福島第一原発の事故の影響で、福島、茨城、栃木、群馬の4県のホウレンソウ・カキナ、および福島県の牛乳に基準を超える放射性物質(ヨウ素とセシウム)が検出されたとして、出荷停止が指示されました。
http://mainichi.jp/select/today/news/20110322k0000m040085000c.html
今回検出されたのは非常にわずかな量であり、少々食べたとしても、健康への影響は全く問題のないレベルであることを、まず強調しておきます。
一方で、今後万が一、大きな爆発事故などが起きると、大量の放射性物質のひとつとしてヨウ素131がばらまかれる恐れがあります。
これから書くことは、そのような万一の事態への備えについてですので、その点、よくご了解ください。
正しい知識を持って正しく怖れて、それに正しく準備しておけば、憂いは減らすことはできる、との信念に基づいて少しでも読者の方の不安を解消できればと、ブログを書いています。
しかし、ヨウ素の問題については、ネットでさまざまな情報が流れていて、何が正しい知識なのか判断することが困難でした。今日1日、色々調査・考察をして、私なりの結論を出しましたので、それを記します。
ヨウ素131の半減期は既に過ぎており、問題にする必要はないとの意見も見つけました。
http://getnews.jp/archives/105673
確かに、ヨウ素131の半減期は8.1日であり、原子炉内の核分裂生成物として存在していたヨウ素131は既に半分以下になっているはずです。しかし、万一の爆発事故が起きた場合でも全く問題は起きないと言い切ることは、まだ時期尚早と考えます。
放射性ヨウ素(ヨウ素131)の危険性
ヨウ素131が拡散した場合、呼吸や食物とともに体の中に取り込まれ、甲状腺に集まって、甲状腺ガンを起こす原因になるおそれがあります。特に乳幼児から子どもには顕著で、40歳以上では危険性は低いようです。
これに対する予防薬として、「安定ヨウ素剤」が使われます。
これは、安定な同位体であるヨウ素127のカリウム塩、ヨウ化カリウムの製剤です。
(単体のヨウ素とヨウ化カリウムとは、猛毒の塩素ガスと食塩(塩化ナトリウム)との関係と同様、全く異なる物質と考えるべきですので、まずその点は理解ください。)安定ヨウ素剤を、できれば直前に、あるいは直後数時間以内に飲めば、放射性ヨウ素が甲状腺に集まることを防ぎ、尿や便から排出されて、発癌のリスクを低減することができます。
ここまでは、誰の意見も一致しています。
ヨウ素の摂取について、放射性医学総合研究所では、「インターネットに流れている根拠のない情報に注意」として、警告を流しています。これは私のブログでも、以前に紹介しました。
http://www.nirs.go.jp/data/pdf/youso-3.pdf
ポイントは、(説明の都合上、順序を変えますが)
(1) 安定ヨウ素剤は医師が処方するものであり、避難所などで服用指示があったときのみ、服用してください。
(2) うがい薬やヨードチンキを、安定ヨウ素剤の代わりに飲むのは、絶対にやめてください。
(3) わかめ等の海草にもヨウ素が含まれていますが、効果はありません。
ということです。
以下、これを検証してみました。
(1) 安定ヨウ素剤の服用について
「原子力教育を考える会」のヨウ素剤 Q&Aというサイトには、1問1答形式でわかりやすく説明されています。もっともわかりやすい説明のように思いますので、ぜひご一読ください。
http://www.nuketext.org/manual.html#qanda
ここでの結論は、上記(2)うがい薬と(3)海草についてはほぼ同じですが、(1)についてはもっと住民側の立場にたった記述になっています。
日本ではヨウ素剤は医師の処方箋がないと買うことが出来ないため、行政がヨウ素剤の家庭配布をしないと決めた場合、いざというときに手元にヨウ素剤が無い事がおこりえます。
特に原発立地県に住んでいて、20 歳以下の子供がいる家庭では行政をうごかすなどしてヨウ素剤を手元に置いておく方が安心です。
これに対応するように、福島県いわき市では、国の指示がないまま独自の判断で、備蓄していた安定ヨウ素剤を対象の全15万人に配布しています。三春町でも同様に配布しています。
