HIV感染症の予防と課題 | 文字の風景──To my grandchildren who will become adults someday

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After retirement, I enrolled at Keio University , correspondence course. Since graduation, I have been studying "Shakespeare" and writing in the fields of non-fiction . a member of the Shakespeare Society of Japan. Writer.

 

 

  HIV感染症の予防と今後の課題について述べる。

 

1.HIV感染症とは

 

 エイズ(AIDS:Acquired  Immunodeficiency  Syndrome、後天性免疫不全症候群)は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV:Human  Immunodeficiency Virus)の感染によって後天的に引き起こされる。感染すると身体の免疫力が徐々に低下し、種々の微生物が増殖しやすく、健康な人には害のない菌でも増殖し、細菌やウイルス・真菌(かび類)などの感染症や悪性腫瘍、神経障害や肺炎などの重篤な症状(日和見感染症)等が出現し、治療を怠ると死に至ることになる。

 

2.HIV感染症の予防

 

 HIVの感染力は弱く、感染経路は、①性行為による接触、②血液を介する場合(輸血や血液製剤、針刺し等)、③母子感染(妊娠・出産・授乳時)と限られている。

 

 予防はウイルス伝播に繋がる経路を遮断することである。そのためには、不特定多数との性行為や無防備な性行為を避けることが最も重要である。また、HIVは傷口や口腔・性器などの粘膜から感染するため、コンドームを正しく使うことで感染を防ぐことができる。

 

 HIV感染者との日常生活における接触において感染する可能性はないが、血液が付きやすいカミソリや歯ブラシなどは共有しないことが必要である。

 

 母親がHIVに感染していると、妊娠・出産・授乳の際に子供に感染する危険がある。母子感染予防スクリーニング検査の1つとして、HIV抗体検査がある。母親がこの検査を受けて自分の感染を知っていれば、母子感染は妊娠後でも防ぐことができる。また、予防治療により、感染の確率を30%から2%ほどまでに低下させることが可能とされている。

 

3.HIV感染症の治療の到達

 

 HIVの増殖を防ぐための抗ウイルス薬(逆転写酵素阻害薬、たんぱく分解酵素阻害薬など)による治療法が開発されている。これは無症候期において、HIVウイルス量ならびに免疫力の指標となるCD4陽性リンパ球を定期的に測定し、エイズ発症の可能性が高くなってきたと判断されるタイミングで、抗ウイルス薬の投与を開始するものである。作用機序の異なるウイルス薬を3種類ほど組み合わせる投与法(カクテル療法)によって治療と発症遅延効果が上がり、死亡率は確実に低下している。

 

 HIV感染症は免疫の病気なので普段の生活における注意が必要である。つまり、十分の睡眠や休息、バランスのとれた食生活、過度な労働やストレスなどを避けることが大切である。

HIV感染症の特効薬はまだなく、予防にまさるものはない。

 

4.日本の現状

 

 世界のエイズ感染者の数は4030万人、死者の累計数は2500万人を超えている(注)。

 

 日本において最初にエイズ患者(血友病)が認定されたのは1985年である。厚生労働省エイズ動向委員会の『エイズ発生動向』2009年によれば、凝固因子製剤による感染例を除いた2009 年12 月31 日までの累積報告件数は、HIV 感染者11573 件、AIDS 患者5330 件に及ぶ。感染経路の内訳は、HIV 感染者では、異性間性的接触31.5%、同性間性的接触51.2%、静注薬物使用0.5%、母子感染0.3%、その他2.3%、不明14.2%であり、AIDS 患者では、同性間性的接触32.0%と、HIV 感染者に比べて小さい。国籍別、性別内訳は、HIV 感染者では日本国籍男性73.4%、日本国籍女性6.0%、外国国籍男性9.2%、外国国籍女性11.4%であり、AIDS患者では、それぞれ75.3%、5.2%、13.2%、6.4%である。感染者は年々増加傾向にあり、特に男性の性的接触および若年者が増加している。

 

5.今後の課題

 年々、感染者の増加傾向にありながらエイズに対する正しい理解は薄弱といえる。学校におけるAIDS教育を一層充実させ、感染経路、安全なセックスやコンドームの使い方などきめ細かく啓発し、効果的な予防を促進することが求められる。

 

 同時に、高い水準の医療を広く整備し、匿名を原則にし、安心して検査を受けられること、個別相談ができるなどの社会基盤がつくられなければならない。

 

 そして何よりも強調されなければならないことは、エイズに対する差別と偏見をなくすことである。エイズに対する恐怖心を徒に煽り、感染者を社会から排除することは、感染症の正確な知識も予防・対応策も身につかず、問題を深刻化させるだけである。

 

 <注>「WHOと国連合同エイズ計画の2005年版報告書」(2005年11月21日)

 

 

参考文献

・厚生労働省エイズ動向委員会『2009年エイズ発生動向年報』、2010年

・屋鋪恭一、鮎川葉子『AIDSと人権』解放出版社、2005年

・井上栄『感染症の時代』講談社現代新書、2000年

・岡田晴恵『人類VS感染症』岩波ジュニア新書、2004年