は考えます。
その経緯は、産経ニュースのサイトに詳しく載っていました。
「反原発」強硬知事が“変節”した「理由」(2012.6.2 07:00)
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/120602/waf12060207000002-n1.htm
さらに、再稼動を限定的な期間とする関西の首長の意見に対して、地元福井では反発の声が強まっていると。
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/npp_restart/35005.html
(引用開始)
(2012年6月2日午前7時08分)
関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働を事実上容認した関西広域連合の一部首長が運転期間は電力需給の逼迫(ひっぱく)する夏期に限定すべきだと主張している点に対し、県内では「ご都合主義」(西川知事)などと反発の声が強まっている。政府は既に期間限定の稼働を否定しているが、近く来県する細野豪志原発事故担当相に知事はあらためてくぎを刺す見通しだ。
限定的な再稼働は、19日の同連合の会合で橋下徹大阪市長が初めて言及した。藤村修官房長官は「需給の厳しさだけを踏まえた臨時的な稼働を念頭に置いているわけではない」と否定。枝野幸男経済産業相も「福井県やおおい町の皆さんに提示することはとてもできない」と取り合わない方針を示している。
関西広域連合は30日、再稼働を事実上容認する一方で、声明で「政府の暫定的な安全判断であることを前提に、限定的なものとして適切な判断をされるよう強く求める」とした。
「限定的」の意味について統一した解釈は示していないが、一部の首長は「需給をにらんだ暫定的、限定的な稼働」(山田啓二京都府知事)、「あくまで限定的な期間、対象に限る」(嘉田由紀子滋賀県知事)と夏限定の運転を主張。橋下市長は1日も「ずるずると動き続けることは絶対阻止しなければならない」と述べた。
「安全は不十分」(橋下市長)としながら、電力不足を回避するため、短期的な再稼働を求める関西の姿勢に、県内の関係者は猛反発している。
24日に「ご都合主義の勝手なことは話にならない」と述べていた西川知事は、31日にはあらためて「暫定的とはどういう意味か」と不快感を示した。
福井商工会議所の川田達男会頭は1日の通常議員総会で「関西は上から目線で『動かしていいよ』と言っているよう。そんなことを言われる筋合いはない」と批判。「暫定、臨時などという訳の分からないものでは非常に収まらないものがあるが、(再稼働を)ノーだとも言いがたい状況。県民感情として納得できない」と言い放った。
「電気を送ろうという気にならない。(再稼働問題は)地元経済の懸念がなければ放っておく」と不満をあらわにするのは田中敏幸県議会議長。安全確保して再稼働する以上、法定通り13カ月運転して定期検査に入るべきだと指摘した。
立地市町も「安全面からみれば動かす期間は関係なく、理屈に合わない」(河瀬一治敦賀市長)と限定的運転に否定的。一方、時岡忍おおい町長は1日、「(原子力行政は)国が一元的責任を負っている。その国の判断に委ねたい」とだけ記者団に述べた。
(引用終わり)
これを読んでいくつか考えさせられること。
・まず、地元福井県の首長をはじめ、多くの人たちが原発を動かしたいと考えていること。
もちろん、雇用など経済的メリットを意識していることは間違いないですが、それにしても、もし安全に対する不安が大きいとの地元の声の方が大きければ、福井県の政治家は運転反対の立場を取るはずです。
原子力ムラだから、と単純化して思考停止するのは簡単ですが、そこに住んでいる人たちも自分や家族の命が惜しいふつうの人間です。ほとんど全く安全に不安を感じていないであろうことは多分間違いないでしょう。
・逆に、むしろ福井の人が原発の安全に極端なゼロリスクを信じていることがわかって、懸念します。リスクはほとんどゼロに近づけることはできても、どうしてもゼロにはなりません。長期間稼動させれば、事故が起きる可能性は比例して高くなります。安全はきわめて高いとは言え完璧でないという状況では、停電を防ぐという目的とのトレードオフで一時期だけ背に腹は変えられずに稼動するが、短期間で止めるという判断は、理屈に合っています。
