【ゾンデ】
「科学冒険エッセーか、妄想の世界か。も」
西区 戸髙 憲二
1、2年前、「医報」には実業の分野で、極めて厳しい話をしました。ので、今回は 珍しい趣味の世界を味わっていただこうかと。宜しければ楽しんで下さい。
内科医誌では、準連載的になってるのですが、知的、脳細胞が擽クスグられる、小生流の語りです。
初冬のある日、我がクリニックの行きつけのファミレスで、ランチセット(昼定食だわな)を頼んだあと。珍しいことに定番の本を開く気力も無いほどに、インフルエンザ・ワクチンや、慢性の咳の対応に疲れたアタマを休めようとしてたのか、ボーっと青空を眺めていたら。雲量2~3の中層の(暗敗色の低層でもなく、透けるような高層でもない)、が西からではなく、北から、つまり博多湾・玄海灘の方から、南の背振り山系に向け、結構な速さで移動してるのが目にとまった。
「ああぁー、明日は、北のシベリア寒気団の降りてきて、寒くなるなー。」
と、思ってたら、ランチがテーブルへ運ばれてきた。ウェイトレスの方が気さくに口を利いてくれるので、「明日は、冷え込むから今日寝るときに備えておくように。」と講釈付きで語ったら、信じてくれました。かつ、小生の「雑学(彼女には)って役に立つんですね。」だそうです。過日、結果が的中だったので、お褒めに預かりし。かな。
ってのが触りです。この知識は、ごく最近手に入れました。10代の半ばから疑問だったくせに、そのまんまで調べもせずにいたのが、「高気圧はどうやって出来るのか?」
です。「Newton」の別冊に気象の特集があったので、夏に買っちゃいました。何のことはない、暖かい海面の上昇気流による低気圧はとっくに理解してたのに、何故か大陸の冷気がための下降気流を成す高気圧の発生母体を知らなかっただけなのです。
何のブロックが我が脳みそにあったやら不思議です。ともあれ、ついでに予報士もどきの雲を診る習慣がついてしまったわけです。その副産物が、簡易の気象予報です。
ブロックしてたのは多分、夏の太平洋高気圧でしょうや。中国南西部の大陸性高気圧とかオホーツク高気圧はいかにも冷えてそうで、簡単だったのですが、太平洋の暖かい海は上昇気流しか連想できなくて。でもって、読み進んでたら分かりました。地球規模で考えないといけないらしく、赤道付近の低い緯度ではその南北に上昇気流で低気圧ができますが、その上空で冷やされた分の大気が中緯度で降りてくる。それが日本の南の小笠原あたりの高気圧。や~っと解せました。閑話休題。
ココから、ジェット・コースター的文脈が始まります。半端じゃありません。お覚悟を。
【副題:核酸(RNA/DNA)とATPが何故?】
ここ1年、小生の興味は、生化学の中でも分子レベルの生命の起源と、代謝です。
「レニンジャー」や「ハーパー」が全盛期の頃に医学生時代を過ごした世代です。
ハーパーの方が肌に合ったらしく、訳本の後に、半額だった(貧しさもそこそこ)為もあって原書も買って読みふけったのが、早、25年前になりました。「4半世紀」という言葉が好きです。皆さんも世代こそ違え、生化学の不思議、解明の喜び味わった日々あったと存じます。懐かしんでもらいたくて一筆。
生化学で絶対避けて通れなかった有機物。【ヌクレオチド】(ヌクレオシド+リン酸塩)
4種類、正確には5種類。5員環の糖であるリボースに以下の各塩基+リン酸塩
A・G・C・T・(U):アデニン、グアニン、シトシン、チミン、(ウラシル)
前の2つA・Gは5+6員環プリンで、あとC・T・Uは6員環ピリミジン。
もう一つの見方では、A⇔T、G⇔C、(A⇔U)
そう、リボースがデオキシされると何故か安定するらしく真核細胞の根っ子のDNAのモノマー(素材:ユニット)だし、酸素1ヶをつけたままだとRNAのモノマーとして存在。
プリンにからんで、生物学的小話。プリンてのは哺乳類の大部分が、尿酸を通り越してアラントインまで代謝できるので、水溶性が高く結石やら通風発作で困らない。
のに霊長類と鳥類(≒爬虫類も)だけは尿酸までで止まっちまうので、きつい。何故?
