発達障害 & グレーゾーン の小学生の育て方 | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

井上 雅彦:監修 すばる舎 定価:1600円 + 税 (2020.1)

 

      私のお薦め度:★★★☆☆

 

鳥取大学大学院教授の井上雅彦先生が、社外取締役を務められる株式会社LITALICOの発達ナビと協力して作成された、「発達障害&グレーゾーン」の小学生支援のための一冊です。


学習教室や児童発達支援、放課後等デイから障害者の就労支援まで、幅広く全国的に展開されているLITALICOさんなので、寄せられた悩みやアンケートも具体的ですし、井上先生監修による対策も、すぐに家庭や療育現場で役立つような、そんな「お助け本」となっています。

 

例えば、「食事に集中できない」でなかなか食卓につけなかったり、遊びながらダラダラ食べたり、箸や食器がうまく使えなかったりする子どもへの対策です。


対策1 食事に集中できるように環境を整える
      食事に集中できないのは、椅子とテーブルの高さが子どもに合っていないのかもしれません。

      足がきちんと床についていないと、姿勢がくずれ、食器を手で支えるのも難しくなります。

             子ども用の椅子を使ったり、高さを調整したりしましょう。

 

対策2 食べやすい食器を使う

      低学年のうちは、手先の不器用さから食器が動いて気がそれてしまうというのも、

      食事に集中できない理由の一つです。
      学校では難しいですが、家庭ではスプーンですくっても動きにくい食器や、ふちが高くて内側に

      “返し” がついたこぼしにくい食器を使ってみるなど、子どもが使いやすい食器を使うと、食事

      に集中してくれることがあります。

      滑りにくいゴム製のランチョンマットを敷いてみるのもいいですね。

 

対策3 味付けを変える。一緒に料理をする
      食わず嫌いの場合、その料理が何から作られているのかわからなくて不安なのかもしれませ

      ん。

      料理をするときに冷蔵庫から食材を出してもらったり、野菜の皮をむいてもらったりして料理に

      参加することで、料理や食材への不安を減らし、興味を深めることができます。

      親子で一緒に料理するのも楽しいですよ。

 

ここに挙げたのは、各対策の項目の一部の抜粋で、他にもいろいろな方法、テレビを消したりスマホを片付けたり、箸の練習の仕方、カレー味で食材を調理してみる・・・など、いろんなアイデアが書いてありますので、きっと、“我が子”にも合ったアドバイスがもらえると思います。
また各ケースの終わりには「うちではこうしました!」という、先輩のお母さんからの実例がたくさん載っています。一つひとつの文章は長くはないのですが、これだけ多くのご家庭で工夫されたアイデアが集まると、ヒントもいっぱいもらえると思います。

 

また、小学生の保護者向けのようなタイトルですが、自閉症児たち、ゆっくりゆっくり成長するので、大きくなった子どもたちにも参考になるテーマもあります。
例えば、我が家の場合、もう立派な成人になっているのですが、「同じ質問や確認を何度もする」・・・続いています。
答えを忘れたはずではないのに、同じこと「2021年 ドイツ?、東京ディズニーランド2020年?」を何度も何度も聞いてきて「いいかげんにしなさい!」と言いたくなってしまいます。

 

しかし、記憶力とは別に、不安や心配から何度も質問や確認をしてくる場合もあります。
「予定が変わってしまっていたらどうしよう」と不安になったり心配になったりすることで、何度も質問をしてしまうのです。

 

さらに、子どもの中には、決まったやりとりを繰り返すことで安心したり、「同じ答えを言ってほしい」というこだわりがあったりする子がいます。
質問を無理にやめさせたり、「あんまりしつこいと、行くのをやめるよ!」などと、条件を付けて大人の言うことを聞かせようとしても、子どもには「行くのをやめるよ」という言葉が頭に残ることで、かえって不安になり、気持ちが落ち着かなくなってしまいます。
子どもが何に対して不安に思っているのかを探り、気持ちを上手に受け止めてあげましょう。

 

確かに、コロナウイルスの影響で、東京ディズニーランドがいつ再開されるのか、海外旅行に本当に行
けるのか・・・不安になるのは分かりますが、尋ねられたこちらもはっきりとは分かりません。
そのため余裕をもって、「東京ディズニーランドは2020年11月、ドイツ旅行は2021年」と約束しているのですが、相変わらずしょっちゅう聞いてきます。

そこで本書の対策のページを開いてみました。

 

対策 1 答えを目に見えるように紙に書いておく
        ・・・これは、自閉症の特性、最初にやってみていました。

           確かに、貼り出した当初は効果があったのですが・・・


対策 2 質問の意図を探る
         ・・・やはり、コロナでマラソン大会など、全ての行事が中止になって
            いつ再開されるのか、不安になっているのが大きいでしょう・・・


対策3 質問してもよい回数を子どもと一緒に決める
        ・・・そういえばこれはやっていなかったですね。

           試してみる価値はありそうです・・・・

 

また、書いて貼り出す表のサンプルもついていました。

 

