自閉症スペクトラムの子どもへの感覚・運動アプローチ 入門 | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ


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岩永 竜一郎:著 東京書籍 定価:1800円+税 (2010年3月)

      私のお薦め度:★★★★☆


著者の岩永先生は医学博士・作業療法士として長崎大学で教鞭をとるかたわら、感覚統合学会の理事として感覚統合療法の実践も行っておられます。またアスペルガー症候群の息子さんをお持ちのお父さんとして、長崎県自閉症協会高機能部部長も務められています。


「感覚統合」と聞くと、いまだにわかったような、わからないような・・・そんな方もいらっしゃるのではないでしょうか。

確かに、TEACCHやPECS、ソーシャルストーリーズなどと比べると、傍目にはブランコやスベリ台、ロープやバランスボールなどを使って、ただ遊んでいるだけに見えて、「これで本当に療育なの?」と思ってしまいがちですね。
本書で、岩永先生は「感覚統合」よりも少し広い意味で「感覚処理」という言葉を使って説明されています。これなら、自閉症児を育てている方なら誰でも思い当たることがあると思います。子どもたちは、触覚、視覚、聴覚、味覚、嗅覚などに敏感だったり、逆に鈍感だったり、確かに私達とは違った感覚を持っているようです。また前庭覚や固有受容覚にも変わったところがあり、グルグル回りで目が回らなかったり、身体の使い方に不器用さがあったりしますね。自閉症児が暮らしやすくなるために、その感覚処理による問題の部分によるに働きかけるのが「感覚統合療法」だということです。


子どもが示す問題をすべて感覚統合理論で解釈しようとすると必ず間違いが起こりますので、問題を整理し感覚統合理論以外の視点に基づくアプローチが必要なものを見出すことも解釈の中での重要なプロセスだと思います。


なお、感覚統合療法をASD(自閉症スペクトラム)児に適用しようとする際に次のような点にご留意いただきたいと思います。
① 感覚統合療法はASDそのものを治すものではない。
② 感覚統合療法がASD児の社会性の障害を改善するという科学的検証はまだ十分されていない。
③ 子どもそれぞれで感覚統合療法の必要性・効果は異なる。
④ 他の教育や指導の併用が必ず必要である
⑤ 感覚統合理論を正しく理解した療法士(セラピスト)から感覚統合療法を受けるべきである。


このように、まずは環境を構造化し、PECSやソーシャルストーリーズなども併用しながら、子どもたちに働きかけようとされています。


一見遊びに見えるような(感覚統合療法は子どもには遊びと認識されるような、楽しいものでなければいけないそうです)アプローチ、ブランコで揺れながらボールを投げたり、小麦粉粘土をこねたりするようなものの中に、感覚処理障害のアセスメントを元にしたはっきりしたねらいがあります。本書では、たくさんの実際の写真とともにその解説が載っていますので、「あぁ、こういうことだったのか」と改めて納得することも多いと思います。
また、感覚刺激を好子(正の強化子)として使って社会性を高めようとする、応用行動分析的な手法は学校や家庭で、遊びを通して取り組めるものだと思います。


もうひとつ、本書の中で岩永先生が強く訴えられているのは、ASD児たちがこうした感覚処理障害で苦労して生きているということを、特に学校の先生方も理解しておいてほしい、ということでしょう。
運動会のピストルや、大音量のスピーカー、蛍光灯のちらつき、偏食のため給食が食べられないなど、障害による感覚の違いで耐えられないケースがあるということです。


私は特別支援教育の巡回相談員として活動する中で、学校の先生方にASD児の感覚過敏は神経の発達が違うために起こるもので、鍛えれば良くなると考えるのは危険であること、特別な配慮をしないと他の子どもと同じように教育を受ける態勢ができないということを伝えてきました。
先生方の多くは、説明するまでASD児の感覚過敏を刺激に慣れさせれば良くなるものだと思っていました。不快な刺激にも耐えられるようにならなければだめだと思っている方も少なくありません。そして、多くの方は嫌な刺激を遠ざけようという発想をもちません。
やはりASDの特性を知る人が、先生などASD児に関わる人に感覚過敏に関する理解と適切な対応を求めていく必要があると思います。


そうですね。ただ、岩永先生のような巡回相談員の方がおられない場合、「ASDの特性を知る人」は親しかいない地域もあると思います。先月の会報でお知らせしたように、事務局のある赤磐市では、育てる会が「あかいわ発達障害支援センター」の委託を受けられましたので支援に伺うことはできるようになりましたが、残念ながら赤磐市からの委託事業のため、市内の学校・園だけです。

夜間の即実践連続講座には、毎年100人以上の先生方が通ってこられていますので、興味を持ってくださりそうな先生がいらっしゃったら、ぜひ誘ってみてください。


それもだめなら・・・本書をお渡しして読んでいただくのもいいと思います。


前半の解説部分には少し専門的な言葉も出てきますが、内容的にはわかりやすい入門書だと思います。


          (「育てる会会報 145号 」 2010.5)


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目次


 はじめに


第1章 感覚処理とは


第2章 自閉症スペクトラム児の感覚調整障害


   1 感覚調整障害とは
   2 感覚処理の段階
   3 ASD児における感覚刺激に対する行動反応異常
   4 ASDの程度や症状と感覚の問題の関係
   5 ASD時・者からの感覚の問題に関する報告
      1)感覚過敏に対すること
      2)感覚刺激の取捨選択が難しい
   6 感覚調整障害は年令が上がると変化するのか
   7 感覚調整障害についての考察
      1)感化刺激に対する低反応
      2)感覚探求
      3)感覚刺激に対する過反応


