地球星人

村田沙耶香 著

装画 岡村優太
地球星人地球星人
1,728円
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洗脳が解けてしまったら私にも、この世がグロテスクに見えるのだろうか。
生き延びることは、そんなにも困難になってしまうのだろうか。

純粋であり無垢であることが、こんなにも苦しいのなら、それなら地球星人として生きるな。
そしてせめて、ほかの星の人たちのお邪魔をしないように、お互いに優しい距離で生きてゆけばいいのになぁと、のんきに思っているのだが。



ロマンシエ

原田マハ 著

パリのリトグラフ工房idemが舞台のラブコメ青春小説。
小説家もアーティストもキュレーターも職人も吸い寄せられる奇跡の場所。
そこには100年の間、さまざまな才能と情熱が蓄積されて、それが今もエネルギーを放っている特別な場所。

東京ステーションギャラリーの展覧会、観たかったわー。残念。

ラブコメ・ラノベ的な文体は苦手だけれど、読む人を元気にするお話。


カバーデザイン 岡本歌織
カバーイラスト レイモン・サヴィニャック



小金沢健仁展 Naked Theatre 裸の劇場

KAAT EXHIBITION 2019

神奈川芸術劇場


鑑賞前、何度も繰り返しチラシを読んだが、全くわからない。私はこれから何を観るのだ?と。
現代アート?しかも美術館じゃないよ、劇場っぽいよ?
理解できない系じゃない?と。

いやいや。

見る前に跳べ!
考えるな、感じろ!

ってことですね。

劇場の中の、おもにリハーサルに使われるらしいスタジオ全体がこのインスタレーションの場。
観客は薄暗いスモークの部屋にほうり込まれる。 
ふと差し込むスポットライト。
よく見ると細い筋状だったり、壁の穴から抜けたり、様々な光を見せてくれている。
背後から男性の声。
台詞の練習か。
技術スタッフのたてる音も。
この場所でたくさんの人が動いている、その残滓のようなもの。


劇場で演劇を見るときのオープニングの瞬間が好きだ。
開演前のざわめきが一瞬にして消え、わずかな闇がやってくる。
そこへ差すスポットライト。演者の声。
突然物語が始まり、観客が一気にその中に引き込まれる。

あぁ、あの一瞬が好きだなぁ。
ということをこのインスタレーションの中で思い出した。


KAAT神奈川芸術劇場は挑戦的で面白い試みを続けている。
こういう姿勢を歓迎し、応援し、楽しんでいる神奈川県は素敵だと思います。


岡田美術館 金屏風展

箱根小涌谷

ずっと行ってみたいと憧れていた岡田美術館にとうとう見参!
いやいやすごい。
展示品のボリュームに驚き、
豪勢な建物と徹底管理された館内の設計、展示の構成に脱帽。
日本庭園を眺めるお食事処に、
極めつけが風神雷神の壁画を眺めつつの足湯カフェ!!
オーマイゴット。大人のディズニーランドですな。
朝からたっぷり5時間ほどかけて満喫しました。

陶磁器が美しくて虜に。
いやマイセンとか輸入してる場合じゃないでしょ。
素晴らしいよ、中国や日本の陶磁器は。
色や模様のセンスいいし、形も美しいし、生活の中の機能美もあり。
数が多すぎて見ても見ても終わらなくてドヒャーだけど、疲れたらいつでも足湯につかればいいさ、と気楽に構えていられる。
何より人が殺到していないし(上野でみた若冲展は恐ろしい人混みだったけど、ここでは若冲独り占め!)、監視員もいない(展示資料はすべてガラス棚に収められているし、恐らくカメラが設置されているだろうから監視がいらない)から、鑑賞のストレスになるものがない。
部屋は暗くて静かでゆったりとスペースがとってある。
スマホまで持ち込み禁止なのは驚いたが、そのおかげで迷惑な客もいない。
トイレもキレイ。

金屏風展もなかなか見事だった。
金屏風に飽きた頃には春画コーナー(ちゃんと子どもや見たくない人の目に触れない配慮がある)もあったり、
さらに上階には仏像や曼荼羅まであり盛りだくさん。

