眼に映る情景はすでに夏のなごりか。
 夜明けの海辺には、ひんやりとした大気が漂い始めた。肌を滑ってゆくそよ風が心地よい。


 朝焼けに取り残された有明の月にも哀愁が漂う。秋は知らぬ間に、すぐそこに忍び寄ってきているようだ。


 すっかり生体反応をなくした誰もいない海岸。
 ツバス、シオ祭りで賑わっていた二週間前が嘘のように静まり返っている。


 4キロに及ぶこの海岸、日曜日だというのに釣り人は疎ら。たまに巨大なダツが猛アタックしてくるのみ。



 昼間はまだまだ蒸し暑く、無性にうなぎが食べたくなった。
 いつもの通販で蒸し焼きの柔らかいうなぎの蒲焼を注文。


 もう二度と行けないだろう「野田岩」や「竹葉亭」の味を少しだけ彷彿とさせてくれる柔らかな蒸し焼き。
 その味を堪能していると、私の意識は十何年前の人生全体が輝いていた頃へと戻ってゆく。
 東京で食べ歩いた江戸前の蕎麦や寿司の数々・・・。今はとっくに失ってしまった暖かい家庭・・・。


 しかし涙ぐむこともなく、なぜか笑顔がこぼれる自分に気づく。過ぎ去ったことだ。もう過去に囚われる私ではなくなっている。
 そして今、この海辺の小さな町ではこんな美味しそうな朝獲れの鰹が驚くような安価で手に入るのだ。




 少し涼しくなって、かんたろうはますます元気になっている。


 大きな背中をを見せたり


 一生懸命、伸びをする。


 そして、いつものポーズのまま動かなくなった。


 なんと、眠ってしまっていたようだ。



 おやすみ、かんたろう。
 もうすぐ哀しい秋がやってくる。
 淋しくないか。


 ローリングストーンズの名ドラマー、チャーリーワッツが亡くなった。日々淋しさが募る。
 2014年3月6日、ストーンズ日本公演最終日。東京ドームのプレミアム席、最前列から3列目の私は我を忘れ、時空を超越し、ただ呆然自失のまま感動のあまり号泣し続けていた。
 あの時、本当に生きていて良かったと心から思った。
 


 あれからもう7年以上が過ぎた。全てを失った今の私に、あの日のような圧倒的な感動に襲われることはあるのだろうか。


 ここ一週間、油照りの炎暑が続く。

 海は穏やかなべた凪。 



 月曜日はツバスとシオ一匹ずつ。明らかに喰いが悪くなってきた。


 火、水曜日と釣れなくて、木曜日どうにかシオ1匹だけ。 


 そして昨日、今日と大きなダツのみ。
 真夏のツバス、シオ祭りもついに終了したようだ。


 
 1日寝かしたツバスとシオの刺身。
 やはりシオの方が旨みが強く美味い。


 シオが1匹釣れた翌日、スーパーでメバチマグロを買ってきて、寿司飯を炊く。 


 マグロの握り。


 そして、一日寝かしたシオの刺身を2枚重ねて握る。すだちを添えて。


 一時間ほどかけて、隣の市に行く用事があったのでついでにピザをテイクアウト。


 滅多に食べられないので、一気に食べてしまう。
 

 翌日はあっさりと、少し味が落ちてきたが、定番のカツオの刺身。
 脂の乗った戻り鰹が待ち遠しい。


 珍しくかんたろうがキャットタワーに登っている。


 暑くて死にそうだ、と訴える。息も絶え絶え。


 あくびも豪快。


 呼ぶと、ニャニィ? と振り返る。


 可愛いいつものポーズ。
 一日中かんたろうを見ている自由の時間。そして一杯の冷えたビール。荘厳な夜明けの海と対峙する釣り・・・。
 圧倒的な感動ではないかもしれないが、生きてて良かったとつくづく思う。


 一緒にいてくれて本当にありがとう。
 おやすみ、かんたろう。


 夜になると鈴虫の鳴き声が聞こえてくる。
 そろそろ、秋の気配が漂ってきた。

 もう何日大雨が続いているのだろうか。
 とめどなく、尽きることがない厚い雲が日々湧き上がっては、稲妻と雷鳴を響かせ大雨を降らせて通り過ぎてゆく。
 油照りの炎暑と、耳を貫くような蝉時雨はどこに行ったのか。こんな8月は初めてだ。


 16日の月曜日は早朝のみ雨が止んでいた。
 隙をみて、夜明けとともに出かける。

 
 県内で唯一ダムのない一級河川の、河口から溢れ出る水の量と流れが凄まじい。

 

 河口から少し離れて釣るが、水潮の影響でハマチ・ツバスの回遊が全く見られない。 
 それでもどうにか25〜40センチのシオ3匹が釣れた。 



 雨が止んでいるので、帰り道近くの漁港を覗く。漁船もほとんど出ていないようだ。


 いつもなら賑わっている漁協も、人気がなくひっそりとしていた。


 雨が降ってきたので家路を急ぐ。帰ると釣ってきた魚をすぐに捌く。


 大きなシオは一日寝かして刺身に。
 すだちをかけて、ご飯と一緒に頬張る。とても旨みが強く美味しい。


 30㎝のシオは炙りで。
 微妙な味。不味くはないが、美味くもない。
 炙りはもうないか。


 小さいシオはコハダ風に塩で締めて、湯霜にして酢に漬け込み一晩寝かしてみる。
 これはなかなかの絶品だった。寿司飯で握ると間違いなく旨いだろう。


 アサリが特売日だったのでこの日はスパゲッティ・ボンゴレ。
 ニンニク・オリーブオイル・白ワインだけで味付け。


 スープストックトーキョーのミネストローネを添えて。
 優雅な気分。閑雅な味。


 大雨ばかりで買い物に行くのも億劫なので、冷凍庫にあったモンゴウイカのゲソを解凍し、焦がし醤油バター炒めに。
 冷たいビールが進む。


 少し単価が上がったが、まだまだ安価な地元産のカツオ。
 もちもちとして本当に美味い。毎日食べたい。



 毎日雨ばかりで、かんたろうも退屈そう。


 あくびばかりしている。


 凛々しい顔も時折見せるのだが。


 大雨、強風、雷の夜が続き最近は不安そうな表情が多くなる。
 特に雷雨の夜中、稲妻に不気味に光る窓を眺めては怯え、大きな甘えた声で寝ている私を起こしにくる。


 部屋の灯りをつけ、轟く雷鳴と稲光に震え続けるかんたろうに「大丈夫だよ」と声をかけ、撫でたりブラシをかけていると暫くして落ち着いてくる。


 おやすみ、かんたろう。
 どうやらやっと、今日からしばらくは晴れが続くようだ。