発達障害のある子どもができることを伸ばす! 思春期編 | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

杉山 登志郎・辻井 正次:監修  アスペ・エルデの会:協力  日東書院  定価:1300円+税 (2013.9)

 

        私のお薦め度:★★★★☆

自閉スペクトラム症を育ててきたお母さんたちに聞くと、「一番大変だったのは幼児期、就学前だった」と答えられる方が多いです。

母子のコミュニケーションが全くとれず、目を離すと一瞬でいなくなるぐらい多動で、排泄の習慣もつかず、果ては昼夜逆転でお母さんの睡眠不足・・・なにより、お母さん自身がどう育てていけばいいか途方に暮れるような時期ではなかったでしょうか。でも障害について学んで、うまく対処していけば、幼児期から学童期は、将来に向けてしっかり子どもの力を伸ばせる時期のような気もします。
そのあたりは、本書の姉妹編「幼児編・学童編」や、先日の安倍陽子先生のオンラインセミナー「幼児期・学齢期の支援」が参考になったと思います。

さて、自閉症児にとって次に待ち受けるのが、思春期の山です。障害のあるなしに関わらず、思春期は大変な時期ですが、発達障害を持つ子にとっては、定型発達の子ども以上にその壁は高いのかもしれません。


発達障害の子どもはもともと脳の神経伝達機能全般に弱さがあります。そのうえ、日常生活のなかで偏見や差別、いじめや激しい叱責などから傷つく体験が多く、心理的にもトラウマをうけやすい傾向にあります。

環境や対人関係などの刺激にも弱く、苦手さがありながら周囲に合わせようと無理をするためストレスが続き、受けたトラウマからの回復力も弱い。このような背景から、情緒がこじれることが多くなります。
とくに思春期になると、第二次性徴が起こり、自分の体や心の変化に戸惑い、精神的に不安定になる場合が少なくありません。

 

また、思春期は他者を意識し、自分がどんな人間なのかを感じ始める時期でもありますが、発達障害の子どもたちは、うすうす自分が周りとは違うと感じるようになり、自分はダメな人間だとか、うまくやっていけないという不安感が増していくことがあります。自分を客観視することが難しいため、自分で軌道修正できず、ネガティブな要素に固執してしまいやすい面もあります。

特に本書が重点を置いて書いているのは、この二次障害の予防と対処についてです。
自己肯定感の低下やトラウマから、うつ状態に陥ったり、手洗いや戸締まり、電気のスイッチを何度も押すような強迫性障害を引き起こすこともあります。


くり返す行動をばかばかしい、苦痛だと思いながらもやめられない場合は「強迫性障害」の可能性が。「やり過ぎると、壊れてしまうからスイッチは5回でおしまいにしようね」、と、回数を決めてカウントし、表につけていくことで、ある程度制限できる場合がある。見ていることを家族に強要する場合は専門家に相談を。

監修の杉山登志郎先生は自閉症診療の第一人者の先生ですので、本書で自閉症の障害特性に応じた家庭でできる対応を紹介紹介され、それでも家族で手に余るようでしたら、早めの専門医での認知行動療法や薬物療法を勧められています。

ただ、保護者にとっては「早め」の児童精神科への受診が難しいのも現状なのですが・・・・なにしろ初診まで、予約が1年近くかかったり、そもそも年長になると初診を受けてくれないほど、児童精神科の医師が足りないのも実情です。 

また、幼児期では身辺自立・ライフスキルトレーニングが中心ですが、学齢期からは関係性・ソーシャルスキルを身につけることが大切になってきますね。思春期の関係性は親や家族から、次第に友達や異性に移っていきます。親から離れたところでコミュニティが生まれるわけですが、発達障害の子どもには保護者からの配慮、アドバイスを忘れてはいけないでしょう。


中学生には独特のいわゆる「中学生ルール」が存在します。暗黙のルールがわかりにくい発達障害の子は混乱することも。周囲がある程度説明してあげることが必要です。

男子のグループは野球が好き、同じゲームを持っているなど、一緒に好きなことをするのが目的の集団であるのに対し、女子のグループでは「一緒にいること」自体が目的のような面があります。何をするかより、誰といるかが重要で、共通の話題、おそろいのグッズを持ち、いつも一緒に行動することで仲間であることを確かめあったりしています。
グループ同士で対立したり、発言力の強い子が弱い子を言いなりにしたり、仲がよいように見えてもグループ内でも「仲間はずし」が起こったりします。


「中学生ルール」なるものあるとすれば、コミュニケーションや社会性を苦手とする自閉症児、ことに女の子の思春期おいては、より丁寧な見守りが必要になるということですね。

一方で、本書では発達障害児の体の使い方についても触れられています。


スポーツには競争がつきもので、他者と比べて「この子はできない」という評価になりがちです。結果がはっきりとわかりやすいため、本人も否定的感情を抱きやすいものです。

スポーツは勝敗よりも自分が楽しめればよいと思いますが、自分の「不器用さ」に悩んでいる子どももいると思うので、ここでもフォローが大切ですね。

ただ、自閉症児が「球技が苦手」などは、自分の体の位置が感覚的につかめてていない、手と足の協調運動が苦手・・・などの障害の特性からある程度理解できますが、「関節の動く範囲がせまい(体がかたい)」のは何故なんでしょう?