元に戻して、DNAは二重らせんの美しさはスキだが、個人的にはあんまり興味がない。あの不安定なRNAの方こそが、ここ数十年も、たんぱく質と対極で、生命の起源の物質の座を争う議論の的だった。そう、DNAは生命の起源には存在感が薄いか、存在が無かった。RNA⇔たんぱく質の何れが、その複製を作り得たか。つまり、生命の二本柱、複製と代謝をどちらが先に担えたかにある。こればかりは化石型の考古学は苦手なジャンルで、生化学的、再現実験や分析化学に首座がある。
35年程前、高校の生物か化学かで【リボソーム】という細胞小器官を教わったころ、気付かなかった、その器管は何で出来てるかを教えてくれないことを。抜かったわい。
そう、まだ解明されてなかったからだ。
数ヶ月前、趣味の丸善の書店内めぐりをしてて、見つけた。何と答えが、そこに。
RNAとたんぱく質の議論に終止符を打つかもしれない大発見が最近の数年に幾つもあったらしい。すごい。もともとRNAには馴染みの深いmRNA(メッセンジャー)、
tRNA(トランスファー)の他に、snRNA(核内低分子)とrRNA(リボソーム)があった。
mRNAは分かりやすい奴の代表で、核内でDNAから転写されたダラ長いひもで、そのままだと使えず、snRNAがスプライシングという切断作業をして、いろんな仕掛けで継ぎなおして、スッキリした状態で翻訳の原本化する(プロセッシング)。
そこんところにtRNAが1対1でアミノ酸を持ってきて、コドン(翻訳の最少単位:3塩基分、例:AGA=アルギニン)ごとにつないでいって、巨大なたんぱく分子を作る。あとは弱電気や水和性によって、ぐしゃぐしゃと三次元構造の酵素などが出来上がる。
と、これまでは、rRNAはmRNAと同じぐらいデカイのに、寿命ははるかに長い、けれどやはり触媒はたんぱく質でしょう。と皆さがす探す、が、その役目のたんぱく質も、何千もあるmRNAから元の方も見つからない。
出たー!(マスダオカダ風)。アメリカのある院生が教授と大喧嘩した挙句、とある物質で「リボヌクレアーゼP」という酵素の分析に成功した。プロセッシングで成熟した
tRNAを造るのだが、そいつ自身が、何とRNAのみで自分をスプライシングして立体構造を作り酵素としての機能を持つ。ものすごい発見だった。生化学の常識やぶりの第一号となり、その後、リボソームそのものの複雑なRNAすべてが解析されたところ、こいつもセルフスプライシング後に立体構造を成し、件クダンのしごとを。mRNAのコドンごとにtRNAを呼び込んで、チャックを合せるようにアミノ酸をつなげていく。
名付けて【リボザイム】=リボソーム+エンザイム。
これは、強い。ずーっと触媒・酵素はたんぱく質しかしない(金属もある)と思われ、独壇場だったために、起源はたんぱく質が圧倒的に強かった。が、RNAが同じ仕事ができるなら、こいつは遺伝(準複製)も元々からできるので、原初の生命有機物としての地位がとても近づいてきてると思う。大々発見。凄い感動でした。
ここまでで、だいぶ小生の趣味というかマニアックな面伝わったかと存じますが、
もう一つ、【ATP】=生命のエネルギー通貨。こいつへの興味は未だ尽きません。
「内科医誌」に最近投稿しましたが、「ミトコンドリア」が本来生物毒性の高い酸素分子を、逆手にとって効率の良いエネルギー産生をするときにATPが深くかかわる。そのミトコンドリアの存在が、真核細胞内での共生の要で、もともと嫌気性だった宿主が受け入れた別のバクテリアとほぼ実証されている。多細胞生物の多様性・繁栄の爆発の原動力だと感じる。裏付けで分かりやすいのは、コドンの翻訳が一部異なること。核内遺伝子では、AGAはアルギニンと翻訳されるが、ミトコンドリア内では終了コドンに成ってしまう。えらいことで、蛋白合成がそこで終わってしまう。元が違う証し。他に、受け入れた、証明としては、核内にミトコンドリアのためメンブランの遺伝子を持ってあげて、代替わりに蛋白を作ってるらしく、なんとなんとミトコンやろうは自分では作らない・作れない。やっぱ、腐れ縁でしょう。切っても切れない「友情」か「連れあい」か。
