欠けたる望月 162/240 (平安時代叢書 第十一集) | いささめ

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 源氏という皇室につながる特別な家系に生まれるか、藤原氏の中でも藤原忠平の子孫として生まれなければ上へと進めないのである。それでも道長は競争の原理を導入して質の維持を図ったが、競争は完全に薄れ、血筋がよければ無条件で出世でき国家の要職に就けるのに対し、そうでない者はまず出世を諦めねばならない。極めて優れた能力を持ち、かつ、父が藤原兼家や藤原道長の忠実な家臣であった者であれば議政官の末席になんとか名を連ねることができるが、それより上はまず期待できない。

 これで誰が意欲をみせるであろうか。

 努力をし、結果を残したとき、正当な評価を下さなければ、人材は簡単に腐る。評価されなくても意欲を落とさずさらに努力をしようとする者は、そのうち充分な評価をされることを期待しているであり、評価されない境遇を受け入れているわけではない。

 ここで注目すべき例がある。時間は少し遡って治安三(一〇二三)年一二月二三日、丹波守藤原資業の京都の邸宅が襲撃を受けたのである。

 ここで藤原資業のキャリアを振り返ってみるとこうである。

 まず、藤原資業は藤原氏であるし藤原北家でもあるが、藤原忠平の子孫ではない。ゆえに、生まれだけで無条件で議政官に就ける血筋ではない。しかし、この人の父はかつて藤原兼家の忠実な手足であり、藤原道長の政権も支えていた藤原有国である。ゆえに、それなりの特別な待遇が用意されている。実際、源氏でも、藤原忠平の子孫でもない者で唯一議政官入りしている藤原広業は一一歳離れた兄であり、弟はこれまで兄とほぼ同じキャリを積んできた。


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