発達障害のある高校生・大学生のための上手な体・手指の使い方 | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

笹田 哲:著  中央法規出版  定価:2000円 + 税 (2018.3)

 

      私のお薦め度:★★★☆☆

 

11月にセミナーをお願いした藤井直基先生の「自閉症の身体の育ちを考える Ⅲ」のお話以来、TEACCH、ABA、PECSなどと並んで育てる会の事務局では、自閉症児の身体の使い方へに興味が広がっています。


先月号でもお知らせしたように、自閉症の子どもたちのために、正しくて分かりやすい生活動作を身につけてもらいたいと、歯磨きや手洗いなどの動画の作成にとりかかっています。この会報がお手元に届く頃には、YouTubeに動画がアップされているかもしれません (^^)

 

ただ、先日のお薦め本の「自閉症かな?と 思ったとき」は乳幼児の話でしたが、そうでなくても「体の使い方」のテーマは幼児期・学童期の問題として取り上げられることが多いと思います。
確かに子どものころからの適切な療育などにより、体の使い方は改善していきますし、不器用さも目立たなくなるかもしれません。

でも、自閉症というものは、改善はして行っても、“病気”とは違って、治ることがないからこその“障害”であり、弱みの部分はなんらかの形で残っていくように思います。
もちろん、その弱みはライフステージによって変わってきますが、どの年代においても、支援者や本人が意識して取り組むことで、改善していくことができると思います。
そして、現在、高校生・大学生のために書かれたのが本書です。

 

学校生活や日常生活の中で、周りの友人や家族は当たり前のようにできるのに、自分にはなぜかうまくできないことがあって、悩んでいるということはないでしょうか。

 

具体的な例を挙げると、「猫背で歩き方や走り方がぎこちない」「人や物によくぶつかる」「すぐに疲れて座り込んでしまう」など、姿勢の問題が見られることがあります。
学習面では「字が汚く、思うように書けない」「消しゴムを使うと紙を破いてしまう」「不器用で、はさみやカッターをうまく使えない」などが挙げられます。
生活場面では「箸を正しく使えない」「食べ方がよくないと人から注意される」「身だしなみを整えられない」「包丁を使えない」「衣類をたためない」「自動販売機にお金を入れられない」「エレベーターやエスカレーターにうまく乗れない」などが挙げられます。 (「はじめに」より)

 

いかがでしょう。

ご本人が思い当たることも多いのではないでしょうか。

これらの中には、高校生以前の学童期から、練習して身につけておくと、家庭生活や学校生活が楽になるもも多いと思います。「箸を正しく使えない」とか「消しゴムを使うと紙を破いてしまう」など、注意されたり、困ったりしている話もよく聞きます。この本をまだお子さんが高校生以前の、若いお母さん方にも紹介したいと思った理由の一つです。

 

もっとも、発達障害に関わらず、「ブキッチョ」の人は結構いるようで、かく言う私も、鉛筆の持ち方や、箸の正しい使い方は、この歳になっても・・・恥ずかしい限りです。

 

と、言う訳で、あまり悲観することではないにしても、「上手な体・手指の使い方」をマスターしておくことに
越したことはないので、一緒に勉強していきましょう。


たとえば「上品に食べる」の章です。

 

食器を床(テーブル)に置いたまま、顔を近づけている場合は、食器を持って食べるようにします。
くちゃくちゃおとを立てて食べる人は、口で呼吸している可能性があります。鏡を見ながら口を閉じてモグモグして見て、感覚をつかみます。

 

はい、私もこれぐらいまでは大丈夫です。

 

箸で麺をすくうとき、手首の回転を使ってすくっていくと、上手にすくえます。指先だけでなく、手首の動きをうながしましょう。

フォークでパスタを食べるときは、フォークのいちばん下の歯にパスタを引っかけます。次にパスタを巻きます。そうすると、ソースも飛び散らず、汚れません。

 

だいぶ、私としても、あやしくなってきました。

 

