海洋底が拡大していることの証拠 | 文字の風景──To my grandchildren who will become adults someday

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After retirement, I enrolled at Keio University , correspondence course. Since graduation, I have been studying "Shakespeare" and writing in the fields of non-fiction . a member of the Shakespeare Society of Japan. Writer.

 

 海洋底拡大の過程と証拠について述べる。

 

1.海洋底拡大の過程

 

 1961年にプリンストン大学の岩石学の教授であったヘスは、海洋底の生成と消滅および運動に関する、それまでの常識を超えた考えを提唱した。それが海洋底拡大説である。ヘスは中央海嶺をマントルのわき出し口と考え、そこで新しい地殻が生産され、海溝で再びマントルに沈み込んでいくというプレートテクトニクスの学説を示した。

 

 互いに離れ去るプレートのあとには、そのすきまを埋めるようにマントルから高温で部分溶融した流動性に富むアセノスフェア物質が湧き上がってくる。湧き上がるアセノスフェア物質は、上昇とともに圧力が減ずるので融点が降下し、さらに溶融の度合が増し、マグマを生ずる。マグマは地表(すなわち海底)まで達すると、海底によって冷却され、固化し、海洋地殻をつくる。こうして生まれた海洋地殻は離れ去るプレートに付加され、その一部となって移動してゆく。海洋地殻の下のアセノスフェア物質も、上からの冷却が進むとともに固化し、プレートに付加される。これが海洋底拡大の過程である。

 

 実際、1950年代にさかんに海洋観測が行われ、海嶺と呼ばれる長大な海底山脈が連なっているところがあることがわかった。その総延長は約6万kmにも及んでいる。この海嶺を調査すると、海嶺の中央部にリフトと呼ばれる大規模な谷があることもわかった。そこで、ここが地球の割れ目でありマントルからの高温物質が地表にあらわれるところであって、そこでは新しい海底が生まれ、ここから海底が両側に広がっていく。例えば大西洋中央海嶺から広がる新しい海底の上にのって南北米大陸、およびヨーロッパ・アフリカ大陸は移動してきた。太平洋では、東太平洋海膨から発して拡大する海底は環太平洋の海溝において、再びマントルへもぐりこんでいく。このリフトは海底だけでなく、陸にも見られる。

 

 「海洋底が拡大しているという説は、その後数年のうちに古地磁気学的手法によって証明され、さらに海洋底の掘削により確認された」註1 

 

2.海洋底拡大の証拠

 

2-1 古地磁気学的証拠

 

 海底での地殻熱流量の測定が多くなされ、海底地形と熱流量との強い相関があることもわかった。海嶺地域では他の場所より熱流量がたいへんに大きい。このことは、マントル中に熱対流が存在する可能性が大きいことを意味する。熱対流の存在はマントル対流が存在することを示し、これが大陸移動を起こしうる原動力となっている。

 

 このマントル対流説をより強く支持する直接的な証拠は、地磁気のデータである。マグマが冷却固化して、新しい海洋地殻が生まれるときには地球磁場によって磁化される。一方、地球磁場は何十万年に1回といった割合で逆転するので、拡大する海洋地殻は縞状に正逆に帯磁する。このため、海上では縞状の地磁気異常が生ずる。   

 

 海嶺軸には玄武岩マグマが次々に入り込み固結するが、玄武岩はその当時の地球磁場の方向に帯磁する。この磁化した玄武岩は、海嶺軸から両側に広がっていく。このように考えれば直線的・縞状で対称的な地磁気異常を説明することができる。この考えをテープレコーダーモデルという。地球磁場は10-10年で反点(N極、S極の逆転)を繰り返していることがわかった。この地磁気の研究により、海底拡大が起こっていることは疑い得ない事実であることが証明されたのである。

 

2-2 海洋底掘削

 

 海洋底が海嶺で誕生して、そこから広がっていくならば、海洋底の年齢は、海嶺から遠くなるにしたがって古くなるはずである。深海を掘削した結果、「海洋底基盤直上の化石年代によって決定された海洋底拡大年代は、東西両翼とも大西洋中央海嶺からの距離に比例し、年間2cmの拡大速度が求められた。この拡大速度は、縞状地磁気異常から求められた拡大速度とよく合致していた。浮遊性有孔虫とナンノ化石の溶解の程度から、拡大形成された海洋底が年代とともに深度を増したことも明らかにされた」註2

 

 このことは海洋底が拡大し、かつ更新をしていることを意味している。さらに海洋底の大部分が白亜紀より若く、その上の堆積物は数十億年も海が存在していたにしては薄すぎることから、海嶺の両側に拡大する速度は年間数センチメートルであることもわかった。

 

 海洋底拡大説は、やがて大陸も含めて、地球の表層が固い岩盤からなり、それが相互運動しているとする考えから、プレートテクトニクスへと発展した。プレートテクトニクスは、「地球表層は十数枚からなるプレートに覆われており、それぞれのプレートが独立して移動するため、プレート境界では大きな負荷がかかり地震や造山運動・火山活動などを発生させている」註3。

 プレートは境界以外ではほとんど変形しないと考えられている。

 

2-3 ホットスポットからの海山列 

 

 他にホットスポットからの海山列などの証拠もある。ホットスポットは、マントル境界付近から上昇するホットプリューム(プリュームテクトニクス)の真上で火山活動が起こるという場所で、ハワイ島などがその例としてあげることができる。プレートの移動によってホットスポット上の火山は移動することで必然的にプリュームからはずれ死火山となることで、太平洋上の海山列は生成したとされている。

 以上が海洋底が拡大していることの証拠である。

 

 

<引用註>

1 酒井治孝編(2003)、『地球学入門 惑星地球と大気・海洋のシステム』、東海大学出版会、67.68ページ

2 新妻信明(2010)『プレートダイナミクス入門』、共立出版、60ページ。

3 立正大学地球環境学部環境システム学科編(2011)『環境のサイエンスを学ぼう』、丸善プラネット、38ページ。

 

<参考文献>

・鹿園直建(2009)、『地球惑星システム科学入門』、東京大学出版会

・上田誠也(1972)、「海洋底拡大説とプレート・テクトニクス」(『地質学雑誌』第78巻第2号)、日本地質学会

・山賀進(2010)、『一冊で読む地球の歴史としくみ』、ベレ出版