http://sankei.jp.msn.com/region/news/110320/fks11032011470001-n1.htm
渡辺市長は、ホームページで「市から指示があったとき以外は絶対に服用しないで」と強調。「服用いただく際には、あらかじめ私から『服用してください』とお知らせします。指示に従い、適切な対応をお願いします」と、本来は国が決める服用時期も、市が決める考えを示している。市独自の「ヨウ素剤相談窓口」を設け、配布後の態勢も整えた。
いわき市の対応を、私も支持します。(何のありがたみもないでしょうが。)
近隣の他の自治体でも、万一に備えて配布するように働きかけるべきではないでしょうか。
(もう一度書きますが、現状の濃度レベルのためではなく、万一の事故に備えてです。)
一方で、原発の20km圏内の避難者にヨウ素剤の投与の指示があったとか、実施を見送ったとかで混乱が生じているようです。ここでも、原子力安全保安院の頼りなさが。。。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110321-OYT1T00020.htm
服用の効果を上げるには、服用のタイミングが重要で、服用後に効果が続く時間は約24時間とされており、あまり早くから服用しても効果はないとのことです。
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110321-OYT1T00041.htm?from=os4
(2) うがい薬・ヨードチンキによる代用について
公的な機関等々が、うがい薬やヨードチンキを安定ヨウ素剤の代用品として飲むことを強く否定しているのに対し、ネット上ではそれでもしつこく反論し、代用できるとの主張が根強く見られます。
色々調べた中では、下記のサイト(最後の方)が、なぜ飲んではいけないのかを最も納得できる形で説明しているように思いました。やはり放射線医学総合研究所の明石先生という方の講演ですので、この組織自体を批判する人には受け入れられないかもしれませんが。
http://www.remnet.jp/kakudai/11/kichou.html
要するに、以下のような飲むべきでない他の成分が入っており、安全ではないということです。
・ヨードチンキ 単体のヨウ素、ウォッカ並のエタノール (ヨウ化カリウムも入ってはいます)
・うがい薬 ヨウ化カリウムは入っておらず、ポピドンヨードという人体への摂取が認められていない物質
ウイスキー並みのエタノール、メントール、ハッカ油
・ルゴール液 単体のヨウ素、フェノール、ハッカ油
別の健康問題を引き起こす恐れが十分に考えられるので、やはり安定ヨウ素剤の代用としてうがい薬やヨードチンキなどを代用として飲むべきではない、と言えそうです。
(3) 海草類からのヨウ素の摂取
どうもよくわからないのは、海草類からヨウ素を取ることへの態度です。
公的な機関の説明はどこも否定的、しかしその説明は今ひとつ説得力に欠けます。
「原子力安全委員会 原子力施設等防災専門部会」の、「原子力災害時における安定ヨウ素剤予防服用の
考え方について」という資料の19ページを、ちょっと長いですがコピペします。(太字、下線はtomamによる)
http://www.nsc.go.jp/bousai/page3/houkoku02.pdf
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5-6 ヨウ素含有食品等による効果について
ヨウ素は種々の食品に微量ではあるが含まれており、特に海産物に多く含まれている。
この中でコンブは特異的に多く(43,44)、コンブ乾燥重量100 g 当たり、100~300 mg のヨウ素を含んでいる。その他、ワカメ7~24 mg/100 g 乾燥重量、ヒジキ20~60 mg/100 g 乾燥重量、海産魚類0.1~0.3 mg/100 g 生重量である。
日本人が通常の食生活で摂取するヨウ素量は、海産物の有無やその過少で大きく変動するが(22)、海産物の摂取による日本人の1日ヨウ素摂取量の平均は、1~2 mgとされている(45)。
