鹿野 佐代子:著 翔泳社 定価1600円 + 税(2022.10)
私のお薦め度:★★★★☆
育てる会も発足してから25年、当時は幼かった我が子たちも成人して地域で暮らし始めました。
育てる会にはその後入られた若いお母さんたちも多いですが、成人した子を持つ親たちの一番の関心事は、やはり「親亡きあと」でしょうか。
「うちには障がいのある子がいます。子どもが将来も安心して暮らすためには、お金をいくら残しておけばいいですか?」という質問をよくいただきます。
ほとんどの親御さんが、一度は考えたことがあるのではないでしょうか。 (「はじめに」より)
そうですね。親なきあと、我が子がその後の人生を安心して、豊かに暮らしていくためには、親が元気なうちに、どのような準備をしておけばよいのでしょう。
本書は、支援者として、またファイナンシャルプランナーとして、その疑問に応えてくれるノウハウの詰まった本だと思います。筆者の鹿野佐代子氏は親ではありませんが、ある意味親以上に、冷静な視点から子どもたちの人生を最優先に考えてくれています。
本書を読めば、親が漠然と不安に感じていること、中でもお金に関することの80%ぐらいは解決してくれる・・・そんな1冊でした。
「親亡きあと」がいよいよ現実味を帯びてくるのが、親が80代、子が50代あたりではないかと思います。では、そのときまでに障がいのある子にいくら残せたら、みなさんは安心できるでしようか?
① 200万円 ② 500万円 ③ 2,000万円以上
成人した子がいる親御さんを対象にした講演でこの質問をすると、①~③それぞれに手が挙がります。
「子が一般就労していて本人名義の預貯金がそこそこあるので、200万円あれば十分」という人もいれば、「2,000万円以上ないと不安」という人もいます。安心感は人それぞれということです。
だから、誰にでも当てはまる正解の金額などもありません。重要なのは、なぜその金額が必要かという根拠です。根拠が明確でないと、いくら貯めても将来への不安が消えません。
使途を明確にした上で老後資金を考えると、親が子のためにやみくもに貯蓄に励むことなく、現在の生活を豊かにすることができるはずです。そのためにも、「本人のお金でどこまで生活できるのか?」を把握しておくことが大事です。「親亡きあとの子の暮らし」を具体的に想像しながら、子の老後資金を考えてみましょう。
そこで筆者が提案されているのが、子どもが50歳になったときの状態を想定してみることです。
子どもが成人して働きだしたとすると、50歳ぐらいまでの生活の様子は、まずまず想像できるのではないでしょうか。一般就労、A型、B型、生活介護など、働き方はいろいろですが、まだ親も子も元気なケースが多いと思います。でも、子どもの体力が落ちはじめる50歳ぐらいで、それまでの生活が維持できなくなったとして、それから85歳ぐらいまでの、「老後生活」にかかる収支を計算してみることになります。
ファイナンシャルプランナーとしての腕の見せ所ですね。
本書にも、例としていろんなケースが載っていますが、リタイア後の年金等の収入と生活費を、年数を考慮して計算して、もし不足が出るようなら、それまでに貯蓄を積み増ししたり、それこそ親からの遺産相続を充てれば安心という訳です。
また、セーフーティーネットや、障害をもつ人が利用できる各種制度も網羅されていますので、参考にしていただければと思います。
中には、私の知らなかったものもありました。例えば「障がい者扶養共済制度」、保護者が毎月掛金を納めておけば、親が死亡または高度障害になったときは、子どもに一定額の年金を一生涯支給してくれるそうです。もちろん、子どもが早く亡くなればそれまでですが、長く生きれば生きるほどもらえる年金も増えるわけで安心です。・・・ただし、加入時に親の年齢が65歳未満の条件があるそうなので、残念ながら私はもう入れませんが・・・
また、一般就労して厚生年金に加入していれば、65歳からは障害基礎年金に“上乗せして”、老齢厚生年金がもらえるそうです。ですが、これを併給するには「年金受給選択申出書」なるものの提出が必要になるそうです。その頃は、おそらくもう「親亡きあと」でしょうから、支援者の方へしっかり引き継いでおかなければいけませんね。
他にも、すでにいろんな制度が用意され、またこれからも新しい制度が出来てくると思いますので、「親亡き後にいくら残すか」よりも、各種制度をうまく使ったり、残したお金を確実に子どもに渡してくれる「支援
