【長引く咳】 最近の実情 | todakaclのブログ

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呼吸器内科開業医(救急救命15年/呼吸器40年)
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【長引く咳】 最近の実情

2006-11-23 23:57:54 | 健康・病気

キーワード:咳喘息、アトピー咳
       後鼻漏、逆流性食道炎由来、
       副鼻腔・気管支症候群、慢性気管支炎、DPB

アクセス解析を眺めてると、最近「長引く咳」を検索ワードにして、Google、Yahoo、msnあたりの検索エンジンで、当ブログにたどり着いてる方が多いようです。以前書いた分で不足してたことを改めて補完します。どうすれば、今の困った状況を解決できるのか、実践的なことに絞り込んで語ります。

先月、「咳嗽に関するガイドライン」の作成委員の一人だった長崎大学の先生の講演会にいった際に良いヒントをもらったのでお披露目。ここ数年、長引く咳の治療に関して混乱があり、不必要な回り道になる治療が、ココ福岡でももてはやされたり、全国版でも、ネットから見てると同様の傾向があったのが、何故なのか分かったような気がします。

カラ咳が、長引く咳の大部分です。空気だけ出て、咳込みが苦しいもの。痰が絡んでる感じがあり訴えてるのではあるが、殆ど、痰の姿をティッシュに採って観れることがない。この辺りを乾性咳嗽・乾いた咳といい、湿性のものと区別して扱います。頻度からすれば【咳喘息】、【アトピー咳】が分かってれば殆どが対応可能です。

診療の原則は、何科であろうとも、頻度の高いものから考え、診察・検査で見極めます。例外的に、頻度が少なくとも、重大な病気は、必ず見落とさないように慎重に並行して検討します。今回ならば、肺ガンや肺結核、マイコプラズマ肺炎などがそうですが、1ヶ月咳が続いてるときにレントゲンを撮る事で防ぐ手立ての第一歩になります。それを、使用としない医師は危ういタイプだと思ってください。1ヶ月目のレントゲンを撮らなかったが故に結核の発見が遅れた時は、ドクターズ・ディレイ(医師による遅れ)といって恥しいことです。数十年前から警告として言いつづけられてるワードです。因みに、患者さんの受診が遅くなることによるものを、ペイシャント・ディレイ。
マイコは症状によりもっと早い段階でレントゲンを撮る方が良いようです。2週以内。数日目もあり。この秋はやってることもあり、周りに患者がいたならば。
肺ガンは、必ずしもレントゲンだけでは見極めきれないので、治療に対しての反応、症状の改善が悪ければ、CTや気管支ファイバー、喀痰の検査(吸入したりして採ったり、起抜けの早朝痰)を追加します。

で、講演会で語られたことは、アメリカの頻度と本邦の頻度の違いです。
アメリカでは、なんと後鼻漏、アトピー咳、逆流性食道炎関連が多く、咳喘息が少ない。日本では、咳喘息が多く、アトピー咳が二番手、他が若干。小生の印象的には8、9割と2、3割。
この辺で、日本の医学者、臨床医の弱点が露呈してて、アメリカの文献をそのまま無見識に使ってしまったのが混乱の始まりだったようです。日本の文献を見てない。人種差というのは、業界では様々な背景で公の場で語ることは原則タブーになってます。が、厳にその存在はあるわけで、科学者として行動する時には、必ず考慮すべきことです。タブーだからと思考の場から追いやっては科学者らしからぬ非論理的な姿勢でしょう。
疾患によっては殆ど差のないものから、東洋・西洋だけではなく、香港、韓国、日本でさえも差のあるものがあります。DPB(びまん性汎細気管支炎)がマイナーなのもその辺りからです。

この検討なしの移入をやると、後鼻漏、逆食なんていう少数派がまかり通って、大事な多数派の咳喘息、アトピー咳の鑑別もしないまま無意味に、マクロライド長期や、PPI(パリエット、タケプロンなど)で無駄で、下手をすれば有害な治療が、声高らかに語られてたようです。残念なことです。明らかな鼻炎の存在、胸やけの自覚(高齢者は例外)なしの診断はおかしい。得意分野に持ち込もうと、無理に患者さんに押し付けてる。患者さんも何となく解せないはずです。この手の先生は、1つに飛びつきすぎて、その間に無視した疾患の治療をしてれば、早く、効率よく、コストもかからずに治せた患者さんの不利益を招いてることに気付かないのです。狭量なのは臨床医としては罪かと存じます。始めっからこの診断しか語らない先生に出会ったら、要注意ですよ、皆さん。未だに存在してると。

