ライブ講義 発達障害の診断と支援 | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

内山 登紀夫:著  岩崎学術出版社  定価:2500円 + 税 (2013.8)
 

        私のお薦め度:★★★★☆

 

これまでも著者の内山先生には育てる会でも岡山で講演をお願いしたり、会報でも著書を紹介させていただいたりしてきました。でも、今月紹介する「発達障害の診断と支援」は、少し違った視点から書かれています。「ライブ講義」となっていますが、その対象は自閉症児を持つ保護者や、支援を行っている関係者ではありません。
その講義のお相手は「発達障害を専門としない医師」なのです。


本書は発達障害の診療や支援をしてみようとする一般精神科医や小児科医、臨床心理士などを主な対象として想定している。本書で意図したのは、発達障害の専門的トレーニングを受けていない専門家が、発達障害の診断や見立てを行い、診察室で可能な範囲の治療や支援を行えるための知識を伝えることである。
発達障害に関して医師が診察室で行えることは限られているが、それでも医師の役割は重要である。日本では医師しか発達障害を診断できない。医師が発達障害の子どもや成人を「発達障害ではない」と診断すると、後の支援が円滑にできなくなる。また、発達障害の患者を他の障害と診断すると、患者に合わない治療を長期に渡って継続することになりかねない。 (「まえがき」より)

 

日本では、自閉症に詳しい精神科医や児童精神科医の先生が少ないために、発達が気になったとしても受診がままならないのが現状です。予約をしても何か月も待たされたり、初診をうけていないという診療所まであるそうです。
自閉症児にとって、早期発見から早期療育が大切です・・というような情報を聞くと、あせってしまう保護者の方も多く、深刻な状態と言えるでしょう。
幸い赤磐市では、行政に働きかけて、専門医による正確な診断が出る前であっても、かかりつけの小児科医の先生が療育の有効性を認めると、暫定的に受給者証が発行され療育を受けられるようになっています。


「ライブ講義」なので、こんな質疑応答もありました。


Q:私は小児科医ですが、実際に定型発達と見なされている子を障害というときに、小児科医としては、親御さんにどういうことができるのでしょうか。

 

内山:小児科医としてというか、専門家としてできることは、やはりさっきいったように診断特性を把握して、たとえば本の読み聞かせを嫌がったり、あるいはスキンシップを嫌がったら、離れて接してあげる。視覚的な支援を考えるとか。そういった具体的な支援の方略を、いくつか提案するのがよいでしょう。発達障害を想定した支援をすることで、子どもにデメリットも何もないと思います。親御さんにもデメリットはないから、親と子どもが普通に過ごせるような、何らかの具体的な方略を手立てしてあげる。それで長期にフォローするわけです。

 

デメリットはないとのことなので、赤磐市のやり方は有効なのだと確信を持てました。

小児科医の先生に代わって、具体的な方略の手立てを考えるのが、あとを引き継ぐ早期療育の現場になるのでしょう。でも、この赤磐市での方法は本当に応急的処置であって、本当はもっと地域に児童精神科医や、発達障害の専門知識をもった小児科医が増えてほしいと思います。

 

本書の導入部分にも、2013年の文科省調査で、通常学級の6.5%に発達障害の疑いのある生徒がいると推測されるとあります。通常、小児科医の先生には病気の時だけお世話になることが多いのにくらべ、発達障害の場合はそれこそ毎日の支援が求められます。そう考えると児童精神科医の数はもっともっと必要なように思われます。

 

さて本書の内容ですが、相手が医療の専門知識は持っている方々なので、説明は常識的な発達障害の理解にプラスα的なものになっています。

 

たとえば面白い実験の例が載っていました。
ミニチュアのベッドに人形や掛け布団、枕(実はギョウザ、ウタ・フリスの元の実験ではラビオリ)が用意されています。
順番に聞いていくと、多くの人は「人形、ベッド、掛け布団、枕」と “順番に” 答えるのですが、自閉症の子は最後の質問に「ギョウザ」(元の実験では「ラビオリ」)と答えるそうです。


私たちは周りの状況でものごとを判断するため、いかにも枕のように置いてあったら、枕に見えてくる。それが普通ですね。しかし、自閉症の子は枕ではなくて、本当にあるものを具体的に「キョウザです」と答えています。周囲の情報にも左右されずに正しいことを正しく言う。こういった能力は、ある意味科学者としては優れています。多数派は社会的場面で、多くの人がこれは枕に見えてしまうのですが、実際にはまちがっています。少数派は、多数派の中では空気が読めないとか、状況が読めないというふうに見えてしまいますが、正しい認識をしているのです。

 

これが、自閉症児者の中枢性統合能力の障害だそうです。

でもそれを障害と言ってしまったら可愛そうですね。彼らは正しい認識をしているのですから、私たちとの感覚や文化の違いだと言ってあげたいです。


でも彼らの文化が少数派なのは間違いないので、それにより「空気が読めない」などといじめにあわないようカバーしてあげるのは周囲の大人たちの役割です。そして、周囲の大人たちが素直に意見を聴けるのは専門家(発達障害の専門家ではないにしても)のお医者さんであることが多いので、小児科のお医者さんにもこんなプラスαを知っておいていただきたいと思います。