 「おなじしつもんは 3かいまで」
      1  (空白)
      2 おかしいな と おもう
      3 しつこいな と おもう
      4 いわれたひとが イラッとする 
(ここから表の色が変わってきてます)
      5 いわれたひとは はらがたってくる (かなり濃い色になっています)

 

これで、質問が3回までにおさまってくれれば、親子ともに平穏に暮らせるのですが、どうでしょう。

 

こうして、本書の悩みと対策は、「家庭習慣」の悩み、「日常生活」の悩み、と続いていき、最後は「学習・運動」の悩みとなります。

 

発達障害やグレーゾーンの子の中には、知的発達の遅れがなくても、読み書き計算のいずれかや、これら複数にわたって困難さが見られる子がいます。読み・書き・計算などの特定の学習や運動は、「できる・できない」が目立ちやすく、「なぜできないのか」と叱られる回数も多くなります。
失敗や叱られた経験が重なると、子ども本人が学習や運動そのものを嫌いになってしまうことがあります。
学習や運動を嫌いにさせないように、できないことばかり注目して自信を失わせないように、うまく困難さを補ってあげられるといいですね。


そして、文章を読むのが苦手、文章問題が苦手、図画工作が苦手、体育全般が苦手・・・など、発達障害の子ども達が悩みそうなことについての、具体的な対策方法が列挙されています。読み・書き・計算の苦手は、LD(学習障害・限局性学習症)の特性なのですが、発達障害を持つ子どもたちにも、よく並行して現れるので、参考になることが多いと思います。

 

本書は、一つの仮説や理論をもとにして、系統的に理解し実践につなげていくというタイプの本ではなく、目の前の困っている子の悩みを一つずつ解決していくという・・・もちろん、発達障害の特性には配慮しながら・・・、お母さんたちにとっては、すぐに役立つハウツー本だと思います。
各ページ2色刷りで、楽しいイラストがいっぱいで、とても読みやすくなっていますので、気になる項目から気軽に読んでいただければとお薦めします。

 

      (「育てる会会報 265号」(2020.5)より)

 

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目次

 

  はじめに


第1章 不安だらけなのは、みんな同じです

 

  1 悩んでいるのはあなただけではありません
  2 まずは子どもの苦手を理解することから
  3 発達障害とは?
  4 発達障害と診断されないグレーゾーンの子どもたち
  5 今よりも子育てがラクになるヒント

 

第2章 「家庭習慣」の悩み

 

  日課や身の周りのことを一人でできるようにさせるには

 

  ケース1 片付けが苦手
    対策1 片付けの手順をリスト化する
    対策2 片付けの時間を決める
    対策3 音楽をかけてゲーム感覚で

 

  ケース2 時間割を見て準備ができず、忘れものが多い
    対策1 曜日ごとの持ちものリストを作る
    対策2 科目別に教科書やノートのセットを作る
    対策3 「明日の準備」は前日に

 

  ケース3 家で宿題をやろうとしない
    対策1 宿題に集中できる環境を整える
    対策2 「帰ったらやることリスト」に宿題を書く
    対策3 スモールステップで取り組ませる

 

  ケース4 やることの優先順位付けや時間配分が苦手
    対策1 「やること表」を作って優先順位をつける
    対策2 時間を意識させる
    対策3 子どものペースに合った時間配分に

 

  ケース5 食事に集中できない
    対策1 食事に集中できるよう環境を整える
    対策2 食べやすい食器を使う
    対策3 味付けを変える。一緒に料理をする

 

  コラム1 ペアレントトレーニング

 

第3章 「日常生活」の悩み

 

  親からすると深刻な悩みも、子どもは問題だと思っていない?

 

  ケース1 何度注意しても言うことを聞かない
    対策1 子どもの注意をひく
    対策2 短い言葉で具体的に伝える
    対策3 スモールステップで「できる」ことを増やす

 

  ケース2 失敗や間違いを極度にいやがる
    対策1 環境を工夫して失敗を減らす
    対策2 失敗への恐怖心を和らげる
    対策3 失敗時の気持ちの切り替え方を教える

 

  ケース3 同じ質問や確認を何度もする
    対策1 答えを目に見えるように紙に書いておく
    対策2 質問の意図を探る
    対策3 質問してもよい回数を子どもと一緒に決める

 

  ケース4 興奮するとところかまわず大はしゃぎする
    対策1 電車やバスで静かに時間をつぶせる方法を考える
    対策2 場所に合った声の大きさや行動のルールを教える
    対策3 興奮をしずめる方法を教える

 

  ケース5 ゲームやネットばかりしている
    対策1 子どもと一緒にルールを決めて徹底して守らせる
    対策2 ゲーム機は親が保管・管理
    対策3 子どもが興味を持ちそうな体験に誘う

 

  ケース6 お金の管理が苦手
    対策1 おこづかい帳をつけさせる
    対策2 余分なお金は持たせない
    対策3 買い物計画を立てる
    対策4 友人間のお金の貸し借りは禁止

 

  コラム2 診断と福祉的サービス

 

第4章 「学校生活」の悩み

 

