PCITから学ぶ子育て | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

加茂 登志子:著  小学館  定価:1400円 + 税 (2020.6)

 

      私のお薦め度:★★★★☆

みなさん、PCITって聞いたことがありますか? 
PECSやABA、TEACCHやAACなどいろんな略語がありますが、PCITについては初めて聞いたという方もおられるのではないでしょうか。
PCITはParennt Child Interaction Therapy の頭文字をとったもので、日本語では「親子相互交流療法」と訳され、自閉症や発達障害だけでなく、親子関係の改善に取り組むプログラムで、近年ではペアレント・トレーニングなどにも利用されていると思います。

PCITは遊戯療法(プレイセラピー)と行動療法に基づいた心理療法です。親子の相互交流を深め、その質を高めることによって、子どもの心や行動の問題、育児に悩む親(養育者)に対し、改善するように働きかけます。
「心理療法」というと身構える方もいるかもしれませんね。確かに本来は治療なので、問題行動が激しい子どもと、その子どもに対処できないと苦しむ親が対象ですが、その内容は特定の疾患に対応したものではなく、子育て全般にとても役立つものなのです。
ですからこの本は、PCITの中にちりばめられた、親が子どもにあたたかみをもってしっかり反応し、社会のルールを身につけさせるというスキルを、みなさんとシェアすることを目的としています。


ここでは「特定の疾患に対応したものではなく」と書かれていますが、本書の体験談や対処例のほとんどが、自閉スペクトラム症の子どもたちです。それだけ子育てが大変なのが自閉症の子どもたちで、どう接していいか悩んでいるのが、自閉症児の親たちなのでしょう。

日本でも子どもの注意欠陥・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(LD)などの発達障害は広く知られるようになり、現在では就学前に診断を受けて療育センターに通う子どもも増えました。
PCITは、ADHDとASDの両方に効果的に働き、子どもの行動の問題を減らし、親のストレスを下げるというエビデンスがあります。


ただ、私ぐらいの年代の者にとっては遊戯療法(プレイセラピー)と言われると、少し抵抗感を持つ方もおられるかもしれません。
その昔、遊戯療法や受容療法がもてはやされていた頃「自閉症児は好きなことを自由にさせて、そのまま受け容れてあげてください」と言われ、その結果、問題行動が抑えられなくなり、強度行動障害になってしまった人たちを見てきたからです。
自閉症児にとって何をしてもいい時間とは、何をしていいか分からない時間であり、それよりも何をすれば良いのかを、本人に分かるように伝え、環境をわかりやすくしてあげた方が、子どもたちは安心して、落ち着いて過ごせるということを学んできた経験があります。

でも安心してください。PCITのもう一つの柱は行動療法です。子どもの行動の良いところを強化し、悪いところは無視(スルー)して、良い親子関係を作っていく方法です。
評価も「ECBIセレクト10」という小テストを使って、効果を客観的に採点していきます。

そのPCITの具体的方法は、本書の表紙に「1日5分で親子関係が変わる!」「育児が楽になる」と書かれているように、まずは親子で5分間だけの「特別な時間」を設定することから始まります。
この時間は親子でプレイセラピーを行なうのですが、第1段階の「子ども指向相互交流(CDI)」の間は「子どもが親をリード」するように心がけます。
その時間に使う具体的なスキルやポイントについては、実際に本書をご覧いただきたいのですが、目次から3つの「Don'tスキル」と5つの「Doスキル」のタイトルだけ紹介します。

【Don'tスキル】①「命令しない - 提案もしない」
          ②「質問しない - 会話も子どもがリード」
          ③「批判しない - 親の意見を言わない」

【Do スキル】 ①「賞賛する - ほめる理由をあきらかに」
          ②「繰り返す - 子どもの言葉を受け止め、返す」
          ③「まねをする - 子どもの遊びについていく」
          ④「行動の説明 - 親に注目される喜びを」
          ⑤「楽しむ - はじめは演技でもOK」


どれも、よく聞くアドバイスなのですが、大切なのは各項目の棒線より後ろの部分だと思います。
たとえば「Doスキル」の ①「賞賛する」。

よくワークショップなどでも、「子どもは褒めて育てることが大切です。今日は練習でお隣同士、褒め合ってみましょう」などというロールプレイがありますが、つい第一印象や服装など、パッと見の表面的なやりとりに終わってしまいがちです。お互い少々気恥ずかしい思いをされた方もいるのではないでしょうか。
ですから、ここでも大切なのは、後半部分の「ほめる理由をあきらかに」ということですね。

家族の会話にCDIのスキルを取り入れました。
たとえば、夫が洗濯物を片付けてくれたら、それまでは「洗濯物、ありがとう」でしたが、「仕事で疲れているのに洗濯物に気づいて取り込んでくれて、きれいにたたんで片付けてくれたのね。本当にありがとう。これで明日タンスから洗ったばかりのものを簡単に取ることができるわ」まで言います。

・・・・・・・

セラピー開始から約5か月経った現在、うちの子はとても気が利く、女性に親切な、小さなジェントルマンになりました。帰宅した私が買い物の荷物を持って玄関前にいるのを家の中から確認すると、迎えに出てきて荷物を運んでくれるなど、何も言わなくても私を手伝ってくれます。

もしPCITをやる前の私のように、子どもと一緒にいるのが苦痛なほど育児に悩んでいる方は、はじめのうち「特別な時間」は全然楽しくないと思います。私もはじめのうちは行動の説明のスキルやほめるスキルも棒読みで、上手にできたとは思いません。
でも「これが、こうだから、いいね」という説明ができると、心のこもった言葉でなくても子どもは納得してくれたようです。
言葉が先で、心はあとからでも大丈夫。ぜひPCITをやってみてください。