 

また、私たち保護者にとっても、プラスαの知識を得ることができる一冊だと思います。
たとえばTEACCHプログラムと並んで有効とされる、全英自閉症協会で推奨されている“SPELL”の基本理念です。


SPELLとは、SがStructure=環境設定、PがPositive expectation and approaches=肯定的な予測とアプローチ。EがEmpathy=共感、LがLowarousal=穏やか、ⅬがLinks=繋がり、社会との繋がりです。SPELLは基本的に個別的なアプローチです。子どもが持っている個々のニーズと興味を適合させるための、一種のフレームワークと考えてもいいでしょう。

 

このあたりまでは知識として知っている方もあると思いますが、さらに本書ではプラスαとして、たとえばこの中のP、ポジティブ・アプローチの詳しい説明です。


これは自閉症の人をほったらかしにしない、肯定的なアプローチを積極的に行うということです。ストレスがあることを無理にさせないのは大事ですが、無理はさせてはいけないとなると、全部ルーチンをその子のできるパターンだけにしてしまって、新しい活動や課題をしなければ、少なくとも安定することもあります。しかし、実際には何も得ていかないわけです。やはり注意深く積極的にアプローチをしなければいけない。自閉性特性から生じる不利益を最小限にするために、注意深く積極的に介入する。この介入が大事です。

 

身体的、情緒的、教育的な支援介入を行ない、自信や自尊心を持てるようにすることが大切です。上手に教えれば、いろいろなことを学んでいくのが自閉症の子どもです。むしろ学びたがることが多いのです。教え方のセッティングの許容範囲が一般の子どもよりも、知的障害の子よりも狭いけれど、先生の能力が高ければどんどん伸びていくし、低ければまったく覚えないというように、先生の能力の差が第一番に反映しているのが自閉症の子です。

 

こんなふうに、医師の方だけでなく、私たちも、親として、また療育に関わる者として、よい“先生”になれるように努めることがいかに大切かと感じさせられた一冊でした。

 

          (「育てる会会報 273号」 2021.1 より)

 

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目次

 

  まえがき

 

第1講 発達障害の概念

 

  1. 基本的な立場
  2. 発達障害の定義
  3. 発達障害の基本特性
  4. 学習障害の定義
  5. 注意欠陥/多動性障害

 

第2講 発達障害の歴史

 

  1. 発達障害の歴史
  2. 学習障害の歴史
  3. ADHDの歴史
  4. 自閉症スペクトラムの歴史
  5. 診断の際の注目点

 

第3講 カナ一型自閉症の診断

 

  1. 広汎性発達障害
  2. CARS4
  3. 自閉性障害(DSM-Ⅳ-TR)
  4. 社会性(DSM-Ⅳ-TR)
  5. コミュニケーション
  6. 限定された興味・活動、常同的行動
  7. 発達経過
  8. 除外障害
  9. 社会性の3タイプ
 10. その他の考慮すべき事項
 11. 診察室での評価
 12. 診断

 

第4講 アスペルガー症候群の診断

 

  1. アスペルガーの診断
  2. アスペルガーの業績を紹介
  3. アスペルガー障害
  4. アスペルガー障害の特徴

 

第5講 自閉症スペクトラムの診断に必要な発達の知識と発達歴の取り方

 

  1. 発達歴をみる
  2. 間主観性
  3. 指差しの発達
  4. 三つの指差し
  5. 言葉の発達
  6. イナイイナイバー
  7. ふり遊び
  8. 読み書き
  9. 2歳までの行動特徴
 10. 退行
 11. 粗大運動スキル
 12. 1歳半健診
 13. 自閉症スペクトラムの早期兆候
 14. M-CHAT
 15. 身辺自立を聞く
 16. 家事スキルを聞く
 17. コミュニケーションを聞く
 18. 非言語性コミュニケーションを聞く
 19. 社会性を聞く
 20. イマジネーションを聞く
 21. 反復的な常同行動を聞く
 22. 絵と文字について聞く
 23. 注意と多動を聞く
 おわりに

 

第6講 自閉症スペクトラムの理解に必要な心理学

 

 はじめに
  1. 自閉症の認知障害
  2. 心の理論障害
  3. 実行機能障害
  4. 視覚指示
  5. 注意の障害
  6. 中枢性統合能力の障害
  7. 有意味性へ
  8. ワーキングメモリー
  9. 自閉症の異文化性
 質疑応答

 

 【コラム】 サリーとアンの課題
 
第7講 自閉症スペクトラムの療育

 

  1. 支援の目的から確認しよう
  2. 支援の目的
  3. どう支援するか
  4. さまざまな支援手段があるが……
  5. 療育はまず自閉症特性から考える
  6. SPELL
  7. よくある長所
  8. 乳幼児期
  9. 学童期
 10. 思春期に多い問題
 11. 成人期に多い問題
 12. 言葉かけとコミュニケーション
 13. 親のストレス
 14. 構造化の例
 15. 合併症に対する治療
 まとめ
 質疑応答

 

  参考文献