先日、NHKのクローズアップ現代で「予測できなかった超巨大地震 苦悩する地震学者たち」という番組が放送されていました。
私も昨年3/17に「地震予知連絡会 と クジラの異常行動」という記事に書きましたが、巨額の研究予算を使ってきた日本の地震学者たちは、今回の東日本大震災を全く予想できませんでした。
地震学者たちは、今回、地震のことはまだ全くわかっていなかったという反省を踏まえ、他の専門分野と連携して、何とか防災に役立つ情報を出せるようにしたいと模索している、というのが趣旨の番組でした。
こちらに詳細な紹介がありましたので、ご興味のある方はどうぞ。
http://cgi4.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail.cgi?content_id=3144&html=2
さて、その中でひとつの事実が紹介されました。
(引用開始)
高知大学の岡村教授は、地層に残された過去の巨大地震の痕跡について研究しています。
調査するのは海沿いにある池です。
そこには、地震による大津波が運んできた海の砂や貝殻などが長期間安定した状態で保存されています。
こうした津波堆積物を調べれば数千年前までさかのぼって地震の規模や発生周期を解き明かすことができます。
(中略)
古村教授が当初、考えていた震源域は駿河湾から足摺岬まででした。
それを考え直すきっかけとなったのは岡村教授が、大分県の龍神池で巨大津波の痕跡を発見したことでした。
従来のモデルでは震源域から遠く離れた龍神池に津波堆積物があることは説明できません。
古村教授は、シミュレーションを繰り返した結果、震源域を日向灘まで広げれば説明がつくことに気付きました。
(引用終わり)
今までのモデルでは考えていなかった日向灘までが巨大地震の震源域であり、その結果として大分県の佐伯市にまで巨大津波が押し寄せた証拠があると。
佐伯市といえば、少し北に行くと豊後水道を挟んで対岸は愛媛県の佐田岬半島。四国から九州に向かって西に細長く伸びた半島です。ここに四国電力の伊方原発があります。
この新しいモデルで日向灘を震源とする地震の際、伊方原発にどのくらいの津波が来るのかが重要です。原発は半島の北側に立地しているので、津波が直接襲う南側に比べて比較的大きくないのであればいいのですが。
伊方原発3号機についてのストレステストについては既に報告書が提出されており、経済産業省のサイトで読むことが出来ます。
http://www.meti.go.jp/press/2011/11/20111114003/20111114003-2.pdf
ここで津波に関しては、以下のように説明されています。
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想定津波高さは、3.49m。
これを約6.7m上回る津波高さ(10.2m)では、既存の電源系,給水系が使用でき、安定的に燃料の冷却が行える。
これを上回る津波が来ると、タービン動補助給水ポンプの機能維持が困難で除熱機能を喪失する。
そして、
発電所外部からの支援がない状態で、電源機能および除熱機能が喪失するまでの時間を評価した。
電源車、消防自動車などの運転に必要な燃料を発電所構内に備蓄するとともに、この燃料がなくなるまでに、発電所への継続的な燃料輸送(陸路・海路・空路)による補給を行うことで、長期に亘る機能維持が可能であることを確認した。
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日向灘を震源として巨大地震が起きた場合に、伊方原発で10.2mを上回る津波が来る可能性があるのかどうかが、まず大きな分かれ目です。
(ちなみに上記のNHKの番組によると、高知県の蟹ヶ池の地震堆積物の解析から、およそ2000年前にマグニチュード9前後の巨大地震が発生し、土佐市には20mに達する津波が押し寄せたことがわかってきています。)
そして、10.2mを超える津波がくる可能性があることを否定できないのであれば、かなり深刻な事態であり、後半に書いてある対策が本当に万全かどうかを評価しなければなりません。
私も技術者であり、このような手順を踏んで「安全」であることを確認することを否定しません。
しかし、こと原子力に関しては、「万一」のケースについて(極端すぎるゼロリスク信者を除いて)誰をも説得できるだけの、十二分な理屈を持って再開を決断しなければならないでしょう。
伊方原発の評価は、中立公正な専門家を交えて、新しい理論による巨大地震の可能性の情報も踏まえて、慎重の上にも慎重を重ねて実施しなければならないと考えます。
また、伊方原発よりやや北に計画中の山口県の上関原発についても、同じく再度慎重な検討が必要です。
(電力会社や地元がいくら建設したくても、さすがにこの原発が建設できるとは思い難いですが。)