福島第一原発で、「万一」、今後さらなる重大事故として何が考えられるかを推定してみました。
つらつら書いていますが、明確な結論めいたものはなく・・・。
それでも「何を怖がったらいいのか、そのために何を準備しておけばいいのか」の参考になるのではと思い、アップしておきます。
一技術者として、情報を整理し、一生懸命頭をひねって書いていますが、間違いがないとは言い切れません。
その点、あらかじめご承知おきください。
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・水素爆発
圧力容器内あるいは核燃料保管プールで、燃料棒が水中から露出しており、その部分が高温になっている可能性がある。
核燃料のペレットを入れる菅として使われているジルコニウムが高温になり、そこに水が接触すると、水素が発生する。これが空気(酸素)と混ざり、何らかの火花あるいは静電気で着火すると、爆発する。
圧力容器内には酸素がないので、圧力容器内で水素爆発は起こらない。
圧力容器に海水を連続注入しているということは、どこかから水蒸気を放出しているはず。水素が発生していれば、この水蒸気と一緒に放出される。放出先は、格納容器内か?
格納容器にも酸素はないので、内部で水素爆発は起こらないはず。
格納容器から圧力抑制室に水蒸気を放出しているとすると、ここで水蒸気は冷やされて水になる。水素は水にほとんど溶けないので、水をくぐった後、ガスとしてどこかから外部に放出される。
1号機・3号機では、この水素が建屋内に充満し、建屋内の空気(酸素)と混ざり、着火爆発した、と推定される。このときでも、圧力容器・格納容器は健全であった。
この推定によれば、稼動していた原子炉(1~3号機)が要因で、今後新たな水素爆発が起きるとしてもそれは2号機建屋だけで(1、3、4号機は天井に穴が空いていてもはや水素はたまらない)、過去の事例からすると、格納容器は健全に残る可能性は高いと考えられる。
この要因で、反応容器内に存在する「大量の放射性物質の拡散」が起きる可能性はかなり低いだろうと推定される。
ただ、以前に指摘した「水素脆化」が起きていて反応容器・格納容器が次第に本来の強度よりもろくなっている可能性がある。ただこの場合でも、弱くなるのは主に溶接部分などであり、部分的な破損にとどまる可能性は高いのではないかと考える。
一方、核燃料プールはには格納容器のような仕組みがなく、常に空気と接している。したがって、水素が発生したらいつでも火災爆発が起こりうる。4号機では、このメカニズムで火災が起きたと推定される。
しかし、今までのところ、燃料棒を破壊して放射性物質を撒き散らすような強力な爆発は起きていない。4号機では火災が発生して自然に鎮火したと見られる。水素の発生量は(少なくとも今までのところ)限られていて、また、建屋の機密性もよくないので、水素はある程度は屋外に抜けていくだろう。
東京電力の3/19午前0時の報告に、「5、6号機の原子炉建屋屋根部に、水素ガスの滞留防止のための穴(3箇所)を開けました。」と書かれていて、5・6号機でも水素爆発の可能性を考えていたことがわかる。
・内部圧力による爆発
容器内部が耐圧性能以上の圧力になると、 耐え切れずに破損する怖れは考えられる。
正確な数字がよくわからないが、
圧力容器の設計耐圧は、8~9MPa(メガパスカル、80~90気圧)
格納容器の設計圧力は、0.4~0.5MPa(4~5気圧)
程度のようだ。法律上、設計圧力の1.25倍で耐圧試験をしなければならないので、実際にはさらにそれ以上の耐圧性能が期待される。
昨日、3号機の格納容器の一時的に圧力が上り、その後下がるという現象が見られたが、原因は特定できていない。解明が待たれる。
ただ、格納容器で万一このようなことが起きても、圧力容器が健全であれば、それ自体では原子炉内に存在する大量の放射性物質の拡散にまではつながらない。
では、圧力容器の圧力上昇による破損はあり得るか?
圧力容器には海水を連続注入しているので、どこかから蒸気を排出しているはず。したがって、ガスが抜けるルートが常に確保されている状態。
この状態で、圧力容器の圧力が上がる可能性があるとしたら、どんな場合か?
