⑮シェイクスピア・グローブ(Shakespeare's Globe) | 文字の風景──To my grandchildren who will become adults someday

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慶應義塾大学文学部 英米文学専攻(通信教育課程)を卒業後、シェイクスピア『ハムレット』の研究に専念しながら、小説、ノンフィクションなどの分野で執筆活動をしています。日本シェイクスピア協会会員。著書『ペスト時代を生きたシェイクスピア』他。

 

              開演前のShakespeare's Globe

 

 

 シェイクスピア時代のロンドンのグローブ座は一六一三年に焼失し、その翌年に同じ場所に再建されました。当時のグローブ座を再現した劇場「シェイクスピアズ・グローブ」は、一九九七年に跡地から二百メートル程離れた所に開館しました。

 

 そのシェイクスピア・グローブで観劇する機会に恵まれました。

 

 最初に観たのは「ジュリアス・シーザー」でした。開演時間の二時少し前に、入場しようとすると、場内から「シーザー、シーザー」と呼ぶ声が響いてきました。なんと、観客がこぞって、ポンペイを滅ぼしローマに凱旋するシーザーを歓呼の声をあげて迎えようとしているのです。すでに芝居の幕が上がり、観客がローマの市民たちの役を演じているようでした。

 

 「リア王」を観たときには、グロスター伯爵が拷問をうけ、その抉られた目が観客席に投げつけられました。「ギャーッ」という悲鳴がまだ耳に残っています。ある時は、芝居の最中に隣の青年が突然大声をあげたのにはびっくり。はじめから観劇していた彼が役者の一人だったとは思いもよりませんでした。

 

 こうした演出は、シェイクスピア時代から変わらない劇場の構造によって成り立っているように思いました。舞台三方を囲んで野天の立見席があり、ここには屋根がありません。立見席のまわりには、屋根付きの桟敷席が三階まで設けられています。

 

 写真は現在のシェイクスピア・グローブ座です。このように観客は舞台に手をついたり、肘をついたりして観劇しています。役者と観客が一体となっています。役者の足に踏まれそうになったりもします。時に観客が「誘拐」されたり、バッグが「盗まれる」などの演出まであり、驚くことばかりでした。

 

 毎日のように雨が降るロンドンでは多少の雨でも休演しません。私はビニールカッパをはおり、現地の人は濡れながらアイスクリームを手に観劇していました。