ナプキンを膝の端に置くと落ちやすくなります。大腿部にナプキンを置きましょう。ナプキンを2つ折りにして山側を自分に向けます。ベルトの位置を目印にしましょう。ナプキンで口などを拭くときは、ナプキンの裏側を使います。また、膝に戻すときは、汚れた面を内側にして折ります。

 

ん~ん、私はもうダメですね。ついていけませんね。ナプキンは全部広げて膝にかけ、よく落としていました。
したがって、ナプキンで口を拭く・・・などという動作は考えてもいませんでした。何しろいちど床に落としたあとですから (^_^;)

 

でも安心してください。本書では、良い例、悪い例を写真、それも同年代の方のフルカラーの写真で紹介されていますので、視覚的に優位な自閉症の方にとっては、すぐに納得できて練習してみようと思われる内容になっています。
他にも、身だしなみや調理・掃除・洗濯などの家事、買い物の仕方などについても写真付きで解説していますし、その基礎となる手指の動かし方、体操のやり方なども載っています。
手首そらし・腕回し・指曲げ伸ばし・手組み伸ばし・肩回しなど学習動作の能率を高める体操は、毎日の宿題の前に習慣として身につけておけば、宿題も疲れないで集中できるように思います。


そして、最後に高校生・大学生のための就活に関連する動作についても、まるまる1章を使って改善点を列挙されています。
スーツを上手に着て、ネクタイをきちんと締める動作から始まって、革靴を履いていよいよ面接会場に向かいます。

 

革靴ははきなれないとロボットのようにぎこちない歩行になり、疲れやすくなります。革靴とかかとに隙間が空いていないか確認します。
もし空いていれば、かかとをとんとんしてフィットさせます。

 

高校生になっても、大学生になっても、授業で教えられてこなかったこと、暗黙の一般常識についてはポカがありがちな自閉症児たちです。「当たり前」「こんなことぐらいは分かっているはず」と決めつけないで、苦手な部分はフォローしてあげていきましょう。革靴のかかとはトントンすればピッタリします・・・

 

就活のための第一歩、履歴書作成です。

 

履歴書に証明写真を貼るときなど、写真や切手を片手で貼ると、枠からズレます。両手で対角を持って貼ります。
証明写真はのりで貼り付けます。セロハンテープやホッチキスで貼るのは厳禁です。

 

これまで、履歴書への写真の貼り方なども、誰からも教わったことがなかったかもしれません。

高機能で大学生になっていても、平気で写真をセロテープで貼って、封筒をホッチキスで留めて、送りつけかねないのは・・・自閉症の特性かもしれませんね。

改善策として本書を大いに活用していただきたいと思います。


育てる会でも、これからいろんな一連の動作を動画でアップしていきたいと思っていますので、こちらもご期待ください。(追伸: アップが決定しました 「ぐんぐんのびのびチャンネル」)

 

                (「育てる会会報 272号」 2020.12 より)

 

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目次

 

  はじめに

 

序章 「うまくできる体」をめざしてチャレンジしよう!

 

第1章 基本動作を改善しよう

 

  PART1 座る姿勢を見直そう
  PART2 歩き方を見直そう
  PART3 バランス感覚を鍛える
  PART4 すばやく指先を動かす
  PART5 すばやく見る

 

  COLUMN1 体幹とは?

 

第2章 学習関連動作を改善しよう

 

  PART1 学習動作の能率を高める
  PART2 定期試験で力を発揮する
  PART3 文房具を上手に使う
  
  COLUMN2 鉛筆の持ち方

 

第3章 日常の生活動作を改善しよう

 

  PART1 上品に食べる
  PART2 上手に身支度をする
  PART3 調理・片付けをする
  PART4 掃除・洗濯・整頓する
  PART5 買い物をする
  PART6 公共施設や交通機関を使う

 

第4章 就活に関連する動作を改善しよう

 

  PART1 スーツを着る
  PART2 就活書類を作成する
  PART3 就活で文字を書く
  PART4 面接試験を受ける
  
  COLUMN3 蝶々結びのやり方
  COLUMN4 感覚とは?

 

  おわりに