思いがけない同窓会 | 行列のできないブログ( 本当は、行列の途切れないブログ )

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2011年9月に「家庭菜園ブログ」としてスタートしましたが、いつのまにか道を踏み外してブレまくり、野菜作りとは何の関係もないことばかり書くようになりました。なお、このブログには農薬と化学肥料は使用しておりませんので、安心してお読みください。

 いやあ、久しぶりだね、K子ちゃん。何年ぶりだろう。

 そうねえ、15年くらい前の同窓会で会ったきりでしょう。元気だった、M君?

 うん。あなたは?

 元気よ。すっかりオバさんになったけど。

 そんなことないよ。15年前とぜんぜん変わらないね、と言ったら嘘になるけど、そんなに変わってはいないよ。

 そんなに、というのがどの程度なのか、それが問題ね。でも、M君はぜんぜん変わらないわよ、と言ったら嘘になるけど、今でも中学生の時の面影がはっきり残ってるよ。

 たぶん、ぼくは、あの頃から精神的にあんまり成長していないからだろうね。同窓会じゃ、男子と女子が別々に固まってたから、ほとんど話もできなかったね。

 そうね。あのクラスは、もともとあんな感じだったしね。幹事のY子が、M君は埼玉に住んでるって言ってたけど、まさか、こっちに戻ってきたんじゃないでしょ?

 実は、4日前にぼくのおやじが急に亡くなってしまってね。それで、しばらく帰ってきてるだけなんだ。また近いうちに埼玉へ戻るけど。

 あら、まあ、そうだったの・・・。悲しかった?

 あまりに突然のことだったんで驚いたけど、おやじは眠るように安らかに息を引き取ったらしくて、ぜんぜん苦しんではいないみたいだから、それほど悲痛な感じはしなかった。

 それは不幸中の幸いね。私の父も去年の夏に死んじゃったけど、3ヶ月以上も入院してて、つらい闘病生活の末に亡くなったから、なんだかとても可哀想だった・・・。

 そうだったの・・・。

 それだけじゃなくて、父が遺した不動産やら何やらをめぐって、私の二人の兄たちと、それに私の主人も加わって、いまだに骨肉の争いを繰り広げてるのよ。2ヶ月に一回くらいは家裁に集ってるわ。本当にうんざりする。

 まあ、別に珍しい話じゃないよ。

 M君の家では、そんなことはないでしょう?

 ないと思うけどね。それより、K子ちゃん、ここへは買い物に来たの?
 
 そうだけど、別にあわてて買い物をする必要はないわ。M君は?

 ぼくはもう買い物を済ませて帰るところだったけど、なつかしい顔が見えたからね。

 本当、なつかしいわ・・・。ねえ、M君、中学の卒業式の次の日に、二人で○○公園に行ったの、覚えてる?

 もちろん覚えてるよ。なにしろ、ぼくにとっては、生まれて初めてのデートだったから。

 そう言ってたわね。でも、なんであのあと、二度と誘ってくれなかったの?

 えっ? 誘って欲しかったの?

 うん。電話を待ってたよ。

 だって、ぼくと一緒にいても、つまらないだろうなと思ったから・・・。

 どうして?

 あの日、公園で、ぼくはずっと緊張のしっぱなしで、言いたいこともろくに言えなくて、なんだかすごくぎこちないデートだったでしょ?

 たしかに、いつもはあんなにおしゃべりだったM君が、今日はずいぶんおとなしいなとは思ったけど。

 ほんとにあの日は舞い上がってたんだよ。なにしろ、ただの十五のガキだったし、デートの心得みたいなものも、まったく知らなかったしね。それに、K子ちゃんと二人きりだったから・・・。

 私がM君と手をつなぎたいなと思って右手を差し出したとき、その手を握り返してくれなかったのも、緊張してたから?

 うん。それに、なんだか、とても恥ずかしかった。

 ねえ、さっき、言いたいことも言えなかったって言ったけど、何か私に言いたいことがあったの?

 まあね。

 教えて。何を言いたかったの?

 あのさ、K子ちゃん、買い物しなくていいの?

 教えてよ。それを聞いたら買い物に行くから。

 じゃあ、教えるから、笑わないで聞いてくれる?

 面白かったら笑うかもよ。

 面白いかもね。実は、ぼくが言いたかったのは・・・。

 何?

 K子ちゃんが川崎から転校してきて、みんなの前であいさつしたとき・・・。

 うん。

 ぼくはなぜか、自分は将来この子と結婚する、という予感がしたんだ。

 えーっ!?

 つまり、そのことをK子ちゃんに言いたいなと思ってたんだ。

 それって、つまり、プロポーズ?

 いや、そんなつもりはなくて、ただそんな予感がしたことを話したかっただけ。

 でも、もしもそんなことを言われてたら、私もその気になってたかもよ。

 そして、もしかしたら・・・、なんて、この話はもうやめようよ。お互いに、まったく別々の人生を歩いてきたわけだし、まあ、要するに縁がなかったんだろうから。

 そうね。たしかに、縁がなかったみたいね。

 あの日のことは、二人だけのなつかしい想い出にしておけばいいんじゃないの?

 うん・・・。ところで、M君、幹事のY子が、来年あたりにまた3年1組の同窓会をやりたいようなことを言ってたけど、出席できそう?

 どうかな。出席しないかもしれない。だって、こうしてK子ちゃんと話ができたことが、ぼくにとっては最高の同窓会だったような気がするから。なーんちゃって、ちょっとキザかな。

 ううん、そんなことないよ。私も、M君と久しぶりに話せてすごく嬉しいし、なんだか、あの日に帰ったみたいな、とてもなつかしい気持ちになれた。

 年を取ると、若い頃のことが本当になつかしくなるよね。たぶん、何年先になるかわからないけど、次の次の同窓会には出席すると思う。その時は、おたがいにジイさんとバアさんになってるだろうから、二人で、今日のことをなつかしく思い出したりするかもね。

 それより、ねえ、ジイさんになったM君と、バアさんになった私とで、こっそりあの公園へ行ってみない?

 うん、それはいいね。そうしよう。

 そして、私がもう一度、右手を差し出すから、その時は握り返してくれる?

 もちろん、握り返すよ。そして、あの初めてのデートのとき、ほんの少しだけ勇気を出してK子ちゃんの手を握り返さなかったことを、あとになってぼくがどれほど後悔したか、そのことも話してあげるから。

 でも、もしも握り返してくれていたら、私たち、ずっと付き合っていたかもしれないね。

 そうだね。ずっとずっと、付き合っていたかもしれないね・・・。