福島第一原発では、2号機まで冷却機能が停止し、依然として危険な状態が続いている。
3/14 19時の報道
http://www.asahi.com/national/update/0314/TKY201103140351.html
東京電力によると、原子炉内の冷却機能が失われた福島第一原子力発電所2号機にも、午後4時34分に外部から海水を注入し始めた。
1、3号機では海水注入が遅れ、むき出しになっている燃料棒に海水が触れ、大量の水素が発生。水素爆発につながった。3号機で燃料棒が露出しているかどうかは分かっていない。
さて、
「制御棒を挿入したから原子炉は停止した」
と言われている一方、
「余熱を除くため冷却が必要」
として、停止した冷却機能のかわりに海水を注入するなど、懸命の作業が続いています。
しかし、私は、そもそも「余熱」なのになぜそんなに必死に冷却するのかずっと疑問でした。
少なくとも私の周りでは、「余熱」といえば高温になった物体の持っている熱という意味であって、冷却しなくても時間さえ経てば、冷えていくものと理解されます。
しかし、福島第一原発では冷却する必要があるということは、継続して反応による発熱があるということ、したがって核反応が継続しているのではないか、という疑問がずっと消えませんでした。
今日、色々調べて、核反応の素人である私もようやく理解できたので、できるだけわかりやすく説明してみたいと思います。
まず、原子炉で起きていることは核分裂反応です。
原子は、原子核と電子とでできています。
その原子核は、陽子と中性子とでできています。
元素の性質は陽子の数(=原子番号と等しい)で決まります。
ウランは原子番号92であり、陽子の数は92個です。
ウランには、原子核の中性子の数が異なるモノ=同位体があります。
天然のウランのうち、99.275%はウラン238(質量数が238、中性子を146個持つ)ですが、原子力発電に使われるのはウラン235(質量数が235、中性子を143個もつ、存在比率0.72%)です。
ウラン235の原子核は、中性子を吸収すると不安定になり、2つの異なる原子核に分裂する性質を持っています。この際に2個ないし3個の中性子を出します。またこのとき、きわめて大きなエネルギーを出します。
これを核分裂反応と呼びます。
核分裂反応で発生した中性子は、別のウラン235に吸収されて新たな核分裂反応を起こします(連鎖反応)。
この反応を制御せずに一気に起こさせるのが原子爆弾、制御した状態で安定的に起こさせるのが原子炉です。
(参考までに、余談)
・原子は本来きわめて安定で、他の原子に変化することはありませんが、この核分裂反応によっては、別の原子になります。
・質量の合計は、通常、反応の前後で絶対に変化しないものですが、この核分裂反応では、質量が減少します。その質量の減った量mと発生するエネルギーEとの関係は、光の速度をcとしたとき、 E = mc2 というきわめて単純な美しい式で表現されます。これはアインシュタインが発見した特殊相対性理論のひとつの帰結です。
(余談、終わり)
原子炉で、核分裂反応を安定に起こさせるのに使われているのが「制御棒」です。
制御棒は、ホウ素、カドミウムなどでできていて、中性子を吸収する性質があります。
原子炉では、これをうまく使って、原子炉を核分裂の連鎖反応が暴走もせず、減衰もしないで継続する「臨界状態」に保ちます。
(「JCOの臨界事故」と呼ばれますが、これは臨界状態を超過して制御不能になった事故でした。正しくは「臨海超過事故」とすべきだったとも言われています。)
原子炉の緊急時には、この制御棒を全て挿入することで、核分裂反応の連鎖を停止=「原子炉を停止」することができます。
→福島第一原発では、これは実現できているはずです。
さて、核分裂反応によってウラン235が分裂して生成した原子核(核種)を核分裂生成物と呼びます。
さまざまな核種(100種類くらい)ができますが、代用的なものとして、セシウム137、ストロンチウム90などがあります。
→放射性セシウムが検出されたとの報道がありました。これは、原子炉で生成した核分裂生成物ですね。
これが、原子炉の外、原子力発電所の境界で、人体にただちに影響するような量ではないが、検出されたということです。
核分裂生成物は、総じて陽子数と中性子数とのバランスの悪い不安定な核種=放射性同位体であり、陽子と中性子の均衡が保てるまで分裂(ベータ崩壊)を起こします。
ベータ崩壊とは、質量数(陽子数と中性子数の合計)は変化せず、中性子が電子を放出して陽子になったり、陽子が陽電子を放出して中性子になったりすることです。
ベータ崩壊が起きる際にも、熱を放出します。これを崩壊熱と呼びます。
→ようやく、答えにたどりつきました。
福島第一原発では、制御棒の挿入に成功し、核分裂反応の連鎖を止めることには成功しました。
しかし、原子炉内に存在している核分裂生成物が発する「崩壊熱」は依然として発生し続けています。
これを冷却してやらないと、次第に原子炉内がきわめて高温にまで上昇し、核燃料の燃料集合体や構造物が融解し、最悪の場合には原子炉圧力容器や格納容器が破損して、放射性物質が周囲に拡散する恐れがあります。
また、福島第一原発のような軽水炉では、融けた燃料棒が冷却水に落ちると、水が激しく蒸発して容器内の圧力が急激に上がって容器を破損し(水蒸気爆発)、同様に放射性物質を拡散する恐れもあります。
ただ、核分裂反応の発熱に比べれば、崩壊熱の発熱の大きさはずっと小さいので、時間的な余裕(分・秒単位ではなく、時間・日レベルという意味で)は少しはあるのでしょう。
私はようやく理解できました。
いかがでしょうか?
発表や報道で「余熱」だというから混乱したのであって、はじめから「崩壊熱」という言葉を使って説明してくれれば、簡単にこのような理解にたどり着けたのに、と思います。
ネット上でも色々なところを探し回って、ようやくこの結論に達しました。
わかってみると、さほど難しいものではなかったと思います。
「余熱」という言葉を使ったのが、意図的なのかどうかわかりません。
また、テレビの報道でいろんな専門家が出ているので、そのうちの誰かはこのような説明をしたかもしれません。
とにかく正確な情報を正しく流すことで、いたずらに一般市民の不安を招くことのないようにしてほしいものだと思います。
今回の危機が、早期に解決することを、切に祈ります。