[32] 超常現象 科学者たちの挑戦/NHK取材班(NHK出版)──人間の不思議な未知のパワー | 書評 精神世界の本ベスト100

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 日本では昔から「虫の知らせ」「夢枕に立つ」「以心伝心」という言葉があるように、多くの人たちは、予知、テレパシーなどを身近な現象として捉えていたと思います。
 しかし、1974年のユリ・ゲラー来日をきっかけ起きた超能力ブームで「巧妙な手品である」という報道がなされ、人々はそうした現象を疑いの目で見るようになりました。このブームの最中、NHKは当初から超常現象は「眉唾、オカルト的」と捉えていたようで、まったく報道していなかったように記憶しています。だから、先日、保守的な(?)NHKが超常現象のドキュメンタリー番組を放映した時は、正直驚きました。
 この本は、そのドキュメンタリー番組の取材をもとに書かれたものです。臨死体験、生まれ変わり、テレパシー、透視など「超常現象」を科学的に検証しようというわけです。

 超常現象の中には、いまだにそのメカニズムが解明できないものが数多くあります。しかし、21世紀に入って最先端技術が飛躍的に発展し、以前とは比較にならないほど精度の高いデータが蓄積されるようになりました。そこで、今回、NHKでは最新鋭の観測装置を使って得られた科学的データをもとに、改めてその真偽を明らかにしてみたいという趣旨でこの番組を編成したのです。
 まえがきで、大里プロデューサーはその思いを次のように述べています。
 「超常現象を、ばかげたことだと取り合わないのは簡単だ。しかし、不可思議な謎への挑戦が、新たな科学の可能性を広げることは、これまでの歴史が証明している。しかし、謎が多ければ多いほど、それだけ新たな発見がなされるチャンスも多いに違いない。そして、驚くべきことに、もしかしたら人間には、不思議な未知のパワーが備わっているかもしれないという、にわかには信じがたい可能性までもが示唆され始めているのである」

 それにしても、様々な科学的兆候が示されているにもかかわらず、超常現象を科学的に探究することが、本流科学の世界でなかなか認められないのはなぜだろうか。大里プロデューサーは、そうした疑問について次のように語っています。
 「超常現象を眉唾、イカサマ、オカルトと決めつける偏見によって不当に疎外されている面もあるだろう。しかし、それだけではなく、超常現象の研究自体にも大きな弱点があると思う。
 科学者たちは、自然科学の法則を記述する言葉として数式を最も重要視している。しかし超常現象は、数式によってその存在を理論的に記述し、証明すべきターゲットを定義することがまだ十分にできていない。そこが本流科学との決定的な違いであり、多くの科学者がまともに取り合おうとしない大きな理由になっている」
 しかし、最近は科学者の中にも、理論の構築や数式化を真剣に模索している人が数多く出てきています。ノーベル物理学賞を受賞したブライアン・ジョセフソン博士は、意識や生命をも包含する、全く新しい物理学の理論を作り出すことが必要であると主張し、その構築に情熱を燃やしているという。
 「私は長い間、自然界における心の役割に興味がありました。従来の見方では『心=脳』です。これは全てを物質と見なす物質主義的な見方です。しかし超心理学などによる証拠は、『心』はそれ以上の存在であることを示しています。そこから何かを学びとる必要があると感じました。これまでの科学には心を説明する適切な理論がありません。そこで全てを説明する理論の構築を目指し、『心-物質統合プロジェクト』を始めたのです」

 そこで注目されているのが、量子論による理論化です。ジョセフソン博士は、その可能性について次のように述べています。
 「量子の世界には、超常現象とよく似た奇妙な一面があります。量子論の世界では、ある人が量子を観測しようとすると、その行為が観測対象に影響を及ぼすという現象が知られています。量子力学には初めから『人々の意識が物質世界に影響を及ぼしているのかもしれない』という考え方があるのです。その意味で、超常現象は量子論と親和性があるといえます」
 脳神経学者のリアナ・スタンディッシュ博士(ワシントン大学)も、アインシュタインが提起した「量子もつれ」(非局所的な相関性)が脳の同期現象(テレパシー)を説明しうる唯一の原理ではないかと考えています。
「『量子もつれ』とは、二つの量子の片方に何等かの刺激を与えると、瞬時にもう一方の量子にもその影響が及ぶという状態のことをいう。しかも、二つの量子を何億キロ引き離しても、互いに同時に影響し合う状態は変わらないのだ」
 この現象は、ベルの定理とアスペの実験によって、すでにその存在が証明されています。科学者の中には、量子論に加えて、ひも理論や多次元理論のようなものも考えに入れれば、必要とする理論ができるかもしれないと言っている人もいます。

 それでは、新しい理論は、どのようなものなのでしょうか。記述方法も現在の数学とは全く違ったものになるかもしれません。いずれにしても私は、従来の科学の枠組み(パラダイム)を大きく変えるものになると思っています。
 石川幹人氏(明治大学教授)は、物と心の概念を融合させた「新しい量子理論」を提唱しています。この仮説は、量子過程を「意味作用」という心の機能まで拡張した理論で、物と心を一貫して説明できると言っています。
 また、チャールズ・タート博士(超心理学)は、現在の本流科学は通常の「覚醒した」意識状態に対応する科学に過ぎず,変性意識状態には別な固有の科学が存在すると主張しています。それは「状態特定科学」であり、通常意識科学とは全く異なった記述方法が用いられると述べています。
 この考えを推し進めていけば、通常意識状態ではなく変性意識状態の中で記述される新たな理論も出てくるかもしれません。それは、現在の数式とは全く異なった理論モデルになることは間違いないでしょう。ただし、その理論を深く理解するには、高度な数学的知識だけではなく高次元意識になることが前提となるかもしれませんね (^-^;)

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