振り向く時が最後だと | 雑踏水族館 -Crowd Aquarium-

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是非、覗いていってください


何気なく暮らしている

今も何も変わらずに

ただ一つ、おかしいことがある


ひたすらに僕を呼ぶ声

止めてくれ

お願いだから止めてくれ

振り向いてそう言いたい

けど、言えない


そんな顔して俯かないでくれよ

まるで僕が悪者じゃないか

その寂しそうな顔を見るたびに思う


だって、だって仕方ないじゃないか

早く気がついてくれよ

じゃないと僕まで心が痛いじゃないか


他人の目には触れないくせに、どうして僕の目は君のことを捉えるのだろうか

見えなければ、これほど楽なことはないのに


君は何度も何度も僕を呼ぶ

それは仕方ないことだ

いつも一緒にいたんだから


けど、振り向いたら君は勘違いしてしまうかもしれない

だから、僕は


本当は振り向いて声をかけてやりたい

声をかけてやりたいのに

それとも、僕が教えてやらないといけないのか

そうだとしたら何て残酷なんだろう

自分の大切な人にそんな事を伝えなければならないなんて


今日も君は僕を呼ぶ

その目からは涙が溢れ出しそうになっている


それはそうだ

毎日誰かを呼んでも、誰も振り向きはしないんだから


そうして君はまた俯く

寂しそうな顔をして


僕は振り向いて君の名を叫んだ

君も僕の方をむいた

残酷な運命を君に伝えようとしたその時、君は言ったんだ


〝やっと、振り向いてくれたね〟


そう言い、君は笑った

その時、僕は気付いた

そうか、そういう事だったのか


僕はもっと早く気づくべきだったんだ

これは、君の最後の我儘だったって


でも、本当にこれで最後だ

さようならは言わない

だって、また出会いたいから


〝またね。〟


僕がそう言ったら、君は微笑んでくれた


そして、幾つもの光になって消えていった