『聖なる聖なる聖なる日で一番尊い日。それがクリスマスの日。
人間世界で一番の奇跡が起きた、とっておきの日。それがクリスマスなのです。
だからその日は人々によって愛され続け、そしてまた、その愛を感じていたいと思うのかもしれません。そうです。今日はクリスマス・イブを迎えます。』


つけっぱなしのTVから流れてきたメッセージを聞きながらマリアは思う。
愛って私だって持っている。このわが子に対する愛はだれにも負けないわ。


つけたTVから流れたきたメッセージを聞きながらデビッドは思う。
ふん。クリスマスなんて取ってつけた日で深い意味なんてありやしない。ただのうかれていたい日だよ。ばかばかしい。


消そうと思ったTVから流れてきたメッセージを聞きながらジョシュアは思った。
もうクリスマスか。忙しくて、今がクリスマスだって感じている暇もないや。まあ、クリスマスパーティには出席しなくちゃ。


マリアは娘がぐずり出したのを見てため息をついた。今度はなに?ミルクはさっきあげたじゃない。オムツかしら。彼と二人で過ごしたクリスマスをまた感じてみたいわ。でも今はこの子がいるから無理だわ。そのときマリアがふと見たミルク缶にはもう残っている粉はなかった。買ってこなくては。外出の仕度をし彼女は娘を抱いてドアの取ってに手を伸ばした。

デビッドは時計をみた。もうこんな時間か。もう少し1日の時間が長ければ片付くのかもしれない。携帯電話のリダイヤルで直前にかけた番号の相手に言った。いつ出来るんだ。今日中にたのむぞ。相手が何か言おうとしたのを無視して電話を切った。やれやれ今日も帰れないな。あいつも家で待っている家族がいるが我慢してもらうしかない。せめて夜食でも手に入れてくるか。デビッドはTVのリモコンで電源を切ると、ジャケットを羽織って事務所のドアノブに手をかけた。

ジョシュアはリズミカルな着信音を奏でる携帯電話を取り、話し始めた。電話の向こうの相手は、パーティにはいつ来るんだと聞いた。ジョシュアは今ちょっとばかし手が離せない状況なんだと説明し、片付け次第もう出るよ、と電話を切る直前に答えた。その瞬間、頭のすみでプレゼント交換用の品を用意していないことに気がついた。途中で準備するにはもう出なくちゃ。そう考えたとたん、黒い外套を手に取って、ブーツを履きながら急いでドアノブをつかんだ。

ドアを開けた。開けたはずだった。3人が見たもの、それは白い平原が地平線の彼方まで続く空間だった。デビッドは
「こ、これは、どうなっているんだ」と言いかけて、それを先に言ったのは隣のドアから顔を出しているジョシュアだった。
「どうなっているんだ!ここはどこだ!」彼は叫んでいた。
「あら、雪が積もったのかしら」3番目にそう言ったのは、二人のドアの間からドアを開けているマリアだった。
「わあ!」ジョシュアは叫びながら声がした方を向いて彼女の姿をみた。
「お隣さんに越してきた方?」マリアは怪訝な表情をして声がした方を向いたが、隣のドアがすぐ横にあるはずがないことに気がついて、
「あなたはだれ?どうしてそこにドアが」と言った。ジョシュアは目を丸くして、それはこちらが聞きたいようと表情で返答していた。
「それは、俺にもわからないな」は逆の方から声がして今度はマリアがぎょっとしながら声の主の方を向いた。
「どうも。俺も今ドアを開けたらこうなっているのに気がついたんだ」デビッドは言った。
「おーい。だれかいるかーーーーい」急に大声でデビッドは叫んだ。返ってくる答えはない。
「ほかにはだれもドアを開けていないようだ」デビッドが言った。
「そうね。私たちだけなのかしら」マリアは真っ直ぐ地平線の彼方へ視線を移しながら言った。
またしてもジョシュアが驚いたように言った。
「あれは・・・」
彼は空を見上げて何かを目で追っていた。マリアとデビッドもその先の視線を追う。

三人が見たものは、きらめく軌道を一筋残して横切る星の動きだった。そしてその軌道から降り注ぐ星屑が人々の頭上に降りそそぐのを。


それを見てマリアは胸に抱いている娘を見た。娘はじっとその丸い目でマリアを見つめ返していた。小さな手がマリアへ向かって伸ばされ、もうぐずってはいなかった。マリアは思った。そう、この子と一緒にクリスマスを祝うのがこの子への本当の愛なのだわ。

デビッドは視線をまた地平線の彼方へと移しながら思った。俺には愛なんて似合いそうもない。でも、試してみるのも良いかもしれない。彼はポケットに入っている携帯を取り出した。そして、さっきかけた相手に向かって言った。もう今日はいいぞ。なんとかなるさ。電話の向こうでよいクリスマスを!と言っている声が聞こえたが、デビッドはやっぱり俺には似合わないなと呟いた。

ジョシュアは二人の和らいだ表情を交互に見て思った。馬鹿騒ぎのパーティもいいけど、たまには親の顔でも見に行くか。これからバスに乗ればまだ二人が起きている時間には間に合うだろう。そう思いながら腕にはめている時計に目をやった。

三人は同時にお互いの顔を見てだれかが先に話すのを待った。最初に喋ったのはやっぱりジョシュアだった。
「あのさ、一度ドアを閉めて、もう一度あけるってのはどう?」ジョシュアが二人に向かってさもやるべきだとういう顔つきで提案して言う。
「どうも、僕たち、ドアの開け方を間違ったようだし・・・・」
マリアとデビッドには異論はなかった。頷くようにデビッドが言った。
「オーケー。いち、に、さんで閉めて、すぐまたいち、に、さんで開けよう。もし、元に戻っていたらこれでお別れだ。最後になるかもしれないから名乗っておく。俺はデビッド」
「わたしは、マリア」
「ぼくは、ジョシュア」
続けてデビッドが付け足すように言った。
「きっと、次にドアを開けるときには素晴らしき愛が満ち溢れているように気がする。よし、いくぞ。いち、に、さん」デビッドが言い終わる同時に3人はドアを閉めた。
そして、デビッドは、声に出して、マリアは心の中で、ジョシュアは、さんだけ声大きく、
「さん!」デビッドとジョシュアの声が同時にマリアには聞こえたような気がした。

 

それぞれが見たもう一度開けたドアの外の景色は・・・いつもの通りだった。そして、彼らは冷たい空気を感じながら上を見上げた。そこには、さっき三人が見た星屑が人々を祝福するようにまだ漂っているように思えた。それから彼らは、自分たちの向かう先へとそれぞれ出て行った。だれにも聞こえない心の声で「メリー・クリスマス!」と呟きながら。


ひとりのみどりごが、私たちのために生まれる。
ひとりの男の子が、私たちに与えられる。
主権はその肩にあり、その名は「不思議な助言者、力ある神、永遠の父、平和な君」と呼ばれる。
その主権は増し加わり、その平和は限りなく、ダビデの王座に着いて、その王国を治め、さばきと正義によってこれを堅く立て、これをささえる。今より、とこしえまで。
万軍の主の熱心がこれを成し遂げる。
【イザヤ書9章6-7節】