誤解だらけの発達障害 | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

岩波 明:著 宝島社新書 定価:800円 + 税 (2019.10)

 

     私のお薦め度:★★★★☆ 

 

最近育てる会に入会された若いお母さん方には馴染みがないかもしれませんが、育てる会で作った小冊子に「自閉症のしおり」というのがあります。
親たちが、周りの人たちに自閉症という障害を知ってほしくて作ったしおりです。


「自閉症って、なにが原因なの?」「自閉症って、なおらないの?」「自閉症の人って、どれくらいいるの?」「自閉症の人って、特別の才能があるの?」そんな素朴な疑問に、親の立場から答えていった冊子で、もう10年以上前に文部科学省の助成をいただいて作成しました。

 

本書も同じような疑問に解説しています。「どうして発達障害になるの?」「発達障害は治るの?」「発達障害の人はどのくらいいるの?」「発達障害には特殊な才能があるの?」・・・
「自閉症」という言葉を「発達障害」に置き換えると、よく似た見出しが続きます。
10年以上経っても、まだまだ誤解されることの多い自閉症であり、発達障害なのでしょう。

 

もちろん本書は、長年発達障害専門元来を担当され、現在は昭和大学医学部教授の岩波明先生が、専門家の立場で書かれた本なので「事実(ファクト)」に基づいて解説されています。(「自閉症のしおり」の方は、親たちの想いで書かれた部分が多いですね (^_^)・・・)


そして著者が憂慮されているのは、発達障害がマスコミなどでも多く取り上げられるようになって生まれた、発達障害診断における過剰診断や過小診断の問題です。

うつ病や不安障害、依存症などの障害の奥に発達障害が潜んでいることに気づかないという過小診断と同じく、「対人関係が苦手」「コミュニケーションがうまくとれない」などから即、発達障害と結びつけるような過剰診断がされることもあります。

 

発達障害の認知度が上がり、「生きづらいこと」や「変わっていること」、また不登校やいじめといった問題にスポットが当たり、治療や支援が検討されるようになったのは好ましいことですが、同時に偏った報道や知識の普及により誤った理解や偏見も生まれるようになりました。
また重大事件の犯人が、精神鑑定の結果によりアスペルガー症候群などの「発達障害」と診断されたケースもいくつか報道されましたが、実際は弁護側の法廷戦略による場合が多く、発達障害についての誤ったイメージを強調する結果になりました。

 

この「法廷戦略」による誤ったイメージという言葉には、もう少し詳しい解説が必要かもしれません。

 

かってわが国では、動機が不可解な少年事件について、加害者がアスペルガー症候群であるという報告がしばしば行われてきました。その多くは加害者側の弁護士から提出されたもので、加害者が発達障害に罹患していると主張することで、刑罰の軽減を目的としたものでした。
こうした事件の大多数が少年事件であるため、詳細な情報は明らかになっていない場合が多いのですが、あらためて経過を精査してみると、加害者がアスペルガー症候群などのASDであるというのは誤診であることが少なくありません。つまり、ASDと犯罪が結びつけられた背景には、弁護士側の法廷戦略があったように考えられ、今後のさらなる検証が必要でしょう。

 

弁護士という職務は、被告人の利益を守るために弁護を行うものですから、被告人の刑を軽くするためには、障害と判定してくれる鑑定医を探してきて法廷で主張するのは当然かもしれません。しかし筆者のいうように、それが過剰診断による「誤診」だとしたら、その「誤解」を意図的に引き出すことは、同じ障害名をもつ人々のイメージを悪化させることになってしまいます。


マスコミなどが、見出しに大きく障害名を掲げることは、障害者団体の抗議等によって減ってきように思いますが、記事の本文の中で取り上げらるる障害名が、誤診に誘発された法廷戦略だとしたら、発達障害へのマイナスイメージを払拭するための働きかけも必要になってくるように思えます。

 

また、本書の中では、いじめや不登校についても、注意するべき点を挙げられています。

 

発達障害をもつ子どもは、いじめにあいやすく、不登校になりやすいといえます。これまでの国内におけるいくつかの調査では、小中学校の不登校児のうち、20%以上におよぶ児童に発達障害がある、またはその疑いがあることが報告されています。
不登校の大きな原因としていじめがあげられますが、発達障害といじめの関連を調査した研究からは、発達障害の児童はいじめを受けやすいことがわかっています。ある研究では、知的障害を伴わないASDの子どもにおいて、40~80%がいじめを受けた経験があることがわかりました。ASDのある子どもは、集団行動が苦手だったり、情緒的な交流が難しかったりし、小学校高学年から中学にかけて形成される「友人グループ」に属せず孤立し、いじめの標的になりやすくなります。

 

また、みんなと一緒に授業に出られなかったり、活動ごとの切り替えができなかったり、友人トラブルを起こしたりして叱責されると、失敗体験が募り、自尊心は低下し、「自分だけ違う、自分だけ怒られる」と学校での居場所を失い不登校になってしまいます。いじめや学校での疎外感が続くと、気分は沈み、不安が強まってしまい、うつ病や不安障害を併発してしまうこともあるので注意が必要です。