コンブはそのまま食する以外に、だしコンブとして使われることが多く、15分間の煮沸により出汁中には、コンブに含有されるヨウ素の99%以上が溶出される。一杯の吸物に普通加えるだしコンブを2gとしても、5mg程度のヨウ素摂取となる(45)。
このようなヨウ素摂取量でも、日本人の甲状腺のホルモン分泌機能は正常である(22)。
また、コンブ等を摂取しない場合、一日当たりヨウ素摂取量は、0.1 mg程度となる(22)。
コンブにより10~30 mg のヨウ素を一度に摂取することは可能ではあるが、ヨウ素含有量が多いコンブ等の食品を摂取することにより、放射性ヨウ素の甲状腺への集積を抑えることについては、
・コンブでは、大量に経口摂取した上で、咀嚼・消化過程が必要でヨウ素の吸収までに時間がかかり、かつ、その吸収も不均一である
・コンブの種類、産地など、それぞれのコンブに含まれるヨウ素量は一定ではなく、その必要量を推測することは極めて困難である
・対象者が、集団的に、迅速にコンブからヨウ素を摂取することは現実的に困難である
等の理由により、原子力災害時における放射性ヨウ素の甲状腺への集積を抑制する措置として講じることは適切ではないと考えられる。
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(ここに書かれているヨウ素の過剰摂取による甲状腺のホルモン分泌機能の異常の問題は、
http://d.hatena.ne.jp/uneyama+nikkeibp/20081210
http://algainternational.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/who-0c89.html
などに書かれていますが、緊急の場合の一過性の話とは無関係と考えます。)
もしかしたら、役人が安定ヨウ素剤を備蓄するための予算を取るのに、「昆布からでもヨウ素は摂取できるじゃないか」という反論を封じるために、このような理屈を用意したのではないかと勘ぐりたくなります。
このページのすぐ上に、安定ヨウ素剤服用量が書かれていて、たとえば3歳から12歳の服用量は28mgです。
昆布を食べてもそしゃくや消化に時間がかかることが問題であれば、説明通り煮出せばいい。
これで、ヨウ化物イオン(ヨウ化カリウムを水に溶かしたのと同じ)となるので、胃か腸ですぐに吸収されるはずです。
(↓昆布だしがヨウ化物イオンを含むことを、実験で説明しているサイトです。
http://yamada-kuebiko.cocolog-nifty.com/blog/2010/01/post-1319.html
)
吸い物一杯で5mgのヨウ素が取れるのであれば、6杯分飲ませれば足りることになります。
幼稚園児に吸い物を6杯一気に飲ますのは困難かもしれませんが、安定ヨウ素剤などというものが配布されず入手できない地域では、こういうものをできるだけ飲ませることは、何もしないよりはずいぶんマシな対応になると考えます。
しかも、昆布だしを飲ませても病気にはならないでしょう。
それに、あわせて塩昆布やとろろ昆布とかを食べさせることも、少しでもいい方向には向かうはずです。
味の素の「ほんだしこんぶだし」は1gあたり0.15mgのヨウ素を含むようです。1gですまし汁一杯分とのことなので、上記の昆布の煮出し汁よりはずいぶん少ないです。
スティック1本で8gなので、ヨウ素は1.2mg。上記の28mgにはちょっと遠いけど、それでも緊急にだったらご飯に混ぜるとかで少しでも摂取できるかも。
なお、「こんぶだし」以外の「ほんだし」はヨウ素ゼロなので注意。
http://www.ajinomoto.co.jp/products/detail/index.asp?product=hondashi_5
放射性物質が各地域に飛散してくるのには時間がかかります。
個人的見解ですが、お子様がいて、安定ヨウ素剤が手元にない家庭では、万一事故が起きたというニュースを見たら、昆布のだし汁を子どもに飲ませられるよう、あらかじめ用意しておくことは、いざというときのための備えとして価値のある対応と考えます。