ひとつは、きわめて急激なガス(蒸気)の発生が起きて、確保されているルートからのガスの排出では間に合わず、圧力が上がってしまうというもの。
もうひとつは、確保していたはずのガスの抜け口が、何らかの理由で閉じてしまい、ガス(蒸気)の行き先がなくなってしまうケース。
水蒸気が原因であるとしたら、水の気液平衡で、物理的に温度と圧力の関係は決まる。
水の蒸気圧は、300℃で、8.6MPa、320℃で11.3MPaなので、およそこのくらいの温度になると危険性が出てくる。圧力容器の圧力は測定されており、全体がこのような温度・圧力になることは現時点では考え難い。
一方、露出した燃料棒の温度は2000℃以上とかいう話もあり、これが融けて溜まっている水の中に落ちると、急激な水蒸気の発生が起こり、「水蒸気爆発」を起こすことが心配されている。
一方の閉塞について。
私は、海水を注入、水蒸気を放出し続けていることにより、塩の析出を心配している。塩自体は蒸発しないが、沸騰した水蒸気には食塩水の液滴が同伴していて、これが壁面などに付着する。
沸騰している海水の塩濃度が高いと、そこから発生する蒸気は過熱蒸気になっているので、付着した液滴を濃縮させることで壁面などで塩が析出することはあり得る。
ただ、蒸気配管はかなり大口径だろうから、完全に閉塞する前に、析出した塩が落下するまどして、閉塞にまでいたることは考え難い。
(むしろ心配しているのは、反応容器の下に析出した塩がたまり、燃料棒の除熱がうまくいかなくなることや、海水注入の入口ノズルが閉塞して注入できなくなること。)
さて、万一、水素爆発や水蒸気爆発が起きたときに、最悪、何がおきるのか。
まず、最初に心配されるのは、爆風や熱線による被害。
これらは、化学プラントで(残念ながら)時折発生している爆発と何ら変わるところはなく、その威力は正確ではなくても、おおよそ想像はできる。
すなわち、爆風による破壊は、プラント内か、せいぜい隣り合う建物程度までにとどまるはず。
もちろん、放射線被曝と戦いながら、懸命の作業をされている東京電力と協力会社の方々、自衛隊、消防庁の方々に被害が起きてしまうことは避けられないが、すでに避難されている近隣の留守宅も含め、原子力発電所外にまで直接の物理的被害があるとは考え難い。
広島に落とされた原子爆弾の場合は、Wikipediaによると、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E5%AD%90%E7%88%86%E5%BC%BE
爆発に伴って熱線と放射線、周囲の大気が瞬間的に膨張して強烈な爆風と衝撃波を巻き起こし、その爆風の風速は音速を超えた。
爆心地付近は鉄やガラスも熔けるほどの高熱に晒され、強力な熱線により屋外にいた人は全身の皮膚が炭化し、内臓組織に至るまで高熱で水分が蒸発した。
また、3.5km離れた場所でも素肌に直接熱線を浴びた人は火傷を負った。爆風と衝撃波も被害甚大で爆心地から2kmの範囲で(木造家屋を含む)建物のほとんど全てが倒壊した。
とされている。
これに比べて、チェルノブイリ原子力発電所の事故では、広島型原子爆弾500個分の放射性物質が撒き散らされたというのに、発電所内のすぐ隣の建物や煙突も、そのまま倒れもせずに残っている。
原子爆弾と原子力発電所の事故とでは、ここまで様相が異なる。
福島第一原発で、今、起き得ることは、水素爆発や水蒸気爆発という、原子力発電に固有のものですらなくなっている。
このことは理解しておくべきだろう。
実際に心配すべきは、高濃度の放射性物質の拡散。
原子炉の方は、圧力を持って破裂する怖れはゼロではないものの、格納容器が一次的な飛散を防ぎ、せいぜい炉のごく近辺にとどめてくれるはず。
また使用済み核燃料の方は、圧力を持つことはないので、爆発飛散することは考えがたい。
原子爆弾との比較でも想像できるが、爆風などで直接、放射性物質が広範囲にわたってばら撒かれることは考え難い。
問題は、その後。
爆発などで生成した細かい放射性物質を含むホコリが、風で飛ばされて周辺に飛散し、落ちてきたところで、放射線が観測される。
また問題になっているヨウ素などは、沸点が184℃であり、高温の燃料棒からはガスとして放出され、冷えたところで液体→固体の微粒子になるのかもしれない。
既に、飛散したと思われる放射性物質が、水道水や牛乳、ホウレンソウなどに検出されている。
現在は健康には全く影響のないレベルであるが、水蒸気爆発などの万一の場合には、これらがさらに高くなる怖れはある。(だから、そういうことが起きないように、懸命の努力がされている。)
そしてそのような場合、むき出しになった放射性物質の塊があったとしても、それに人が近づけないので片付けられないことが、その後長期にわたって放射線被害が継続することにつながる。
チェルノブイリの場合は、本人たちに危険を知らせずに労働者を清掃員として送り込んだという無茶苦茶なことをやり、被曝による被害者を増やした。
福島では、万一このような事故が起きた場合にどう片付けるのか、想定と準備はできているのか?
今日、作業の邪魔になっているがれきを片付けるために、戦車が準備されたことが報道されている。
http://news24.jp/articles/2011/03/21/07179036.html
深刻な状況が続く福島第一原子力発電所で、自衛隊は、放水作業などの妨げになっているがれきを除去するため、74式戦車2両を準備した。74式戦車は、自衛隊の他の車両と比べて放射線の防護能力が格段に高いのが特徴。
万一の備えとして、戦車等による片付け作戦も計画されていたら、いいのですが。
もちろん、そんな計画がムダになることが、最も望ましいことです。