夜明けがすっかり遅くなった。
 五時半過ぎてもこの暗さ。そして急に寒気が訪れた。この日は寒くて竿を持つ手がかじかむほどだった。


 相変わらず、うねりは収まらない。台風も前線も天気図にはないのに、何故かうねりは大きくなるばかり。
 砕ける波の向こう側、昇りゆく朝日の曙光に晩秋の寂寥感が漂う。
 その光景を眺めていると、何もかも失い憂悶の日々を送っていた二年前の、あの哀しい秋の記憶が甦ってきた。


 次々と大波が襲い砕け散るこの早朝の海岸には生命反応が全くなく、ただ悲愁に満ちた儚い波飛沫が淋しく飛び散っているだけだ。
 釣れない日々は続く。



 車で一時間ほどの少し離れた街に買い物に出かけた帰り、ラーメン屋の店外にある自動販売機で冷凍の博多ラーメンを買った。
 キクラゲとネギを入れて、とても美味しくいただいた。それにしても冷凍ラーメンの24時間自販機とは、感心する。これもコロナ禍ゆえか。


 貰い物のマスカット。
 自分では高くて買えないので本当に嬉しかった。



 かんたろうが偉そうにトンを見下ろしている。


 昼間、暖かい陽だまりの中でふたりは戯れ合う。


 すると、ついにかんたろうがトンの体を優しく舐め始めた。


 そっと舐め続けるかんたろうに、トンもうっとりと気持ちよさそうな表情を浮かべる。


 その夜、突然の寒波に襲われ、毛布を出すと仲良く寄り添って寝ていた。


 おやすみ、トン。
 いっぱい食べて早く大きくなれよ。


 トンと遊びすぎたかんたろうは、身も心もヘトヘトなのか、熟睡していて呼んでも揺すっても起きない。

 おやすみ。
 よく頑張った、もう大丈夫だ。


 うねりが収まらない。
 波も大きく、満潮時が夜明けと重なり、潮も高くて釣りにならない。


 金曜日だけ、波が少し収まりかけていた。
 夜明け前のまだ暗い海から、何となく魚の気配を感じ、胸の高鳴りを覚えていた。


 そして運よく、日の出と同時に45㎝のハマチが釣れてくれた。その後すぐ2回当たりがあったが針に乗らなかった。
 遥か南海上の台風の影響なのか、土曜日から再びうねりが強くなり、またしてもこの海岸に近寄れなくなっている。

 
 秋も深まり少しずつ、魚体が大きくなってきている気がする。そろそろメジロクラスが釣れるはずだが。


 当日は片身を刺身で。


 1日寝かせて翌日はムニエルで。


 鹿児島産黒毛和牛がスーパーで3割引きだったので、思わず衝動買い。
 シンプルに塩胡椒で焼いて、わさび醤油で頂く。


 昼は久々に、あっさりと小豆島の島そうめん。
 鰹節と利尻昆布、煮干し、干し海老、干し椎茸で出汁を引いた、自家製の素麺つゆで。


 余ったつゆで茄子の煮物を作る。


 えのきとちくわが冷蔵庫に余っていたのでバター醤油で炒める。
 贅沢な昼飯となった。




 最近、かんたろうは悩んでいる。
 トンと対面を果たしたものの、どう接したらいいのか悩んでいるようだ。


 真夜中、毎日ふたりは対面する。かんたろうの方からトンに向かって大声で叫ぶように呼ぶ。
 その声で起こされる私は、毎夜トンの部屋の扉を開け様子を伺う日々が続いている。


 微妙な距離感。
 トンは小猿のように敏捷に走り、飛び回り、轟音を響かせて縦横無尽に駆け巡る。
 渋い、困った表情を見せるかんたろう。


 トンはかんたろうにもちょっかいを出してくる。真剣な怒りの表情で応戦するかんたろう。
 遊んでいるとは思うのだが、少し心配。


 一方的にかんたろうが叱りつけるように吠えたかと思うと、突然トンに向かって大きな甘えた声を出したりする。
 仲が良いのか、悪いのか。とにかく夜中から朝方までかんたろうのテンションが高く、私は眠れない日が続く。 


 疲れ果て、二匹とも昼間は死んだように眠っている。
 おやすみ、かんたろう、そして、トン。

 ずっと一緒だ。



 秋深き隣は何をする人ぞ     芭蕉

 とてもいい季節なのに、南海上を通過した台風16号の影響でずっと海に近づくことができなかった。


 まさしく、怒涛逆巻く荒れ狂った海。


 日曜日、どうにか波が収まってきた。一週間以上荒れ狂っていたので、待ち構えていたのか、釣人も非常に多い。


 波打ち際の貴重なバイトを捉えてどうにかシオ1匹。
 まだまだうねりが高くて釣りにくい。


 即日、コリコリのうちに食べてみる。半分は冷蔵庫で一日寝かす。


 翌日、月曜日の日の出。早くもだるま朝日になっている。
 満潮時と重なり、潮が高く何故かうねりも前日より強まって釣りづらい。


 ナブラも魚の気配も何もない中、夜明けとともに沖合で喰った貴重なハマチ45㎝。
 運が良かった、感謝。



 トンがトライアルでやってきて四日目に下痢を起こしてしまい、翌日も下痢が続いていたので病院に連れて行き、薬をもらった。
 そして六日目の土曜日、正式に里親として契約を済ました。
 これでトンは、かんたろうの妹になった。 


 少しやつれているトン。手足が細長くその姿はまるで貴婦人のようだ。
 ゲージから出して2階の六畳間を一部屋締め切ってトンに解放しているが、夜中ずっと走り回っている。おかげで睡眠不足が続いている。
 様子が伺えるように、その部屋の入り口のドアと隣の部屋に続く襖に、何箇所か少しづつ隙間を開けている。


 ところが・・・。
 部屋から音がするので、かんたろうは気にして近づき、隙間からトンを見つけると大きな声で威嚇する。
 離れていてもイラついて草をむしゃぶりついたり、体中を頻繁に舐め回して落ち着きがない。


 それでもトンはドアの隙間からかんたろうを見つけると嬉しそうに近寄ってゆく。
 見ていて健気で愛くるしいが、何故か哀しくなってくる。 


 ふたりで仲良く楽しく暮らしていたのに、かんたろうに悪いことをした気がする。
 思うように、かまってやれないトンにも。


 仲良くなれる日はやってくるのだろうか。
 おやすみ、かんたろう。
 深まる憂愁の秋に、今はただ哀しみだけが広がってゆく。