さて、本書を読んでPCITに取り組みたくなったときどうすればいいでしょう。
本来のPCITのセッションでは、親子がプレイルームに入り、親はイヤホンで観察室にいるセラピストからコーチングを受けながら子どもに接します。セラピストはチェックすべき具体的行動の数をカウントし、一定の評価に達したら次の段階に進みます。
岡山でも県精神科医療センターなどでもPCITについての研修会は行なわれているようですが、実際にセッションを受けられるようになるのはまだまだという感じです。

この本は、家で手軽にPCITのスキルを学んで使っていただくことを目指していますが、コーチングの入ったPCITもどこかで経験していただけると、また違った良さをわかっていただけるのではないかと思います。

PCITをやっていてしみじみ感じるのは、お父さん、お母さんの言葉は子どもにとって魔法のような力を持っているということ。
普段の何気ないやり取りでそれを感じるのは難しいかもしれませんが、コーディングしながら子どもの反応を観察していると、それがすごくよくわかります。そして、子どもの反応や言葉も、親にとってとても大きなインパクトがあるのです。 (「おわりに」より) 


まずは本書を参考にして、ご家庭で取り組んでみることですね。そして「特別な時間」の様子を自分で撮影して、最初の様子から比べてみると、次第に良くなっているのが分かるそうです。それを信じてやってみましょう。

最後に一点だけ言わせていただくと、アニメキャラを使ったタイプの採点の例に使われている、『クレヨンしんちゃん』 の「野原しんのすけ」と「野原みさえ」の“母子”はいいとしても、『巨人の星』の「星飛雄馬」と「星一徹」の“父子”の例え、私ぐらいの世代でないと分からないのでは・・・(^_^;)


                         (「育てる会会報 274号」 2021.2 より)
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目次

 

    はじめに

1 はじめまして PCIT子育てでHAPPYYになるために

    私たちは子育ての岐路にいる
    PCITは親子の治療法
    「リーダーシップ」がある子育てを目指そう
    4つのペアレンティング・スタイル
    国民的アニメのペアレンティング・スタイル
    PCITは2~7歳の子育てに最適
    うつ状態の親もDV被害者の親もPCITで育児を改善
    発達障害の子もPCITで変わる
    仲良くなるとしつけが楽になる・うまくいく
  
   私が体験したPCIT① 9歳でも大きな効果が

    PCITと「アタッチメント理論」- CDIで築き直す安全基地
    PCITとスキナーの行動科学 - 「ほめる」を科学的に考える
    PCITとバンデューラの社会的学習理論 - 子どもは親の背中と社会を見て育つ
    
   コラム PCITの生い立ち

2 PCITでクレヨンしんちゃんものび太も変わる!?

    あなたは子育てのどんなところに困っていますか?
    我が子の「やんちゃ度」と親の「困り数」を数値化しよう
    アニメの親子をECBIセレクト10でチェック
    何を解決したいのかハッキリさせる
    ECBIセレクト10の中に、困っている行動がない場合
    効果をチェックしてみましょう
   
   私が体験したPCIT② 伝え方を変えただけで、感謝の言葉が言える子に

3 親子が輝く「特別な時間」

    1日5分を子どもファーストに
    あなたなら「特別な時間」を、いつ、どこで?
    「特別な時間」は親子のお薬。5分を守って
    あなたなら子どもと何で遊びますか?

  「特別な時間」のDon'tスキル
    Don'tスキル① 命令しない - 提案もしない
    Don'tスキル② 質問しない - 会話も子どもがリード
    Don'tスキル③ 批判しない - 親の意見を言わない


  「特別な時間」のDo スキル
    Do スキル ① 賞賛する - ほめる理由をあきらかに
    Do スキル ② 繰り返す - 子どもの言葉を受け止め、返す
    Do スキル ③ まねをする - 子どもの遊びについていく
    Do スキル ④ 行動の説明 - 親に注目される喜びを
    Do スキル ⑤ 楽しむ - はじめは演技でもOK

    「特別な時間」に子どもが反抗的でも批判したりご機嫌をとったりしない
    親が子どもの良くない行動に注目すると、その行動は増える
    良い行動をほめるチャンスまで我慢
    「無視できる」行動と「無視できない」行動を見分ける
    あなたの「特別な時間」を自撮りでチェック
    大人と子どもの絆を深めるプログラム「CARE」    

4 大声を出さなくても、しつけができる親に
  
    焦らずに、「特別な時間」で土台づくりを
    言うことを聞かない理由を考えてみましょう
    「特別な時間」に「言うことを聞く練習」をプラスする
    効果的な命令を出せるよう、8つのルールを覚えましょう

   効果的な命令のルール① 直接的に命令形で - ズバッと直球
   効果的な命令のルール② 肯定的な言葉で - 非定型はNG
   効果的な命令のルール③ 1回に1つ - 1つずつクリア
   効果的な命令のルール④ 具体的に - してほしいことをハッキリと
   効果的な命令のルール⑤ 発達年齢を考えて - 無理なものは無理
   効果的な命令のルール⑥ ふつうの声で - 大声は混乱のもと
   効果的な命令のルール⑦ 前後に説明 - 理由を理解させる
   効果的な命令のルール⑧ 必要なときだけに - メリハリを

    「すぐに言うことを聞いてくれて、ありがとう」を忘れない
    「しょうがないわねえ」と、あきらめない
    正座よりも「タイムアウト」
    「タイムアウト」をしんちゃんと練習

   私が体験したPCIT③ 意思疎通のできなかった子が、「本を読んで」と要求するまでに

    難しさを感じたら、一人で悩まないで

    おわりに