- 服部 陵子・宮崎 清美:編著 明石書店 定価:1300円 + 税 (2008.4)
私のお薦め度:★★★☆☆
今では自閉症児を持つ保護者の間では、すっかりおなじみで、当たり前のように使っている「サポートブック」という言葉ですが、実は意外に新しく、香川の丸岡玲子さんが、息子のノブ君のことを周りの先生や支援者の方に正しく知っていただきたいと作られたものを、サポートブックと呼んだのが最初でした。
育てる会でも、早速、2004年1月に丸岡さんにその作り方の講演をお願いし、その後2005年に出版された丸岡さんの「サポートブックの作り方・使い方
」の本も会報86号(2005年6月)で紹介させていただきました。
あれから10年、全国各地で園に入園される方や、新入学を契機に我が子のサポートブックを作ろうとされる方が増えてきています。
赤磐市でも、あかいわ発達障害支援センター主催で、お母さんたちが集まってサポートブック作りの勉強をされています。
ただ、まだ一人で勉強されておられるお母さんの中には、必要なことは感じているけれど、どこから手をつけていけばいいのか、どんな風に書いていけばいいのか、迷われている方も多いのではないかと思っています。
そこで登場したのが、本書「家族が作る 自閉症サポートブック ~わが子の個性を学校や保育園に伝えるために~」です。
熊本で発達障害の本人や家族の支援にあたられている「はっとり診療クリニック」での勉強会や実践から生まれた「サポートブック事例集付」の本書です。
本書の構成は、まず第1章で「サポートブックはなぜ必要か」というところから入り、第2章でひな形を見ながら実際の作り方の説明、第3章では7人のお母さんたちの作った実際のサポートブックの事例を載っています。特に事例集にたっぷりのボリュームをとり、幼稚園のお子さんから、小学6年の少年まで幅広くとっていますので、実際に作るときのヒントになる部分も多いと思います。
「サポートブックはなぜ必要か」については、本文のみならず、裏表紙にもそのまま載っていますので、その内メリット部分について紹介します。
サポートブックのメリット
◇ 家族が作ることで、家族でないとわからないことが記載されることが多い。
◇ 子どもの情報が支援者と共有できる。
◇ 子どもが安心・安定した生活が過ごせるようになる。社会生活が広がる。
就学(就園)で使用する際のメリット
◇ 早くから適切な支援が可能となる。
◇ 本人に関する情報を短時間で知ることができる。
◇ 複数の人が同じ情報を共有できるので一貫した支援が可能となる。教師間の共通理解が得られる。
◇ 個別の支援計画に向けて子どもの情報を的確に伝える方法となる。
◇ 就学に対する保護者の不安を軽減する。
サポートブックという言葉が生まれる前にも、子どものことを分かってほしい、キャンプや修学旅行の前に伝えておきたい、などの親の想いで似たような表はありました。
いわゆる「プロフィール表」です。それでは、それまでのプロフィール表とサポートブック、比べてみると2つほど違いがあるように思えます。(もちろん同じように作られていた方もいるとは思いますが・・)
その一つが、プロフィール表では子どもの状態や能力、日頃の様子を中心に書いているものが多かったのに対し、サポートブックでは起こすかもしれない行動や、それに対する対処法が主な目的になっているように思います。
子どもがその場で安心して過ごすことができるようにという親の想いです。
本書でも、できるだけ抽象的な表現ではなく、具体的なエピソードまで書いて、支援者がイメージしやすいように書くことを勧めています。
もう一つのサポートブックの特徴は、携帯しやすく見やすいことが挙げられると思います。
プロフィール表がどちらかというと事前資料で、あらかじめ読んで子どもの様子を把握しておくことに主眼がおかれていたのに対し、サポートブックは持ち運びしやすいこと、その場でパッと見られることを目的としているように思います。
本書でも、表示・解説は本の体裁に合わせてA4版ですが、実際のオリジナル版の見本を見ると、ハガキサイズで1ページに1項目で見やすく作られているお母さんが多いようです。
文字通りのサポートブックです。
さて、ではここで元祖の丸岡さんの書かれた「サポートブックの作り方・使い方」からの10年間の歩みをみてみますと、事例を載せられている方の中にアスペルガー症候群や高機能自閉症の方が多いのが目につきます。
項目や書き方自体は、丸岡さんの考案されたサポートブックでほぼ完成形だと思えるのですが、実際にサポートブックを必要としている子どもたちの中に高機能な子の割合が増えたと言えそうです。
高機能な子、特にアスペルガー症候群のように言葉に遅れのない場合には、「言えばわかるでしょう」「サポーブックなんて必要ないでしょう」と思われがちですが、実は彼らこそパッと見、分かりにくい困難さを抱え、大変な思いで日々を送っていることが多いのですね。
「学校はなにがおこるかわからない、ジャングルのようでした」(小道モコさん)そんな彼らのことを代弁して伝えるための「家族が作る自閉症サポートブック」です。
本書は専門書でも、物語でもないので、必要と思われる個所、漏らしてはいけない項目などをチェックしながら、大いにサポートブック作りに活用していただきたいと思います。
それにしても、いろんなタイプの事例が載っていますが、「言葉について配慮をお願いしたいこと」などは、みんなほとんど同じですね。自閉症のサポートブックには、あらかじめ印刷しておいてもいいぐらい・・・少し言い過ぎでしょうか (^_^;)
小2 情緒学級 自閉症 まさきくんのサポートブック での 「お願い」です。
○ 話すときはゆっくり、穏やかな口調でお願いします。
○ できるだけ短く、一度に一つのことを、具体的に話してください。
○ 言葉だけでわかりにくいときは、写真・絵・文字を使って伝えてください。
○ 指示は否定形ではなく、肯定形で。
○ 混乱しているときには、次々と言葉をかけないでください。
よけいにわからなくなって、真っ白になってしまいます。
(「育てる会会報 196号
」 2014.8 より)
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目次
はじめに
第1章 サポートブックはなぜ必要か ~子どもの現実・学校の現実~
1 子どもの現実~子どもは一人ひとり違う
2 学校の現実
3 書いておきたい基本項目
4 子どもから見た集団
5 支援者(教師)との信頼関係を築くために
6 特別支援教育のスタートと家族の参加
サポートブックQ&A
資料1 サポートブックの活用状況(アンケート結果より)
資料2 支援者(サポートブックを読んだ教師)の感想
解説 高機能自閉症とアスペルガー症候群(いわゆる高機能群について)
第2章 サポートブックの作り方(ひな形付き)
1 サポートブックとは(目的)
2 サポートブックのメリット
3 就学(就園)で使用する際のメリット
4 作り方のポイント
5 基本項目
6フォームについて・その他
サポートブックのひな形
第3章 事例集
1 しょうたくん 幼稚園年長 自閉症
2 ゆいかちゃん 幼稚園年長 アスペルガー症候群
3 いっぺいくん 小1情緒学級 自閉症
4 じろうくん 小1情緒学級 高機能自閉症
5 まさきくん 小2情緒学級 自閉症
6 あきらくん 小3情緒学級 アスペルガー症候群
7 りょうくん 小6特別支援学校 自閉症
おわりに
参考図書
(「育てる会会報 196号 」 2014.8 より)