入館料は高いと思ったけど、それなりの価値はありました。
こりゃぁ参りました。




マイ・ブックショップ

イザヘル・コイシェ 監督
ペネロピ・フィッツジェラルド 原作

エミリー・モーティマー
ビル・ナイ


あつぎのえいがかんkikiにて


イギリスの海辺の小さな町。
16年前に未亡人となった主人公が、書店のないこの田舎町に古い家を修理してTHE OLDHOUSE BOOKSHOPをオープンする。

本を愛し、亡き夫を思いつつ、素敵な佇まいの書店は次第に町の人たちに受け入れられ、景色に溶け込んでいったように思えた。
とりわけ、引きこもっていた老人が本と手紙のやり取りを通して、書店とその主人とのいい関係を築いていく。
2人の間には多くを語らぬ絆が生まれた。

ところが、幸せな本屋さんの物語になるのかと思いきや、町の人々の嫌がらせは想像を超えていた。
法律まで通して書店から女性を追い出すのは、町の有力者の意地と自尊心。

その後に起こる悲劇。

美しいけれど寂しい海辺の町の景色と、
人々を魅了したいくつかの本たち。
閉鎖的な土地でも自由に生きようとする主人公の姿勢が潔く気持ちいい。


鑑賞後、ロビーでチラシをもらうとき、「勝手に応援kiki鑑賞隊」発行の印刷物を発見。
この手書きの感想文がとてもよかった。
映画鑑賞後の余韻がじんわり。



ぐるぐる博物館

三浦しをん 著


博物館行きたい欲がムゴムゴと湧いてくる楽しい本。

子どもの頃に社会化見学で強制的に連れていかれたのとは全然違う、ニッチ&フェチの奥深い魅惑の館。
行ってみたい。行ってみたい。

ある特定の狭い領域に並々ならぬ熱情を注ぐ人たちと出会いたい。

奇石もいいな。
めがねもいいな。
雲仙岳で災害の恐ろしさに震える体験も貴重だ。
と思えば風俗資料館!深い!広い!

人間の愛情も業も。


装画 化猫マサミ
ブックデザイン 篠田直樹
グリーンブック

ピーター・ファレリー 監督
ヴィゴ・モーテンセン
マハーシャラ・アリ

ヴィゴ・モーテンセンがこんな俳優だったとは!と目から鱗の作品。
お腹ぽっこりのカザツで口が達者なイタリア系アメリカ人。
彼の演じるトニーがとにかくいい。

人種差別とは一番恥ずかしい人の歴史だし、勿論現代でも存在する深刻な問題だけれど、人が人として誇り高く生きていれば乗り越えられる問題なはず、と思えた。

繕い裁つ人 (DVD)

三島有紀子 監督
中谷美紀 主演

姿勢よく無駄な動きの一切ない作業。
中谷美紀の雰囲気にとてもよく似合う主人公だ。


繕い裁つ人 DVD繕い裁つ人 DVD
4,020円
Amazon


父の詫び状 (向田邦子シリーズ) (DVD)

昭和の家庭を懐かしむなら向田邦子だ。
この杉浦直樹のような父親に、実際に出会ったことはないけれど、それでもなぜか懐かしいから不思議だ。


花だより みをつくし料理帖 特別編

髙田郁 著

みをつくし料理帖シリーズのストーリーのその後。
澪が大坂に行ってからの、つる屋の店主、種市のはなし。
小野寺とその妻のはなし。
野江ちゃんと又治との深い絆。
大坂での澪と源斉の生活。

ああどの物語も、懐かしい旧友と交流を深めていくような嬉しい読書だ。

美しい言葉と温かい食事がいっぱい詰まった、素敵な一冊。


装画 卯月みゆき
装幀 アルビレオ
ラプラスの魔女

東野圭吾 著


ひとりひとり無自覚だがそれぞれが有利な方、楽な方を選択して生きることで、社会全体として動いていく。
(武田先生の言っている「多個体生物」としての人間のことか。)

物の動きも気象も人の心の動きもすべては物理。
愛情と呼ばれるのも、脳のプログラムてある。

いや、面白いエンタテインメントミステリーの中にもいろんなことが散りばめられていて、東野圭吾ってやっぱり大した作家だなぁ。


装丁 高柳雅人
写真 川上智之

ラプラスの魔女ラプラスの魔女
1,814円
Amazon