個人的には、さすがに今回の福島の事故を受けた検証によって、重大事故の可能性は限りなくゼロに近づいているだろうと想像します。しかし、そもそも原発による発電コストは本当は低くはないし、使用済み燃料の処理方法も決まっていないなどの大問題も抱えていることもわかってきました。
そんな中で、甚大な被害を起こす事故のリスクをわずかでも持ったまま原発を動かす意味は、せいぜい以下のようなところでしょう。
(1) ひとつのエネルギー源(火力の特にLPG)に大きく依存し過ぎないことで、輸入できなくなる・価格が暴騰するというリスクに強い体質になる
(2) 地球温暖化に対して、CO2の発生が火力発電に比べれば少ない(ウランの濃縮や運搬で発生するのでゼロではない)
(3)軍事的な安全保障上、すなわちいざ核兵器を製造しようと思えばできることをアピールできる
(1)(2)は、自然エネルギー(風力・太陽光・地熱・小水力など)による発電を本気で推進すれば原発よりも効果がありますので(短期間での実現は容易ではないでしょうが)、原発でしか達成できないのは(3)だけでしょう。(3)については、誰がどの程度本気で考えているのかは、よくわかりません。
そのような観点から、私は原発の再稼動は、今回、大飯原発を短期間動かすのが最後であってよいという意見です。今まで、原発の補助金などにかけてきたお金は、今後は自然エネルギー活用推進の方に振り向ければ、日本の技術力なら世界で最高の自然エネルギー技術大国になることも夢ではないと考えます。
こういうことを議論しているのが、私も昨年10/19のブログで紹介した「総合資源エネルギー調査会・基本問題委員会」です。
議論が始まった頃、人選をめぐって「原子力ムラの人間が多すぎる」などの意見で大騒ぎされました。私は上記記事で、結構勢力が拮抗しているのでは、と書いています。
今回調べると、委員会は毎月2~4回開催され、5/28に第25回が開催されています。
この委員会の中間報告案が、こちらです。
「エネルギーミックスの選択肢の原案について
~国民に提示するエネルギーミックスの選択肢の策定に向けて~
<中間報告案>」
http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmondai/25th/25-3-1.pdf
あまり注目されていない中で、真面目に議論されてきたことがわかります。ご苦労様です。また、原発推進一色ではないこともわかります。
私が先の記事で、
(引用開始)
福島第一原発の事故を受けて、エネルギー基本計画の見直しは絶対に必要で、そのためにこの委員会が開催されたことはたいへん好ましいことです。
しかし、このように全く意見が異なり、歩み寄りを見せそうもないメンバーを集めて議論して、どんな結論が出るというのでしょうか。この委員会の先行きは全く見通せません。
(引用終わり)
と書いていた通り、意見はまとまってはいません。それは無理でしょう。
そこで、エネルギーミックスの選択肢を提示するという方法を取るようです。これほど意見の異なる人たちの集まりでは、このような報告方法しかないのは理解できるところで、悪くないアイデアと思います。
その提示される選択肢とは、原発の発電比率の観点から(1)~(4)および、市場に委ねるという(5)の5つです。
(引用開始)
選択肢(1):意思を持って原子力発電比率ゼロをできるだけ早期に実現し、再生可能エネルギーを基軸とした電源構成とする。
選択肢(2):再生可能エネルギーの利用拡大を最大限進め、原子力発電への依存度は2030年に向け低減させる。その間、意思を持って、社会変革を行いながら、再生可能エネルギーの普及や原子力安全強化等を全力で推進する。2030年以降の電源構成は、その成果を見極めた上で、本格的な議論を経て決定する。
選択肢(3):原子力発電への依存度は低減させるが、今後とも意思を持って一定の比率を中長期的に維持し、再生可能エネルギーも含め、多様で偏りの小さいエネルギー構成を実現する。