ATPはエネルギー代謝で、糖類(特にブドウ糖)から取り出すとき、解糖系、TCA回路、電子伝達系の三段階のうしろ二段でミトコンドリアが高エネルギーを取り出し換金する物質の本体。ATPの数にして、2個、2個、32個で、酸素なしの場合は(発酵)一番前の2個しか取り出せないので、活きてるのがやっと。因みに、脳が5分で厳しい状態に追い込まれるのは、神経細胞が、細胞内カリウムを能動輸送で多量にキープして機能しなければならないためで、ATPの需要がけた違いだから。
飛びました。おさらいで、解糖系はブドウ糖1ケからピルビン酸2個を生成して、TCA回路(トリカルボン酸⇒クエン酸/クレブス回路)を2回転させる。ここでのATPこそ少ないものの、多量に生じた水素をNADHやFADHに蓄え、次の電子伝達系(呼吸鎖⇒小生の科?)でATPに変換するのが大金ザクザクの仕事です。
; NADH:ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチドの還元型 cf.ナイアシン
FADH:フラビン ・アデニン・ジヌクレオチドの還元型 cf.ビタミンB2
こんな大事なものを多細胞生物は生成を放棄した。その生命や危うし。
そこで、小生の命題です。何でATP(アデノシン三リン酸)なのか、【通貨】が。
ADP(2)もcAMP(サイクリック:1)もなじみが深すぎて、数十年も疑問にも思わなかったが、生命は意外な節約をしてて、核酸のモノマーとほぼ同じものが、つまり遺伝と、対の代謝で主役となるものが共通のパーツを使ってるのです。
アデノシンというのは、単にリボース(糖)にアデニン(塩基)が結合した部分の呼び名で、それに1つリン酸がつくと、あのRNA:リボ・ヌクレイック・アシッドではないか・・・。
じゃあ、ほかのG・C・T・Uもあるはず。たしかにあったが、役割は軽いは、本流ではなさそう。GTPやGDPはちょっと記憶にある。そうそう、【GDP】は、国内総生産(ドメスティック・プロダクト)←GNP国民(ナショナル)改め。総理が佐藤栄作だったかの頃は、防衛費がGNP比1、2%で国会で議論が白熱していたはず。それがいつのまにか、予算は他のものもGDP比(GNP比)で語られる機会を与えられない今日コンニチ。
何かおかしい、何かがある。そう、医療費は何故30兆の絶対値で語られなければならないのか?GDP比で考えるべきでしょう、生産力のある国の医療は、その活力の維持に対価を必要とする。土俵を政府筋に乗せれちまってる気がするのは私だけ?
バリはずれました。柄にもない。で、ATPは、細胞内外の能動輸送、筋肉の収縮、同化(糖新生、蛋白合成、脂肪生成) のエネルギー源などなど、重要かつ不可欠。NADHやFADHまでもがアデニンがらみだ。
何でか分からず、まだ探しつづけてますが、どんな正書も、一般向けの読みやすい奴も、当然のように飛ばされてしまって、ATPが何故有益だったのか、少なくとも今の多細胞生物がどんなきっかけでそれをメインにしたのか。とても知りたい。
ま、今回すごい尻切れトンボですが、こんな事をやってるから暇つぶせるし、楽しいのかもと、思う日々なり。お粗末さまでした・・・。
今朝は外を歩けば、はく息が白くなる2℃の気温(7、8℃以下での現象)。冬来たる。
東アフリカに生をえた現生人類にはつらい季節ですね。病みもふえる、医師の皆様には働きすぎに気をつけていただきたく。あっ、無理か!今の状勢じゃーネ。てかっ。
2007.12