握るステアリングが震えた
ここが限界か
心の中で汗が流れる

 

アクセルステップを
思い切り踏み込んで
最後のあがきのように
さらに加給量子ポッドに
無限のホールから流れ込む
反物質を放り込む

 

12次元ジェネレータは
それでも次から次へと
消滅し合うそのエネルギーを
もてあます

 

一瞬というには長すぎる今の自分には
時間とは言えないこだまが過ぎて
誰にも気が付かれないまま
僕はまた違う世界へと
ジャンプした

 

 

あたりが真っ暗になって
自分の体が伸び始める
次は何処へ行くのか
ばらばらになった素粒子は
不確定な存在となり
このマシンが演算を完了するまでは
確定されないのだ

 

混沌とした状態で
やがて意識だったものが
再構成され自我が取り戻され始めた
まだ自分が何者だったのかは
わからない

 

ただ粗悪な箱の状態であるようでも
それが惨めだとも思うほど
高度ではないのだ
気が付くとステアリングを

握っているはずの手の中には何もなく

ただ明るい場所が目前に見えた

 

量子コンピュータですらクラシカルと
思えるほどの性能を持った
1024次元グラビティ放射演算装置は
その機能を停止していた

 

真っ直ぐに方向を定め
ゆっくりとその明るい一点へと進む
上限に揺れて視界が回転始める
耐え難い振動と上がる速度の中で
ジャイロもやくには立ちそうもないと
思えた瞬間
トンネルをぬけるように外へと
飛び出した

 

「おめでとうございます」

 

ゴム手をはめた看護師が

小さい女の子を抱いて
母親のほほの側へと近づけた

 

「こんにちは。可愛い赤ちゃん。。。」

 

母親は額から流れる汗を気にもせずに
世界でだれもが持っている「愛」という名の笑顔を
その子に向かって捧げた

 

 

1024次元グラビティ放射演算装置は
今度は素粒子を「人間」という宇宙の中の
一つとして確定していた

 

ただ、そのマシンが「愛」まで
計算していたのかは
誰にも分らない
その先は予測不能なのだから