選択肢(4):不確実な状況下での幅広い選択肢を確保するため、意思を持って現状程度の原発の設備容量を維持する。(原子力発電比率は2010 年度より拡大)
選択肢(5):社会的コストを事業者(さらには需要家)が負担する仕組みの下で、市場における需要家の選択により社会的に最適な電源構成を実現する。
(引用終わり)
(5)は、発送電の分離と発電事業の自由化が大前提であり、特に一般市民は少々高くても原発反対の意思を示すために原発事業者は選ばない人が多いでしょうし、そもそも原発による発電事業者が原発の使用済み燃料の処理費用や万一の事故の場合の保険もコストに含めて料金を設定したらきっと価格が高くなって利用者などいなくなると考えられるので、事実上原発停止という結果になるでしょう。
さて、この選択肢は「エネルギー・環境会議に報告する」とされています。
エネルギー・環境会議と総合資源エネルギー調査会との関係は、次のようです。
http://eco.goo.ne.jp/word/energy/S00456_qa.html
(引用開始)
A: エネルギー・環境会議は、政府が新成長戦略に基づき、革新的エネルギーと環境に関する戦略をまとめるため、国家戦略室に置いた会議だ。一方、エネルギーに関する会議としては、エネルギー基本法に基づく「エネルギー基本計画」の策定作業を行う、経済産業省の総合資源エネルギー調査会がある。また、原子力政策については、内閣府・原子力委員会の原子力大綱策定会議が「原子力政策大綱」の審議を行っている。政府は、再生可能エネルギーや原子力などのエネルギー政策については、あくまでエネルギー・環境会議がかじ取りを行うとしている。
(引用終わり)
ややこしいですが、そういうことらしいです。
さらに、最近のニュースでもうひとつ。
総合資源エネルギー調査会の電力システム改革専門委員会で、電力会社の発電部門と送電部門を切り分ける発送電分離についての本格的な議論が始まっています。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/120531/trd12053123130025-n1.htm
(引用開始)
2012.5.31 23:12
電力市場の自由化を議論する経済産業省の有識者会議「電力システム改革専門委員会」(委員長・伊藤元重東大教授)は31日、既存電力会社の発電部門と送電部門を切り分ける発送電分離について、本格的な議論を始めた。分離の方式は、送電網の所有権だけを電力会社に残し、運用は独立機関に委ねる「機能分離」か、電力会社の持ち株会社の傘下に発電会社と送電会社を分けておく「法的分離」のいずれかを選択することで大筋一致した。
会合では経産省が、発送電分離と卸売市場の活性化、電力自由化後の安定供給の確保など、電力市場の改革に向け計5つの論点を提示し、発送電分離を中心に議論した。
発送電分離の形式は、機能分離と法的分離を選択肢として残した。だが、法的分離は送電部門が電力会社の影響下に置かれる可能性があるため、委員からは、「人事交流の禁止や採算の独立性を明確にすべきだ」との意見が多く出された。
経産省は夏をめどに、発送電分離を含む最終的な電力システム改革案を取りまとめ、必要な法改正を経て、平成26年度以降の段階的な実施を目指す。
(引用終わり)
福島第一原発の事故を受けて、私も素人ながら「現実的な範囲で原発の早期廃止」「発送電分離」を訴えてきましたが、冷静な議論が地道に真剣に行われていて、けっこう私が思い描いていた方向に進みつつあるように見えます。
一部のネット上の反原発信者は、何でもカンでも「原子力ムラ!」「御用学者!」のレッテルを貼って対案も出さずに批判・揶揄の大声を上げるだけで一時的に楽しんでいただけだったようですが、こうして地道な議論がしっかり行われている(ように見える)ところを見ると、日本という国は、失敗もするけどそれなりにちゃんと修正できる人たちもいる国で、やっぱりまんざら捨てたものではなさそうだ、と少し頼もしく思えてきます。
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