[33] 皮膚という「脳」/山口 創(東京書籍)──心をあやつる神秘の機能 | 書評 精神世界の本ベスト100

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 最近は日本でも、医療現場やヒーリングで、タッチセラピー(手を当てる)やタクティールマッサージ(軽くさする)、アニマル・セラピー(動物と触れあう)など、スキンシップによるセラピーを取り入れている所が増えてきています。
 
なぜ人間は、なでられたり、さすられたりすると、気持ちいいばかりでなく「不安が軽減する」「信頼感が深まる」など、精神的にも癒されるのでしょうか。この本は、そうした疑問に答えるために、新たに発見された知見をもとに、今まで知られていなかった皮膚の機能や心への影響について書かれたものです。  

 人との皮膚の接触の仕方には、様々なバリエーションがあります。
著者は「なでる」「さする」「タッピング」(軽くたたく)など、皮膚に触れられた時に起こる心身への影響について独自に実験を行なった結果、次のようなことが判明したと述べています。
 「まず、なでることで『1/f ゆらぎ』の振動が発生し、その振動が頭部(脳)まで届いていたこと。もう一つは、なでられた人は『心地よい』『リラックスできる』と感じていたことである。イヌやネコ、ウマといった動物でも人間がなでてやると、とても気持ちいい表情をするのは、『1/f ゆらぎ』成分を持つ振動が皮膚に発生することが原因であろう」 
 ご存知のように「1/f ゆらぎ」は、ろうそくの炎、そよ風、小川のせせらぎ、などの様々な自然現象の中に発見されており、人の心拍のリズムも「1/f ゆらぎ」になっています。体のリズムと同じリズムである「1/f ゆらぎ」の刺激を与えることにより、人は快適になれるというわけです。

 では、皮膚と皮膚との接触は、なぜ精神的なリラクゼーション効果をもたらすのでしょうか。そのメカニズムはどんなものなのか。著者は、臨床心理学の立場から、次のように説明しています。

 「マッサージのように皮膚に接触すると、脳でオキシトシンというホルモンが分泌されることがわかっている。私は特に皮膚の『1/f ゆらぎ』の振動が脳に伝わることで大量に分泌されるのだと考えている。
 ゆっくりと優しくなでることは、母子の関係を安定させ、恋人や夫婦の親密な関係を保証してくれる。オキシトシンは『愛情ホルモン』とも呼ばれ、母子や夫婦の愛情を深める作用をもたらす。また最近の研究では、オキシトシンには相手を信用したり、互いの親密さを高め、攻撃性を低下させる働きを持つことがわかってきた。まさに『安らぎと結びつき』反応なのである」
 
 また「さする」については、特に「痛みや不安感を鎮める」効果が大きかったと言っています。だから、不安で心が弱っている人に対しては、背中をさすってあげるのがいいわけです。
 3つめの「タッピング」については、3種類の触れ方の中では「最も不安感を低下させる」ことがわかったそうです。「タッピング」によって、セロトニンが分泌されていたからです。セロトニンは興奮と不安を抑制して、心のバランスを保つ働きをしています。赤ちゃんが不安で泣きじゃくっているとき、母親は赤ちゃんを抱っこしながら、赤ちゃんの背中をトントンとタッピングしているのをよく見かけますが、理にかなっているわけです。

 しかし、皮膚には接触によって心身を癒す機能の他に、じつは私たちがほとんど知らない別の機能も持っていることもわかってきたのです。

 「
驚くべきことに皮膚の機能は視覚や聴覚と同じように、対照と接していなくても様々なものを感じていることがわかってきている。たとえば、私たちは耳で音を聞くと思うだろう。しかし、日常で耳にする音には、耳に聞こえない周波数や低周波の音も含まれている。なんとそれらを皮膚が『聞いている』ということが明らかになっている。また、退化はしているが皮膚で色や光を感じることができることも実験で証明されている」
 そういえば、ヘレン・ケラーは色の違いと濃淡を感じることができると著書に書いており、実際に指先で感じることができたそうです。進化を辿っていくと「五感はすべて、皮膚から始まった」といえるのです。

 最後に著者は、なぜ人間は毛をなくし皮膚を露出するように進化したのか、その理由について次のように推測しています。

 「皮膚は限りなくミステリアスで謎に満ちた神秘的な臓器である。人間は『裸のサル』といわれるように、進化の過程で豊かな毛をなくし、皮膚を露出するように進化した。いったい、なんのためであろうか?
 人間はいうまでもなく、コミュニケーションを密にとることで、社会を築き、協力しあい厳しい自然界を生き延びてきた。そのために互いに情報を伝え合い、感情を分かちあうことが必要であった。チンパンジーには、毛づくろいによるコミュニケーションの萌芽がみられるが、人間は逆に毛を失うことでコミュニケーションを活性化させてきたのではないか。
これが、私の考えである」
 皮膚は、外界の刺激から身体を守る単なる「被膜」ではなく、心をつなぐゲートだったのです。

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