いつかに乗せた氷の想い | 雑踏水族館 -Crowd Aquarium-

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全く、どういうことだよ

そう一言呟いた


目の前の光景、俺は数秒前彼女の名前を叫んだ

その瞬間、世界は凍りついた

鉄の塊が彼女を突き飛ばそうとしている


悪質な悪戯だな

俺はそう言って笑った

けれど、目は笑っていなかったと思う


これは彼女を助けろという神託なのか

唯一俺だけが動ける空間

きっとやるべきことはそれなのだろう


彼女の体を押してみた

全く動かなかった

今度は逆に引いてみた

同様に、全く動かなかった



何なんだよ、一体

この世界を元に戻すにはどうすればいい

彼女を助けるにはどうしたらいい

考えろ、考えるんだ


この光景をずっと見ていると吐き気がする

頭に悪い予感が過ぎって仕方がない

このまま彼女を助けられなかったら

そう思うと体中が強ばる

どうしてこんなにも恐ろしい事ばかりが頭の中を通り過ぎていくのか


頭を掻きむしっていた時、何かが聞こえた

これは、まだ俺が未成年だった時のもの



あの日、俺は一人の少年を轢いた

法に守られた俺は大した罰を受けなかった


そうか、やっと分かったよ

目を覚ますことのなかった少年、俺はずっと後悔した



今、ようやく報いることができる




反対車線にあの日の面影を見た

少年は一言〝ごめんなさい〟、そう言って泣き出した

俺は彼に向かって微笑んだ

罰が少なかったのは君のせいじゃない

仕方の無いことだったんだ、きっと


彼女の目の前に立った

これで彼女を見るのは最後か


その時気付いた

俺がいた場所にあの時の少年がいたことを


後悔しないのか、と尋ねてきた

後悔してきたから、これでいいんだよ、と返すと少年は俯いてしまった


彼女を両手で押した瞬間、俺は突き飛ばされた

全身を貫いた痛みは少しずつ消えていく

寄ってきた彼女は泣いていた


俺は力を振り絞り、彼女の涙を拭うと、そのままその手は地に落ちた




こうなったのはあの日の少年のせいではない

罪を犯したあの日の俺でもない

しっかりと罰を受けずにいた、俺のせいだったんだ


次は、失敗しないから

声無き声でそう言うと、俺は静かに目を閉じ