者を確保しておくこと」の方が大切なようです。
最後に、これもよく話題にあがる成年後見制度についても触れておきたいと思います。
障がいのある人のためにつくられた制度でも、それが必要な人もいれば、まったく必要としない人もいます。そして、必ず利用しなければならないわけでもありません。
実際に、筆者が現役で支援をしていたときに、「この方には成年後見制度の申立てが必要だ」と思う場面は一度もありませんでした。なぜなら、他にも対策や方法があるからです。
どちらかというと、「後見人がついたことで、本人のためにしてあげたいことがあっても、家族の意見が通りにくくなり後悔している」という話を聞くことのほうが多いのです。中には、親子の絆までもが判決によって割かれてしまう例もありました。
そして、成年後見制度を使わないで目的を果たす方法が、具体的に列挙されています。
「本人に生活費を定期的に渡したい」、「本人に代わって預貯金や現金の管理をする」、「親名義の不動産を処分する」、「遺産分割をする」、「見守りなどの身上監護をする」、「施設の利用にあたって『後見人が必要』と言われた」・・・・どれも、成年後見制度を使わなくてもやりようがあるそうです。
なにしろ、一度後見人をつければ生涯取り消しはできないので、慎重に判断することが求められますね。後見人をつけないでも乗り切れる方法については、詳しくは本書をお読みください。
そしてなにより大事なのは、成年後見人の指図より、本人の意思表示を大切にすること。
そのために役立つ方法としてPECS®、中でもタブレットを使って自発的な親子のやりとりを行なっている中谷正恵さん母子の紹介などもされています。
重度の知的障がいのある人のほとんどは、老後の生活を福祉にゆだねることになります。
自宅から施設に移ると、それまでのやり方が通用しない場面も多々あります。親子で長年取り組んできたことが、生かされない場合もあるかもしれません。
PECS®のようなツールの利用も、施設に移行したタイミングで途絶えてしまう可能性もあります。
それは、言語理解が困難な人にとって、コミュニケーションや共感の機会が極端に減ることにつながります。
そのようなことがないよう、今後、支援の現場にもさまざまなテクノロジーが導入されていくことを期待しつつ、重い障がいがある人の自発性を伸ばす取り組みを進めるために、支援者自身も使いこなせるように事業所内で学ぶ仕組みが増えることを願います。
(「育てる会会報 297号」(2023.1)より)
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目次
はじめに
1章 50歳になった子を想像してみよう
いくら残したら安心できますか?
お金を貯めるなら使う目的を明確に
子が50歳でリタイアしたときの暮らしは?
さまざまな暮らし方で老後資金を試算
ケース1 50歳で就労継続支援B型から生活介護に移行
ケース2 一人暮らしをしている人が50歳で退職
ケース3 障がい年金の支給がなく、実家で自立して生活
ケース4 もし生活に不安のある人から相談されたら・・・・・・
2章 障がい者を支える制度を知ってから備える
お金の心配の前に、使える制度を知っておく
何層にも設けられたセーフティーネット
病気やケガをしたときは?
公的医療保険
自立支援医療制度(精神通院医療)
重度障がい者医療費助成制度
訪問看護サービス
Column 障がいのある人は保険に入りにくい?
障がいのある人がもらえるお金とは?
障がい年金
失業したとき、再就職したいときは?
まずはハローワーク(公共職業安定所)へ!
生活が苦しくなったときは?
経済的なセーフテイーネット
Column 福祉支援につながり、たくましく生きる人たち
罪を犯してしまつたら?
地域生活定着促進事業
民間のサービスにも目を向けよう!
公的サービス+民間サービス
家事代行サービス
Column 民間サービスを併用して食生活を充実
公的サービス以外の障がい者就労支援
中小企業家同友会(同友会)の取り組み
同友会に所属する企業の取り組み例
障がいのある人の65歳以降の生活とは?
65歳になると対象となる法律が変わる?
障がい福祉と介護保険のサービスは似て非なるもの?
介護保険サービス施設の特徴
よい施設に巡り合うためには
親の相談ができる窓口も活用しよう
高齢の親は「自分」の心配も
地域包括支援センター
相談や見守り機能が期待できる身近な組織
社会福祉協議会
民生委員
民間企業
支援者への不満を感じたときは?