【本題】
「咳嗽に関するガイドライン」の詳細は、また次の機会に載せますが、治療的な診断(大事な手法)の典型がここにあるので紹介しておきます。
乾性の咳ならば、頻度から、まず、咳喘息を考え、気管支拡張剤(β-2刺激剤、テオフィリン)から使います。本来咳止めとして直接的でないこのクスリが効いてしまうのが、この疾患の特徴です。気管支の平滑筋の緊張が緩むこと、粘液の分泌が整うこと、粘膜の浮腫が和らぐことの全てが絡まって、結果として、気道が落ち着き咳が減るのです。これが、長引く乾いた咳の治療のスタートの骨格・根幹です。これに吸入ステロイド、抗ロイコトリエン剤、去痰剤、ある種の漢方、強力すぎない咳止め(麻薬性の中枢性は困る)を追加していきます。

好酸球(血液中や喀痰中)の増加は参考になります。ピーク・フローや肺機能は、本家の喘息と違ってあまり有用ではありません。何セ、呼吸困難がないのが咳喘息を本家・典型の喘息と鑑別する根拠なんですから。この検査やCTを自動的にしてる院所は疑問です。病歴と、治療上の反応による診断が、この咳の効率の良い診断を得ます。

この拡張剤の治療に反応が悪い時は、次のステップとしてアトピー咳を考えてゆきます。
俗に言う抗アレルギー剤、正式には第2世代抗ヒスタミン剤を使ってみます。血液のIgE(「非特異的」・「総」のみで充分)の増加があれば、なお反応に期待が持てます。この段階で、あれよあれよと楽になっていくのが、この病気の特徴です。良いところは、咳喘息と違って、何度も繰り返し起きないことです。単発の病気なのです。その意味では風邪と同様。
咳喘息は、気道(鼻~気管支の抹消)が敏感(「過敏」)になって起きるという点では喘息の前徴状態(亜型。//軽症とは言わない。←呼吸困難がないから。)と診てよく、気道が敏感な体質が顔を出したとみるべきで、その後も何度か同様の咳発作を経験することが多いものです。ある種慢性疾患のタイプで、一時的な悪化が咳発作の時期と見る。
データがまだ5年分なので、信頼度が高くないのですが、3、4割が喘息そのものに移行するというスタディー・調査があります。それを根拠に、継続した治療が望まれてるという主張が多いようです。ただ、小生はこれには疑問です。当院では、5%の印象ですから。徐々に確度の高いデータが出てくるでしょうから、待ちましょう。振り回されないで下さい。杞憂かも知れませんよ。心配は病状に悪影響をもたらしやすいので。
数年間で、全く消失することがあるのも本家の喘息とは異なってます。因みに、喘息そのものも、最近は寛解(発作が長い間出ない)が得られやすくなったらしい。この辺は吸入ステロイドの貢献度が大きいかも。

吸入ステロイドは、咳喘息、アトピー咳の両方に有効だという性格があるので、始めっから使われると今一です。効くのはいいけどどっちか分からなくなり、将来の予後をアドバイスできなくなるデメリットが。喘息本家がガイドラインで吸入ステロイドを第一選択にしてるので、そのガイドラインからの流用の感があります。
こっちは公開されてて、どの科の先生でも目を通し安いのですが、咳嗽のガイドラインは今のところ、呼吸器学会の直販なもので、この捩れになったのでは、というのは小生の考えすぎでしょうか。
気管支拡張剤は、吸入ステロイドに比べ癖のある薬剤(個人差が大きく、動悸、手の震え、吐き気、落ち着かないなどの副作用が人によって生じる)なので、医師としては使いづらさがあるのは、呼吸器科医の小生は重々承知の上ですが、こちらから使うべきです。苦手なら、自分でやろうとせず、専門家に回すべきでしょう。拡張剤の量を充分に、用法・服用のタイミングなど、使用経験に充分な自負のある医師の手で行わないと、誤って、拡張剤が少なすぎるだけなのに、アトピー咳の方に舵を切る間違いも起きやすい。

「感染後咳嗽」という病名の存在。拡張剤、ヒスタミン剤、吸入ステロイドの必要な量を使っても、なお続くとき、致しかたなくこの病名。上の2疾患を充分に見極めたという実績の根拠が要ります。医師としては苦渋の診断です。一度は大学病院の専門性の高さをフィルターにすべきでしょう。この病名は町医者に、気楽に使って欲しくないです。