実際に、SO(スペシャルオリンピックス)の陸上で準備運動をしていても、自閉症の子どもたち、我が子を含めて、みんな本当に体がかたいです。柔軟運動など「もっと真面目にやって!」と言いたくなるぐらい、つっかい棒があるみたいに体が前に倒せません。
本書でもその理由は書かれていませんし、すぐに生活に影響あるわけではありませんが・・・困ったものです。

育てる会でも、子どもたちの体操教室や、お母さんのためのヨガ教室(こちらは直接関係ないでしょうか 笑)も企画中というところです。

 他にも本書では、きょうだいのサポートやペアレント・トレーニング、家族のメンタルヘルスの大切さなどについても書かれています。


とくに思春期は、発達障害があろうとなかろうと、不安定になる時期ですから、子どもの行動に一喜一憂して振り回されるのではなく、ある程度鷹揚に見守る長期的な視点も必要でしょう。そのためにも親自身のメンタルを健康に保つことを心がけましょう。
子育てはこれからも続くものですから、疲れたときには無理をしてがんばりすぎないことが大切ですし、決して一人ですべてを背負うものでもありません。親も子も、家族全員が楽しく過ごせるための子育てであることを忘れずにいたいものです。


うまく思春期の山を登って、楽しく降りていくためにも本書としてお薦めします。
イラストや図なども豊富で、本人にとっても分かりやすい入門書だと思います。

 

           (「育てる会会報 275号」 (2021.3) より)

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目次

  はじめに
  登場人物紹介

第1章 発達障害をどうとらえるか

  発達障害とは
  発達障害の特性を理解する
  「障害」をどうとらえるか
  子どものタイプに気づく
    過敏性・衝動性のあるAくん
    集団行動が苦手なBさん
    不安が大きく、自己評価が低いCさん
    虐待体験があり、二次障害が見られるDくん
  どの子も身につけたいスキル/このタイプは、とくにこんなことが重要!

第2章 社会で楽しく生きるために 今、何をすべきか

  好ましくない養育のリスク
  大人から今を見ることの重要性
  家族へのメンタルヘルスが大切
  ペアレント・トレーニングによる気づき
  よりよいかかわり方を知る
  きょうだいのサポート
  相談する・支援とつながる

第3章 思春期に身につけていきたいこと

  スキルトレーニングの大前提
  生活スタイルと体のケア 食事のマナー
  生活スタイルと体のケア 身だしなみ
  生活スタイルと体のケア 整理整頓
  生活スタイルと体のケア 日常生活の快適化
  生活スタイルと体のケア 体の変化とプライベートパーツを知る
  生活スタイルと体のケア 異性との距離感
  生活スタイルと体のケア(女子編) 月経と体調を知る
  身体感覚をつかむ リラクセーションのスキル
  身体感覚をつかむ 体を動かす
  身体感覚をつかむ 視線・表情・話し方
  社会性スキル 困ったとき助けを求めるスキル
  社会性スキル やりとり・話し合いのスキル
  社会性スキル 思春期のコミュニケーション
  社会性スキル 集団のなかで適切な行動がとれる
  感情の把握とコントロール 自分の気持ちがわかる
  感情の把握とコントロール 怒りのコントロール
  感情の把握とコントロール 不安のコントロール
  学習スキル 国語・数学・英語
  学習スキル ノートのとり方・テスト勉強
  大人へ向けての基礎 自己理解とライフプランニング
  大人へ向けての基礎 犯罪被害・加害を防ぐ
  大人へ向けての基礎 余暇を充実させる

第4章 思春期のメンタルヘルスと二次障害

  二次障害の予防と対処
    気分障害
    強迫性障害
    不登校・ひきこもり
    幻覚・妄想
    解離
    摂食障害
    自傷行為
    非行・触法行為
  自己肯定感を保つ
  こだわりの調整
  衝動・不注意と感情コントロール
  フラッシュバックとトラウマ

    参考資料 発達障害に関する相談・支援機関
    参考文献