 

発達障害を持つ子どもたちはいじめにあいやすく、またそれによる二次障害で不登校や引きこもりになるということは、これまでも見聞きしていましたが、こうしてその40~80%の子ども達がいじめにあっていると知らされると、いじめにあわずに学校生活をおくれるASDの子どもたちの方が、むしろ少ないのかもしれません。子ども達を守るためには、先生と協力して発達障害への理解を上げていくことが大切になってくるように思えます。


「発達障害の人はどのくらいいるの?」への回答では、筆者はASDは人口の約1%、ADHDは約5%と推定しています。学校への働きかけの場合は、自閉症だけにこだわらず、発達障害全体での協力も必要になるのかもしれませんね。

 

また、本書の終わりには、発達障害を取り上げた映画やTVドラマとともに、発達障害の特徴を持つ人が登場するフィクション本もいくつか取り上げられています。
「コンビニ人間」「重力ピエロ」「煙か土か食い物」「のだめカンタービレ(マンガ)」などなど、最近は老眼もすすみ、あまり小説も読まなくなった私ですが、この機会に書店に足を運んでみようかな・・・と思えた書評も載っている本書でした。

 

           (「育てる会会報 266号](2020.6より)

 

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目次

 

  はじめに

 

第1章 発達障害の基礎知識

 

  Ⅰ.発達障害とは?

 

    なぜ「発達障害」が近年これほど注目されているの?
    発達障害とはどんな病気?
    発達障害は新しい病気なの?
    発達障害の人はどのくらいいるの?
    ここ数年で患者が急増しているの?
    発達障害と知的障害の違いは?

 

  Ⅱ.原因について

 

    どうして発達障害になるの?
    親の育て方が悪いと発達障害になるの?
    「いじめ」や「虐待」で発達障害になるの?
    母親の服薬や飲酒が子どもの発達障害の原因になるの?
    頭をぶつけたりしたらなるの?
    発達障害の「頭の中」では何が起きているの?

 

  Ⅲ.症状と特徴について

 

    ASDの症状とは?
    ADHDの症状とは?
    「落ち着きがない子」と「ADHD」の違いは?
    学習障害の症状は?
    暴力的になることがあるの?
    「極度の人見知り」は発達障害と関係があるの?
    男女で症状に差があるの?
    ADHDで本人や周囲の人はどんなことに困るの?
    ASDで本人や周囲の人はどんなことに困るの?
    「カサンドラ症候群」って何?
    症状が出やすくなる環境や場面はあるの?

 

  Ⅳ.診断について

 

    どこでどうやって診断するの?
    ASDの検査について
    ADHDの検査について
    その他の検査方法について
    発達障害と誤診される人はどんな人?
    「うつ病」として治療されていた症例


第2章 発達障害は治るのか

 

  Ⅰ.治療について

 

    発達障害は治るの?
    できるだけ早い診断が必要?
    発達障害の治療にはどのようなものがあるの?
    発達障害の薬物治療の現在
    二次障害と発達障害のどちらの治療を優先すべき?
    薬以外の治療にはどんなものがあるの?
    病気をどうやって受容すればいいの?
    育て方や関わり方で治ることもあるの?

 

  Ⅱ.発達障害の子どもへの対応とサポート

 

    発達障害の子どもは、どう育てればいいの?
    教育現場での発達障害児に対する対応や現状は?
    「いじめ」と「不登校」の問題

 

  Ⅲ.大人の発達障害について

 

    職場で発達障害かもしれないと言われたら?
    発達障害の人の就職や結婚はどうなるの?
    日常生活や対人関係において工夫できることは?
    周囲ができる工夫やサポートは?
    病院以外にも相談できるところはあるの?
    障害者手帳はもらえる? 生活保護は適用される?

 

  Ⅳ.合併症について

 

    他の心の病気にもなりやすいの?
    ゲーム依存やネット依存になりやすいって本当?
    PTSDになりやすい理由
    性別違和との深い関係
    体の病気にもかかりやすいの?

 

第3章 誤解だらけの発達障害

 

  Ⅰ.まだ知られていない発達障害のよい面

 

    発達障害には特殊な才能があるの?
    発達障害に伴うことのある「共感覚」とは?
    ASDに多い「映像記憶」
    「感覚過敏」と「感覚鈍麻」とは?
    発達障害の人のよいところは? 得意なことは?
    ASDの特徴をもつ著名人はいるの?
    芸能人や起業家にADHDの人が多いといわれるが本当?
    近年増えている発達障害を扱う作品

 

  Ⅱ.発達障害についての多くの誤解

 

    発達障害の人は犯罪を犯しやすいの?
    「キレる老人」「暴力を振るう老人」は発達障害と関係ある?
    ASDの人は認知症になりにくい!?
    成人の発達障害と子どもの発達障害の違いは?
    海外で行われている最新の治療法は?
    遺伝子検査で出生前にわかるの?
    ASDやADHDは進化の過程で重要だった!?
    動物の気持ちがわかるって本当?
    高齢出産だと発達障害の子どもが生まれやすい?