  障害のある子が学校生活を楽しめるように親ができること

 

  ケース1 授業中に集中せず立ち歩く
    対策1 教室の環境を変える
    対策2 席を離れるときのルールを教える
    対策3 役割や行き先を準備する

 

  ケース2 教室移動を忘れたり遅れてしまう
    対策1 個別に声かけ&特性に合った伝え方
    対策2 移動教科ごとに持ちものバッグを用意

 

  ケース3 整理整頓が苦手で、ものをよくなくしたり忘れたりする
    対策1 片付ける場所を見てわかるように示す
    対策2 休み時間に次の授業の準備をさせる
    対策3 忘れたときの対応を事前に決めておく

 

  ケース4 集団生活のルールを守らずマイペースな行動が目立つ
    対策1 具体的に短い言葉で指示をする
    対策2 ルールの重要性を理解させる
    対策3 家庭で期間を決めてルールを守る練習をする

 

  ケース5 係や当番の仕事を忘れたり最後までやらない
    対策1 仕事の内容や手順を理解させる
    対策2 わからないときは周りに聞くように促す
    対策3 優先順位を考えて行動できるように練習する

 

  ケース6 状況の切り替えが苦手
    対策1 始める前に「終わりの時間」を伝える
    対策2 急な予定変更は早めに伝える
    対策3 予定の変更を目で見てわかるようにする

 

  ケース7 遠足や運動会・・・学校行事に参加したがらない
    対策1 事前にイメトレする
    対策2 できる活動だけに参加させる
    対策3 スモールステップで成功体験を積ませる

 

  コラム3 学校の先生とのかかわり方

  コラム4 学校・学級、四つの選択肢

 

第5章 「対人関係」の悩み

 

  トラブルが起きやすいのは相手の気持ちを推測するのが苦手だから

 

  ケース1 あいさつができない
    対策1 スモールステップで始める
    対策2 絵カードであいさつゲーム
    対策3 相手に合わせてあいさつを練習する

 

  ケース2 「ごめんなさい」が言えない
    対策1 子どもの言い分を最後まで聞く
    対策2 自分のあやまちを絵本やマンガで納得させる
    対策3 謝罪のスキルを教える

 

  ケース3  一方的に話したり、人の会話に突然割り込んでくる
    対策1 キリのよいところで質問を入れる
    対策2 会話のキャッチボール練習
    対策3 会話への入り方の練習

 

  ケース4 自分の意見を言えない。(困っていても)自分で伝えられない
    対策1 困っていることを伝えられるように
    対策2 はじめは一問一答になるシンプルな質問から
    対策3 考えて答えることの楽しさを経験させる

 

  ケース5 相手の気持ちが読めず余計なことを言ってしまう
    対策1 その場で「その言葉はNG」と伝える
    対策2 相手の表情や気持ちに気付かせる練習
    対策3 状況をイラスト化して行動を振り返る

 

  ケース6 人と協力して何かをすることが難しい
    対策1 活動内容を見えるように示す
    対策2 話し合いのルールを教える
    対策3 落ち着ける居場所を作る

 

  ケース7 順番を待てない
    対策1 列をわかりやすくする
    対策2 自分の順番までの見通しをつける
    対策3 待ち時間にやることを作る

 

  ケース8 人との適度な距離感をつかめない。抱きつくなど過度に接触する
    対策1 年齢に合ったスキンシップの取り方を教える
    対策2 相手によって距離感が変わることを伝える
    対策3 抱きつく以外の安心できる方法を見つける

 

  コラム5 子どもが落ち着ける場所

 

第6章 「学習・運動」 の悩み

 

  学習や運動を嫌いにさせないために

 

  ケース1 文章を読むのが苦手
    対策1 文章を読みやすいように加工する
    対策2 文字に触れて語彙を増やす
    対策3 言葉の意味を学ばせる

 

  ケース2 文字を正しく書けない
    対策1 手本を工夫する
    対策2 漢字はパーツに分けて覚える
    対策3 板書を撮影して書き写してもいい

 

  ケース3 文章問題が苦手
    対策1 数の動きを見える化
    対策2 文章中のキーワードに印をつける
    対策3 日ごろから式を立てる習慣を作る

 

  ケース4 作文や日記を書くのが苦手
    対策1 写真やビデオを見ながらイメージ
    対策2 作文を書き始める前にメモを取る
    対策3 作文用紙の使い方・書き方のルールをまとめる

 

  ケース5 学習用具をうまく使えない
    対策1 子どもが使いやすい道具をそろえる
    対策2 慣れるまで大人がサポートする
    対策3 左右の手を同時に別々に動かす練習をする

 

  ケース6 図画工作が苦手
    対策1 作業しやすい環境を整える
    対策2 制作手順や見本を示す
    対策3 スモールステップで手指を動かす練習

 

  ケース7 体育全般が苦手
    対策1 やりやすい環境を用意する
    対策2 苦手な活動を日ごろから家庭で練習

 

  コラム6 カミングアウト

  コラム7 小学校卒業後の進路の悩み