「残念な支援者」に当たつてしまった・・・・・・
「支援の質」のためにも、不満は言ったほうがいい
「不満」は改まった場で話すと「意見」に変わる
支援者は「不満を抱かせないやり取り」を心がける
支援者が押さえておきたいコミュニケーションのポイント
Column ある親の嘆き「機転がきかない」
3章 移り変わる暮らしに合わせて備えを見直そう
親元を離れてグループホームヘ
さまざまな金銭管理サービス
グループホームに入らないという選択 ①
障がいのある息子よりも親の今後のほうが心配?
もっと先の将来は?
グループホームに入らないという選択 ②
福祉サービスの金銭管理を頼らず自己管理
生命保険と共済で老後資金対策
Column 一生分のお金を封筒に小分けして相続
障がいのある子にどうやってお金を残すか?
障がい者扶養共済制度(しようがい共済)
Column 結婚して支え合う暮らしもある
4章 残したお金を子が使うために必要なこと
「お金を残せば安心」ではない
お金があるのに使えない? 使わない?
第三者による金銭管理サービスを利用する場合
サービスに任せきりにはしない
お金を使う(使わせる)ことへの心理的抵抗
お金が貸金庫で眠っている?
預かつていた通帳をお返しします
生活費以外の「お金の引き出し」を希望すると・・・・・・
残したお金を使ってもらうためにやっておくこと
支援者が「お金を使う判断」をしやすくする
本人の「やりたいこと」を見つけるには?
お金を託すときは「使い道」という名札をつける
家族や親族が金銭管理をする場合
家族が金銭管理をするときの注意点
子が自分でお金を管理する場合
大人になってからも、お金トレーニングはできる
子ども時代のやり方が大人になっても続いていないか?
Column お金は持たせて使わせる
Column 就労継続支援の工賃は本人管理させやすぃ
大人になってからのお金トレーニング
「現金が目の前から消える」のが嫌な佑美さん
ケース1 銀行にお金を預けると安心
ケース2 ATMの使い方を覚えよう
ケース3 予算を立ててお買い物(練習編)
ケース4 予算を立ててお買い物(実践編)
Column 小さな積み重ねが成長につながる(佑美さんの母・美恵さんの感想)
本人が意思表示できると支援はよリスムーズに
障がいのある人に自己決定権はありますか?
障がいの重い子が意思表示できる取り組み
自発的なやり取りを増やすPECSⓇ
自発的なやり取りが可能になることの重要性
「成年後見制度を利用してください」と言われたら?
予備知識がないまま利用するのは禁物
「障がいがある」の程度はさまざま
制度を利用している家庭の話も判断の参考に
成年後見制度以外の方法を考えてみよう
本当に後見人等をつけないと目的を果たせないのか?
Column 法定後見と任意後見
5章 親自身の老後と親が亡くなったあとの手続き
一人暮らしの親(あなた)に頼れる身内がいない場合
一人暮らしで「もしも」が起きたら?
一人暮らしで親(あなた)が亡くなったら?
死後のことを頼める人がいない場合は死後事務委任契約
相続以外の死後の事務処理を頼める
冠婚葬祭互助会に加入している場合
Column 障がいのある子が施設やグループホームで亡くなったら?
親自身に「もしも」のことがあったとき
悲しみの中で怒涛のように押し寄せる手続き
「縁起の悪い話」は楽しく導入する
臨終~葬儀・法要
死後のことを頼める親族がいるならば
臨終のとき
葬儀はどうするか?
「遺影不要」「式は質素に」では家族が困る?
遺骨はどうする? お墓はどうする?
お墓がない、お墓の承継者がいない場合
Column 遺影は15年前の写真?
相続で必要な手続き
相続手続きの流れ
死後の手続きにかかるお金と受け取るお金
お金の支払いでもめないための対策
障がいのある子が保険金の受取人になる場合
遺言書がない場合の相続
相続人の確定―戸籍謄本は自分でそろえる
相続財産の確定―ネッ|バンキングや体眠口座に注意
相続放棄―相続の開始を知ったときから3か月以内
遺産分割協議―全員の合意が必要
子の実印を作って印鑑登録をしておく
名義変更―手続きの放置は禁物
準確定申告i・相続税
遺言書がある場合の相続
遺言書はなるべく作成しておこう
遺言書の種類
遺言執行者を決めておく
遺言書は「遺留分」への注意も
遺言書の有無は必ず伝えておく
生前整理・遺品整理をしておこう
遺品整理の手順
家族でやるか? 業者に依頼するか?
生前整理のすすめ
捨てられない思い出の品はどうする?
エンディングノートは買ったけれど
今すぐできる3つの終活
エンディングノートを書くコツ
Column 「きょうだい」たちの想い
おわりに