第3章 自閉症スペクトラム児の感覚識別機能の問題


   1 体性感覚の識別能力の問題
   2 前庭感覚の識別能力の問題
   3 聴覚情報の識別能力
   4 感覚の鋭敏さが見られることがある


第4章 自閉症スペクトラム児の運動面の問題


   1 姿勢運動の問題
   2 プラクシスの問題
   3 時間的要素が含まれるプラクシス、全身の協調運動の問題
   4 手の運動の問題
   5 眼球運動の問題
   6 単純な運動には問題がないこともある
   7 運動面の問題に対する考察


第5章 感覚・運動面のアセスメント


   1 感覚識別機能のアセスメント
   2 感覚機能と関係する運動機能のアセスメント
      1)プラクシス・協調運動のアセスメント
      2)姿勢運動機能のアセスメント
      3)運動麻痺の確認
   3 感覚調整障害のアセスメント


第6章 感覚処理障害のアセスメントから支援計画までの流れ


   1 A君の基本情報について
   2 感覚処理に関するアセスメント
   3 A君の感覚処理の問題の分析・解釈から支援へ
      1)感覚識別と姿勢運動・協調運動・プラクシスの問題
      2)感覚調整の問題
      3)その他の問題
   4 感覚統合の視点に立ったアセスメントと支援についてのまとめ


第7章 感覚統合の問題と姿勢運動・プラクシスの問題に対する感覚統合療法


   1 感覚識別能力の低さへのアプローチ
   2 姿勢運動の改善
   3 プラクシスや協調運動の改善
      1)身体図式を育てる活動
      2)プラクシスの能力を育てる課題
      3)協調運動、時間的要素が入ったプラクシス能力を育てる課題
      4)眼球運動を育てる課題
   4 感覚統合を用いる際の注意点


第8章 感覚調整障害に対する訓練室でのアプローチ


   1 低反応に対するアプローチ
      1)繰り返し刺激を与え反応性を高める
      2)刺激への注意を高める
   2 感覚探求行動に対するアプローチ
      1)感覚欲求を充たす
      2)自傷行為や常同行動に対して
      3)感化串柿を与えるときの制限作り
   3 過反応に対するアプローチ
      1)神経系の問題によって感覚知覚閾値が低いなど感覚知覚そのものの問題
      2)情動面の問題、感覚刺激の解釈の問題
      3)刺激への注意のコントロールの問題に対して
      4)感情表出の問題


第9章 感覚調整障害のある人の生活支援


   1 環境調整
      1)物理的環境からの感覚刺激
      2)他人から与えられる刺激のコントロール
      3)周囲の人に理解してもらうこと
   2 感覚過敏のある子どもへの働きかけ
      1)感覚刺激に対する防衛手段
      2)ASD児本人が周囲の人に説明するスキルを身につけること
      3)不快な刺激から注意をそらすスキルを教える
      4)ソーシャルストーリーを使って感覚刺激について教える
      5)感覚過敏反応が起こったときの反応スキルの獲得
      6)防衛手段を提供する際の注意点
   3 センソリーダイエット
   4 自閉症スペクトラムの人の情緒の安定・楽しみのために感覚刺激を使う
      ~スヌーズレンを参考に~
        スヌーズレンに関する詳しい情報


第10章 感覚統合療法の効果


   1 感覚統合の日本での広まり
   2 感覚統合療法の広まりとその効果に対する批評
   3 これまでの感覚統合療法の効果研究
      1)ASD児に対する感覚統合療法の効果
      2)感覚刺激を使った介入アプローチの効果
   4 感覚統合療法を受けた高機能ASD児の感覚‐運動面、言語面、認知面の変化
   5 感覚統合療法の効果についてのまとめ


第11章 体性感覚刺激を使ったコミュニケーション指導


第12章 身体の感覚刺激を好子(正の強化子)として用いる


   1 感覚刺激を好子として用いる
   2 活動の例
   3 事例紹介
        事例B


第13章 特別支援教育における感覚処理障害への理解と対応


   1 ASD児の感覚面の問題と学校生活における問題
      1)聴覚系に関する問題
      2)視覚系に関する問題
      3)触覚系に関する問題
      4)嗅覚・味覚に関する問題
   2 ASD児の運動面の問題と学校生活における問題
      1)姿勢が悪い
      2)疲れやすさ
      3)細かな手作業が苦手
      4)文字を書くことが困難
      5)球技が苦手


第14章 学校の中での感覚統合指導


   1 学校教育の中に感覚統合指導を取り入れることの利点
      1)頻度を多くすることができること
      2)学習や行動への波及効果を確認しながらできること
      3)感覚統合指導の長期的効果だけでなく、即時的効果を使えること
      4)他の先生方に子どもの感覚統合の問題について理解してもらえること
   2 学校における感覚統合指導の実際
   3 先生が実感している感覚統合指導の効果


第15章 医療行為における感覚面への配慮 ~歯科治療における配慮~


   1 歯科治療において感覚過敏が引き起こす問題
   2 感覚過敏のために治療が困難なASD児への対応
   3 感覚過敏などのために通常の方法での歯科治療ができないASD児に対して


 おわりに


   索引
   著者紹介

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