【受診時のポイント】
少しゴチャゴチャとした展開になってしまいましたが、要は、1ヶ月もたつのにレントゲンを撮らない(重大な病気に対する認識不足)。いきなり吸入ステロイドから入る(喘息の流用、不勉強をごまかす)。症状を丁寧に聞かない。聴診器を当てて音がないから、病気がないと言い切ってしまう。2度目に効果がないことを訴えても、殆どクスリが変わらない。この方針でこう変更すると言う説明が、きちんとされない。強い咳止めにこだわる。漢方で引っ張る、何週間も。(この病気の性質を知らない、病気そのものを知らない。患者さんに親身になってない)
という先生に当たったら、要注意です。穏やかに、しっかりとこちらから要求をするか、怒ったり,無視したり、上手に逃げ口上があったら、見切り時です。今ドキの時代、たった一人の人間に、自分の病気を任せるのは損です。
因みに、専門医、認定医の肩書きは、案外外れるので、過大に期待しないほうが良い。というのが、従前からの小生の主張です。現場での治療経験を裏付けてませんので。
喘息のベテランなどに良い先生が多いのは、気管支拡張剤が1900年当初からの、大事な喘息治療薬だったので、現場で数多く使ってた経験が根拠です。十年以前の喘息治療で医師もノタ打ち回ってた時代から、使ってれば、量をどこまでつかえるか、どんな服作用が出て、その対応はとか。素人の患者さんでも、その自信に裏付けられた言動を体感できるはずです。その辺の目で選びましょう。
乾性の咳をみたら、病状(夜間・早朝に多いのが多数派、日中型も少なくはない)をきちんと聴いてくれて、咳喘息、アトピー咳の可能性を語り、治療方針、要する期間の見込み辺りを説明してくれる先生が見識ありでしょう。次の受診の時も2nd、3rdステップの治療を提供してくれるはずです。この疾患は、治療的診断の典型なので。

たまに、持っての他なのは、内服のステロイド(プレドニン、リンデロン、セレスタミン)を説明もなく。これは、吸入を出す先生の志とまた違って、悪質。量や、タイミングによりますが、吸入が発達した背景を無視してる。治すけど、鑑別もせず、将来の患者さんへの影響の配慮がなく、医師としての評判の我が身かわいさがプンプン臭います。性質タチが悪い。近寄らないように。
悲しいことに、患者さんが、他を頼った時に、プロの目が見てしまうので、その処方で医師同士での格が下がってしまうのが予測できてない。

【付録】
湿性の咳では、副鼻腔・気管支症候群(気管支拡張症を含む)がガイドラインにある最初の疾患です。痰がきちんと喀出されるならば、鑑別はこちらの枝の方に入ります。小生の臨床での実践では、慢性気管支炎、DPB(びまん性汎細気管支炎)も検討します。
この辺りは、専門性が高いので、呼吸器科医に始めっから頼るのが良いと思います。ありふれた、気管支炎、市中肺炎であれば内科もありですが。

そうそう、クラミジア肺炎をまるでマイコプラズマ肺炎のように扱う医師がいるようですが、あれは、普通の市中肺炎のレントゲン像を呈しますので、影がないのに、血液の抗体検査しましょうとか宣うのは最低です。影なしのクラミジア肺炎はありえませんので、悪しからず。マイコだって、特有の影(異型肺炎の代表格)があって、初めて診断の根拠になるのです。おかしな話です。
咳や痰の症状があったとき、写真に影があれば肺炎、なければ気管支炎・その他が原則で、これは、呼吸器科学始まって以来歴史的に変わっていません。もちろん、肺炎以外の特有な病状の影の見方が、読影の基礎であることは断っておきますが.。
ユメユメ、きれいなレントゲンを見せられながら、肺炎なんて診断を語られないで下さい。

ややため息、はぁ~。
咳で困ってる方を助けるためとはいえ、同業者の選別基準のお披露目になってしまった。悲しいものがあります。この病気が、まだ広く知られてないために、無視したり、生兵法で患者さんを追い込んでる現実が、避けて通れないので、語らざるを得ません。
その上、確信犯的な、評判・売上優先の悪しき方針も見え隠れします。一概に、医師個人を責めるのでもなく、出来高性の、今の医療保険が、腕の良い医師ほど費用が掛からない代わりに、売上も下がってしまうという、矛盾も背景にはあります。ただ、だからといって、医師の側の生活のために、患者さんの費用を無意味な検査で増したり、病気を長引かせたり、治すのは良いが、無理な内服ステロイドのように後々禍根を残す治療を平気でやられては困る。
同業者たちに、技術の向上と、モラルの維持を望んではいますが、一介の開業医のたわごとでしかなく(医師会でも、学会でもヒラ)、当面はつぶやき・ぼやきレベルです。
代わりに、皆さんのほうに、少しでも賢く、医師を選ぶ目を養って欲しくて、今回は書きました。たまには、主治医に要望を出すことが、医師の成長にもつながることがあるかもしれませんが、聞き入れてくれるのなら大当たり。そんなことはやや期待薄。
さっさと良さげな医師を探しましょ。トライ&エラーは覚悟の上で。ホームの掲示板と同じいつもの語りでした。
3時間強かな。