雑踏水族館 -Crowd Aquarium- -2ページ目

雑踏水族館 -Crowd Aquarium-

日々の出来事や創作物を展開しています
是非、覗いていってください

人は皆平等

分け隔てなく扱われ、同じくらいの愛を与えられる


驚くほどの綺麗事だ

人間にそんな事が出来ると思っているのか


全ての人間はそれぞれの考えを持つ

こんな綺麗事、ただの偽善に過ぎない


だって、そうだろう

違うと言うなら、今の俺達は何でここにいるんだ


何故俺はこんな鎖をかけられている

何故俺は足枷をかけられている

何故格子の中に閉じ込められている


それは、平等なんかじゃないからだろ

見た目は同じでも、奴等と俺は何もかも違う

虐げられた今までの記憶

忘れることは無いだろう


人は生まれた時に無限の可能性を抱いている

それも嘘だ

俺は生まれついた時からこの生活だった

もしかしたら俺は、人ですらないという事なのかもな


生まれた時代が違ったら、こんな思いはしなかったのだろうか


そんな事を言っても仕方ない

首を振り、考えを消し去る


まるで闇の中だ

足掻いても足掻いても抜け出せない

反抗することに何の意味も無い

さらに苦しい生活を強いられるだけだ


このまま大人になっても何も変わらない

遂に生まれた意味すら分からなくなってくる

誰かの罵声を浴びせられるために生まれたわけじゃない

それでも、そうして生きていくしかない


生を全うする事

それが、産まれた意味かもしれないじゃんか


でも、思うんだ

俺が生まれた世界は、酷い世界だった


だから、未来は、もっと平等な世界になっているといい

それが、俺の願いなんだ




声が聞こえる

声が木霊す

声が消えていく


存在した雑踏

数分前に消えてなくなった

今はとても静か

そこで響くのは一人の声


それって静かだっけ

それって静かなの

そもそも、静かが当たり前


空気へと融ける声

一分、一秒止まらずに続く

木霊す声は、続く、続く


それは永遠じゃない


私にとって

貴方にとって



眠りにつくあの子

目を見開いて、ただ書くあの子

空見るあの子はあの席の男の子


そこに問題の答えは無いよ

数多の答えはあるけれど


苦でも楽でも私の道


風が吹き抜ける

首筋を撫でて彼方へ走り抜ける

その顔はきっと真っ赤っか

林檎のように、林檎以上に



終わりを告げる鐘が鳴る


目を覚ますあの子

目を閉じるあの子

はっと気が付くあの子はあの席の男の子


再び始まる雑踏


終わりから始まるもの

始まりから終わるもの

そうして世界は廻ってきた



声が聞こえる

声が木霊す

声が消えていく


存在した雑踏


終わりを告げる鐘が鳴る

また、私たちのことを風が撫でた




信じていた人に裏切られた


経験したことはないが、きっととても辛いのだろう

きっととても悲しいのだろう



君の書いた遺書、そこに僕の名前はなかった

何で書かなかったのか


君がいない今、それを知ることはできない

どんな思いをしながら命を絶ったのか

どんな思いで、死を選んだのか


左斜め前の席に座っていた君はもういない



これが現実


自分の手を見るたびに思う

目には見えないけれど、きっと赤黒く汚れているに違いない

だって、君に死を選ばせたのは彼らじゃない、僕だから


最初は君を守っていた

彼らの暴力を止めてみせる

そのつもりだった


けれど、いつの間にか僕は彼らと同じになっていた

心の何処かで優越感すら感じていた


ふと一人になった僕は思った


“彼は一人になってしまったのではないか”


そう思うと怖くなり、すぐさま心の中で自分をごまかした


“いや、自分のほかにも味方はいる”

“たとえいなくても、死んだりなんかしない”



どうしてそう言いきれたんだ

底知れぬ闇と戦い、唯一だった味方は闇の中へと消えていった


つい先ほどまでいた味方がもういない

それがどれほど苦痛か、考えただけでも分かるはずだ



なのに僕は裏切った

君は巨大な闇に耐えられず、深淵へと消えていった

左斜め後ろから見えていた、君の表情はもう無い



最悪の幸福を掴んでしまった君はもう二度と帰らない



遺書に綴られていた名前、それは主犯の生徒のみ

何故僕の名前を書いてくれなかったんだ

これじゃあ、償えないじゃないか


君を裏切った罪を

君を、殺した罪を



ふと自分の机に手を入れる

すると、覚えのない小さな一枚の紙が入っていた

開いてみると、そこには震えたような字でこう書いてあった




“こんな僕と仲良くしてくれてありがとう。僕の分も生きてほしい。”



刹那、涙が溢れる

どうして僕なんかに未来を託したんだ…

どうして、どうして…っ


頽れた足を立たせ、涙を拭う


分かった、僕は生きる

君の最後の願いは、絶対に叶えてみせる

君を守ることは、出来なかったから


そんなことで罪を償えるとは思わない

僕はずっと罪を抱えて生きていく

僕は小さな紙の裏に、一言だけ書いた



“僕の方こそ、ありがとう。”