秋は深まり、日々同じことの繰り返しの中で、ただ時だけが静かに過ぎてゆく。


 寂寥感漂う夜明け前の海に、サーファーたちの小さな黒い影が波間に哀しく浮かんでいる。
 この日、離婚してちょうど二年が経った。


 相変わらず波は高く、釣りづらい日々は続く。一体魚はどこに行ったのか。


 昼間はぽかぽか陽気だったので、冷凍のバナメイエビをつけ、近くの岸壁でちょい投げ釣り。


 岸壁きわきわの落とし込みで何故か40㎝ほどのタカノハダイが釣れた。
 いつもなら当然逃すのだが、「秋のタカノハは美味くて祭りには欠かせない」と昔通っていた磯渡しの船頭が言っていたのをふと思い出し、試しに持って帰って捌いてみた。


 丸ごと刺身に。
 綺麗な身。血合いが弱くピンク色。身は白濁し非常に脂が乗っていて美味かった。石鯛に近いがそれよりもあっさりしていて上品さがあった。


 何故かワタリガニも釣れたので酒蒸しに。
 殻を割りしゃぶりつきながら熱燗で流し込む。


 別の日。
 ストックしてある冷凍カマスの一夜干しを、酒を加えてふっくらと蒸し焼きにしてみた。
 ご飯も、お酒も進む。



 隣の老夫婦から種無し巨峰を戴いた。
 まさに秋の味覚。ありがたい。
 滅多にないけど、また魚がたくさん釣れたら持って行きます。



 或る朝のかんたろうと、トン。


 本当に仲良くなった。


 毎日のことだが、見ていて、思わず笑ってしまう。
 そして自然と笑顔がこぼれ、幸せな気持ちになれる。


 二年前に穿たれてしまった私の心の空洞を急速に埋め戻してくれる、このほのぼのとした情景。
 そして晩秋の、繰り返す日常の淋しさと虚しさをすっかり忘れさせてくれる。
 もう、大丈夫だ。


 まさしく二年前の晩秋、公園での哀愁溢れるかんたろうの哀しき姿。
 寒さにも孤独にも耐え、よく頑張った。


 おやすみ、かんたろう、トン。

 いつも、一緒だ。


 今週になって気持ちの良い晴天とぽかぽか陽気が続いているが、この海岸のうねりは中々収まらない。
 晩秋の澄み切った夜明けの空に太陽が燦々と輝く。その曙光は大きなうねりに遮られながらも海一面を橙色に染め上げている。


 秋も深まり、夏至の頃には大島から昇っていた太陽も、今や遙か南の水平線上から顔を覗かせる。
 当たりもない日々が続いていたが、今朝やっと竿を引ったくっていく大きな当たりがあった。しかし、すぐに針が外れてしまった。


 その直後、少し離れた左側の釣り人が大きなメジロを釣り上げていた。


 雲ひとつない晴天の上、汗ばむほどの陽気だったので、朝食後、冷凍のエビとカニを持って近くの地磯へ出かけた。


 簡単に弁当を作る。
 気候の良いこの季節に磯の上で食べる弁当は、まさに生きることの喜びと充実感を与えてくれる至福のひととき。


 一応、石鯛狙いのつもり。
 深まる秋の昼下がり、憂愁漂う海辺を嬉々として贅沢に過ごす。
 さすがに石鯛は釣れなかったけれど、頻繁に竿先を揺らす当たりがあり、弁当も美味かったのでとても幸せな気分に浸れた。


 帰宅途中、恵比寿神社の祠に寄り、「生きている」ことを神に深く感謝し、手を合わせて祈る。




 相変わらずトンは悪戯ばかりしている。


 叱ると、キョトンとした汚れのない真っ直ぐな表情で見つめてくる。


 かんたろうもトンの悪戯が過ぎると怖い顔して怒る。


 かんたろうの機嫌をとるトン。


 機嫌を取りながら、疲れたのか変な顔をしたまま寄り添って寝ている。


 トンが来てから、かんたろうの赤ちゃん返りが酷くなるばかり。
 夜中何度も甘えた声で起こしにきたり、ひとりになると大声で泣いて呼んだりする。


 おやすみ、かんたろう。
 心配するな、いつも一緒だ。


 先週は週末にかけて晴れ間が続き、海もうねりがやっと収まりベタ凪状態だった。
 晩秋の哀愁を帯びた曙光が、見晴るかす四方の光景を鮮やかな赤みを帯びた橙色に染め上げてゆく。



 水平線から昇りゆく見事な日の出に向かってジグを投げ続けるが、この日もこの海からの生体反応は得られなかった。



 土曜日も日曜日も、魚はいないのに釣り人はいっぱいだった。



 寂寥感漂う静かな秋の海に、釣り人の淋しい背中が泣いている。



 昨日の月曜日は大雨。そして海も大荒れ。
 仕方ないので近くの漁港周辺を散策する。
 眼に映る全ての景色が、淋しさと哀しみに彩られている。


 遥か日本の南海上にある台風20号の影響で早くも大きなうねりが出だした。
 また、当分海に近づけない。



 初対面から四週間目のかんたろうとトン。


 お互い少しは冷静になってきたが、寝ているかんたろうにいつもトンがちょっかいを出す。
 嫌がるかんたろう。


 しかし、仲良く見つめ合う時もある。


 悪戯ばかりして、夜中は大暴れのトン。遊びたい盛りなのだろう。
 おかげで睡眠不足が続く。


 かんたろうも、昼間は死んだように眠りこけている。
 

 おやすみ、かんたろう、トン。
 秋の夜は長い。