アメリカで精神科の研修をしていた頃、もちろん勉強が目的でした。
ただ、せっかくアメリカに住んでいるのだから、勉強以外にもいろいろ見てみようと思いました。
今振り返ると、精神科医療そのものよりも、日常生活の中で「日本とずいぶん違うな」と感じたことのほうが、鮮明に残っているものもあります。
夜中から始まる野球
一度、メジャーリーグの試合を見に行きました。
試合が終わったのは夜中の12時を過ぎていたと思います。
ところが、それで終わりではありませんでした。
試合が終わると、そのままコンサートが始まったのです。
「まだ続くのか」と思いながら見ていました。
日本だったら、試合が終わったら観客は帰るものだと思っていましたが、広い敷地を使って、野球だけではなく、いろいろなイベントが行われていました。
年に一度、大きなフェスティバルも開かれていました。
広い土地があるからこそできることなのかもしれません。
外に出なくても街に行ける
ミネアポリスには「スカイウェイ」と呼ばれる、ビルとビルをつなぐ回廊があります。
これには本当に驚きました。
ホテルから外に出なくても、建物から建物へ移動できる。
ショッピング街にも行けるし、いろいろな施設にもつながっている。
冬になるとミネアポリスは非常に寒く、マイナス20度以下になることもあります。
そんな場所ですから、外に出なくても移動できるというのは、とても合理的です。
日本にいるときには「ビルとビルをつなぐ通路」くらいに思うかもしれません。
でも、マイナス20度の世界で生活してみると、そのありがたさがよく分かります。
24時間開いている図書館
大学の図書館が24時間開いていることにも驚きました。
しかも、図書館で自由にインターネットを使うことができました。
当時は今のように、どこでもスマートフォンでインターネットにつながる時代ではありません。
ですから、自由にネットが使える場所があること自体が、とてもありがたかったのを覚えています。
ミネソタ大学の近くには、公衆電話のような形をしたブースもありました。
そこに入ってインターネットを使うことができました。
今から考えると、ずいぶん昔のインターネットです。
でも当時の自分にとっては、それだけでもかなり新鮮でした。
「靴の生る木」
ミネソタ大学の近くを流れるミシシッピー川のそばには、今でも印象に残っているものがあります。
「靴の生る木」です。
人が入っていけない場所に大きな木があり、そこに卒業生が卒業記念のようにして靴を投げていたらしいのです。
川にかかる橋から靴を投げる。
それが長い間続いたのでしょう。
木には大量の靴が引っかかっていました。
まるで、本当に木から靴が生えているようでした。
日本では、あまり見ない光景です。
こういうところにも、アメリカらしい大らかさというか、遊び心を感じました。
マイナス20度の橋
ミネソタの冬は、本当に寒い。
マイナス20度以下になることもあります。
ミシシッピー川には長い橋がかかっていましたが、その橋の中央には、長い小屋のようなものが作られていました。
最初に見たときは、
「橋の上に、なぜこんなものがあるんだろう」
と思いました。
でも、厳しい寒さの中で生活してみると、その意味が分かります。
寒いから、風を防ぐ。
当たり前のことなのですが、日本にいると、橋に風よけの長い建物があるという発想自体がありません。
生活する場所の気候によって、街のつくりまで変わる。
そんなことを実感しました。
アメリカのラーメンは甘かった
アメリカで食べたラーメンも忘れられません。
日本のラーメンを想像して食べると、どうも味が違う。
私には、少し甘く感じました。
「ラーメンなのに甘いな」と思ったのを覚えています。
一方で、近くに小さな中華料理店があり、そこでボイルしたカニを食べ放題で出していました。
小さなお店だったのですが、カニを好きなだけ食べられる。
これはこれで、かなり印象に残っています。
研修だけでは分からなかったアメリカ
アメリカに行った目的は、精神科の研修でした。
だから、当時は毎日のように精神科医療について勉強していました。
でも、今振り返ると、記憶に残っているのは、そういう勉強だけではありません。
夜中まで続く野球とコンサート。
ビルとビルをつなぐスカイウェイ。
24時間開いている図書館。
公衆電話のようなインターネットのブース。
木に大量にかかった靴。
マイナス20度の橋。
甘いラーメン。
そして、食べ放題のカニ。
海外に住むというのは、観光に行くのとは少し違います。
そこで生活してみると、「日本では当たり前だと思っていたこと」が、当たり前ではなくなります。
精神科医としてアメリカから学んだこともたくさんありましたが、一人の人間として学んだことも、それ以上にたくさんあったのかもしれません。